奥様の名前は令。
そして、旦那様の名前は由乃。
ごく普通の二人はごく普通の恋をし、ごく普通のスールの契りをしました。
でも唯一つ違っていたのは、
奥様はマゾだったのです。
「ただいま、令ちゃん」
「おかえりなさい、由乃」
何故か島津家に入り浸っている令さまがお玉を片手に出迎えました。
受験勉強はいいのでしょうか。
「定期健診大変だったでしょう。食事にする? お風呂にする? それとも、……キャッ!」
「れ〜〜い〜〜ちゃ〜〜〜〜ん?」
由乃さんは最近令さまが前以上にヘタレてきていると感じていました。
さらにこういう妄想に浸り始めると、その妄想において結婚して二人に子どもができるあたりまで進まないと絶対に帰ってこないのです。
だから、妄想に浸り始めた令さまを見て由乃さんはとりあえず傘と一緒においてあった『めっさつ竹刀 弐式』で突っ込みを入れてあげることにしたのは自然の成り行きであるに違いありません。きっとそう。
「ふう。やっぱり仕事の後にひと汗かくのは気持ちがいいわね」
「デスクワークばかりだと、運動不足になっちゃうものね……グフッ」
何故か時計が30分ほど進んでいますが気にしないでおきましょう。
赤いものがそこら中に飛び散る玄関には、なにやらすっきりした由乃さんと、ボロボロなのにもかかわらず恍惚の表情を浮かべる令さまの姿がありました。
「最近文化祭の関係で部活出れてないから、みんなに迷惑かけてるわー……」
こんな状態でも人の心配を忘れない令さま。
しかし奥様である由乃さんは嫉妬深いのです。
だから彼女の前で令さまが他の女性のことを考えるのは調ky……げふんげふん、教育の対象となるのです。
あぁ、だんだん由乃さんの肩の震えが激しくなっていきます。
俯いた顔から覗く視線に暗い光がともります。
それでも由乃さんはお年頃の女の子ですから、はしたない真似はしたくないので我慢します。
「そうだ、ちさとさんにも一度お礼しないとなぁ。この前クッキー差し入れてもらったし……」
ぷちん
あーぁ、やっちゃったw
「令ちゃんの」
振りかぶる『めっさつ竹刀 弐式』
目標はこちらに気づいて期待に胸を膨らませる馬鹿従姉。
「バカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」
それでも二人は仲良しなのです。
だって、お互い本当は大好きなんですから。
(おしまい)