【1878】 明日へ続く  (オキ&ハル 2006-09-25 07:05:20)


もちもちぽんぽんしりーず外伝?

これ―【No:1868】―【No:1875】




キャッキャッと子供たちは走り回る。
日陰に入ることも無く、高い位置にある太陽の下をゆく園児たちはみんな笑顔だった。
たまに保育士の先生も入り混じりながら、今日のリリアン幼稚舎もいつもと同じような日々。
そんな時、一人の少女が鬼ごっこの鬼から逃げていた一人の少女に駆け寄った。
しばらく話した後、一人の少女は倒れこんでしまう。
それに気付いた先生はあわてて倒れて少女に駆け寄った。
『貧血』と判断した先生は、急いで日陰に運んでゆく。
駆け寄った少女は心配そうな顔をしていた。



これは『榎本桂』と『福沢祐巳』と『武嶋蔦子』の始まりの話



私、榎本桂は、父親の都合で卒園とともにリリアンを離れることになった。
別れるとき、涙を流してくれた友達もいた、花をプレゼントしてくれた人もいた、「ずっと友達だからね」と誓い合った友達もいた。





月日は流れて、私はリリアン中等部に入学した。



入ってすぐに中等部に行けることが分かってわくわくした気持ちは飛んでいった。
誰も私のことなんて覚えてなかった。
無理もない。
6年も会ってないし、私だって覚えてない人がいたのだから。

私は仕方の無いことだと割り切って、努めて学園生活に埋没していった。


そして一年が過ぎ、2年生となった。



クラス替えのために荷物を持って新しいクラスに移動すると、隣の席には既に人が居た。
お互い目が合うと、お互いに「ごきげんよう」と挨拶した。
「えーと、福沢祐巳です。よろしく。」
「榎本桂です。こちらこそ。」
私が自己紹介をすると、彼女はとても驚いたような顔をした。
私が不審に思って尋ねると
「ねえ、桂さんって幼稚園どこ?」
「え?リリアンだけど?」
いきなりの質問にとりあえず答える。
「うわー私同じクラスだったことがあるんだけど覚えてないかな?」
ツインテールをぴょこぴょこさせながら、嬉しそうに聞いてくる。
「うーーーん、ちょっと思い出せないわ。ごめんなさい。」
「そうだよね。」
さっきとはうってかわってツインテールまでしゅんとしている。
まるで犬のようだと私は思った。

それでも隣の席だということもあって何とはなしに話していると、そこそこ仲も良くなった。
数日して本格的に授業が始まると、気付いたことがあった。
お昼休み、給食ではない中等部ではクラス入り混じりになって各自好きなグループで食べているのだけど、祐巳さんはいつも眼鏡の子と二人で食べていた。
多少興味を持って見ていると、一緒に食べていた友達が名前を教えてくれた。
『武嶋蔦子』


彼女が噂の『盗撮魔』だと。

噂だけなら聞いたことあった。
最近では休日や放課後のクラブ活動に、時に祐巳さんと二人で顔を見せるらしい。

そして友達は、とても親切に教えてくれた。
「あの二人、祐巳さんと蔦子さんには近寄らないほうが良いよ」と。

私は友達の言うとおりにし始めた。
祐巳さんが話しかけてきても早々に打ち切り、前後の子や祐巳さんの席とは反対の子とばかり話すようになっていった。

祐巳さんは苦笑いを浮かべていた。



そんな日常がしばらく続いたある日、私は先生に言われ使い終わった資料を返してくるように言われた。
その目的地の教室は、教室のある校舎の隣の校舎で、私は心の中で文句を言いながら資料を返しに行った。
その帰り道、思い立ってトイレに寄ることにした。
その校舎は特別な授業以外使わないから、人が居ることなんて滅多に無い。
多少薄気味悪く感じながらも、さっさと済ませようと個室に入った。

用を済ませ、出ようとすると聞き覚えのある声に出るのを躊躇う。

「これでT先生はオッケーっと。」
「これでほとんどだね。」

話の意味は分からないけど、間違い無く祐巳さんと蔦子さんだった。
声が動かないところからして、どうやらおしゃべりに来たようだ。
なんでわざわざこんなところまで。

「もうすぐね。」
「大丈夫だよ、蔦子さんの腕は私が保証するもの。」
「祐巳さんが言ってくれると心強いわ。」
「そういえばこの前言ってた、桂さん?だっけ、どうなった?」
「うーん、私がなんか言っちゃったんじゃないかな〜。」

2人に聞こえるくらいドキッと心臓が鳴った気がする。
声の出そうになる口をとっさに押さえた。

「ねー、祐巳さん。」
「ん?」
「・・・ごめんね。」
「・・・蔦子さん、私は蔦子さんのファンなんだよ。ファンの前でそれは無しだよ。」
「・・・うん、ごめん。」
「その『ごめん』なら良いや。それに桂さんなら大丈夫だよ。」
「ほー、ずいぶんな自信ね。」
「幼稚園が一緒だったの、向こうは覚えてなかったけどね。」
「そりゃまた。」
「仕方ないよ、私なんて普通で目立たないし。それでね、クラスに一人くらいリーダー格の子って居るじゃない」
「まあ、居るわね。好かれてるか嫌われてるかはそれぞれだけど。」
「うちのクラスの子は嫌われてたの。でも、先生受けとか良くてね、取り巻きとかも居たの。」
「そんなもんよね。」
「ある日、その子が貧血で倒れたの。ざまぁみろって、思った。」
「私だってそう思うと思うわよ。」
「でも、桂さんは倒れる前に駆け寄ったの、で、ずっと心配そうにその子を見てたの。あれ以来、桂さんは私の目標なの。」
「具体的に言うと?」
「人をね、区別しない。私が思ったならやる。って。」
「・・・さすが祐巳さんだわ。」
「?どーゆーこと?」
「桂さんとまた仲良くなれるかもね。」
「うん、頑張る。」
「さて、行こうか。」
「うん。」

そして、2人の出て行く音がした。


私は次の時間とその次の時間、熱っぽいと嘘をついて保健室に行った。
このまま教室には行きたくなかった。



白い天井を見上げ、当時のことを思い出す。

彼女の言ったことは覚えている。


「美恵ちゃん、体調おかしくない?」
「別に平気よ。それより早く退きなさいよ。鬼が来ちゃうじゃない。」
「だって、顔色おかしいよ。」
「平気だってば、退きなさいよ。」
そう言って私のほうに伸ばした腕は、私に触ることは無かった。



思い出す。



騒ぎになる中で、私はただ立っていたことを。
自分の言葉が届かないことを。
数日後、今思えば照れ隠しなのか、私に対してのあの子からの風当たりが強くなったことを。


あの行為は無意味だったんだと学んだことを。





私は、大人になったつもりでいたことを。







昼休みになると、私は教室に戻った。

友達だったひとは、みんな
「大丈夫?」と聞いた。
「うん。」と答えた私に重ねて聞いた。


「寝ているところを撮られなかった?」


まるで祐巳さんに聞かせるように。




私が自分の席に戻ると、祐巳さんも聞いた。
「大丈夫?」と。
私は「うん。」と答えた。
祐巳さんは重ねて言った。


「良かった。私、心配してたの。」



「ノートとったけど、見る?」
そう言う祐巳さんに「ありがとう。」と言った後、私は言った。





「一緒にお弁当食べていい?」



「もちろん。」

祐巳さんは満面の笑みで迎えてくれた。




初めて一緒に食べた次の日
「これ要る?」
そう言って蔦子さんから手渡されたのは使い捨てカメラ。
「なにこれ?」
「ほら、机とかに何かされたらすぐ証拠写真取れるでしょ?蔦子さんのアイデアで私も持ってるの。」
祐巳さんは、そう言って机の中から同じようなカメラを取り出した。
「さすがにここでは、直接的なことはしないだろうから、一応防犯用にね。」
蔦子さんはそう言いながら、細めの黒マジックを取り出した。
「何する気?」
「カメラに名前を書いてもらうの。さすがに私のはシールだけど。」
「私が言ったの。その方が、身近にいる気がしない?」
2人は私にそれを見せてくれた。

蔦子さんのカメラには白いシールに黒マジックで『福沢祐巳』
祐巳さんのカメラにも黒マジックで『武嶋蔦子』

「ほら、書いて書いて。」
そう言って黒マジックを渡される。

「終わったら、私のにも書いてよね。」
「「もちろん。」」
被った声に三人で顔を見合わせて笑った。










高校生になった今も机の中にそのカメラは大切にしまってある。

そして、時々眺めるのだ。



黒いマジックで書かれた『福沢祐巳』と『武嶋蔦子』の文字を。










後日談

いつものように3人でお昼を食べていると、
「武嶋蔦子さんはいるかしら?」
教室の入り口から声がした。
その声の主を見ると、祐巳さんと蔦子さんはガッツポーズをした。
「はいはい、なんでしょう?」
「あの方、知ってるの?」
話についていけない私は、残っている祐巳さんに説明を求めた。
「あの方はバレーボール部のキャプテンさん、だと思う。」
「なんでまた?」

祐巳さんによると、
今の状況を打破して、蔦子さんの腕前を知らしめるために3年生に認めてもらおう。という祐巳さんの案で、休日返上で写真を撮って、引退試合の写真や卒業アルバムの写真撮ります。と、各部の3年生や、先生方に売り込んだらしい。
もっとも、交渉や名前、顔を覚えるのが得意でない祐巳さんは、ほとんどついて行くだけだったと言っていたけど。


「はー、すごいね」
「そう。蔦子さんはすごいんだよ。」

教室の入り口に目をやれば先ほどのキャプテンのほかにも、色々な部活の人や顧問らしい人が来ている様だった。


スケジュール帳にメモをしながら戻って来る蔦子さんとそれを迎えた祐巳さんが笑いながら握手する姿は、素直にうらやましいなと思えた。






たとえ、こんなの都合良過ぎだよ。と言われても、私がこの2人に会えて良かったと思えるんだから、こんな偶然あっても良いよね?







隠されていた3人の仲が明らかになりました。(嘘)桂さんの名字が意外と反響があったので、話をつくってみましたが上手く出来ていると嬉しいな。(オキ)
この作品は、常に行き当たりばったりなので、微妙な食い違いは許してください。(ハル)


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