【1902】 ガールミーツガール  (オキ&ハル 2006-10-07 05:07:35)


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令を蓉子に、由乃を祐巳に。
性格はいじらない。







「でね、桂さんったら・・・」
先日、リリアン中等部を卒業した私、福沢祐巳は数週間後に始まる高等部の生活に胸躍らせながら春休みを過ごしていた。
「じゃ、またね。」
「うん、じゃあね。」
別に宿題があるわけじゃないから、今日も蔦子さんとK街に行ってきた帰りだった。
日ももう落ちかけていて門限が近いことを知らせる。
駆け足気味で家の門を通り抜けると玄関のドアノブを掴む。
(今日の夕飯は何かな?)
「ただいまー。」
玄関に入ると
「あれ?」
見慣れているけど、本来此処にあるべきではない靴がある。
「おかえり、祐巳ちゃん。」
何故かいつもならしないのに、今日に限ってお母さんが出迎えてくれた。
「あ、うん、ただいま。よーちゃん来てるの?」
土間にある靴は、隣に住む従姉妹の水野蓉子の靴だった。
同じ靴なんていくらでも出回っているけど、そこは血の力とでも言うのかなんとなく分かる。
「そうなのよ、ほら、早く。随分と待ってもらったんだから。」
私を追い立てるお母さんは、言ってることとは裏腹に何故か笑っていた。
「何かあったの?」
疑問に思ってたずねても笑うだけで「秘密。」と言うばかり。
「ちょっと祐巳ちゃん、何処行くの?」
「どこって、荷物を置きに2階に。」
普通帰ってきたら、荷物くらい置きに行くでしょう?
何故かお母さんはそんな常識ぶっ飛ばして、私の手を引いてリビングに向かう。
「今日は良いの。早く早く。」
「わっ、行くから。だから、引っ張らないで。」
どたどたしながらもリビングのドアを開けると
「おかえりー。」
よーちゃんがソファでお茶を飲んでいた。
「ただいまー。なんかあったの?」
お母さんのほうを見ながら言うと、お母さんは「用事がある。」と言って部屋を出て行った。
「んー、正確に言うとこれから起きるのかな?」
ますますもって意味が分からない。
因みに、よーちゃんというのは小さい頃よーちゃんのお母さんが「蓉子の蓉は芙蓉の蓉なのよ。」と言ったのをよーちゃんがそのまま私に言ったので、ただ音だけでよーちゃんと呼び始めた。・・・らしい。
「?どーゆーこと?」
「まぁいいから、祐巳も座ってよ。」
自分の座っていたところから少しずれた。
隣に座れと言うことだろうか。
とりあえず、そこに腰を落とす。
「でね、話なんだけど、祐巳高等部にあがるでしょう?」
「うん。」
「それで、





祐巳をスールに誘いに来たの。」


「え?」
―――パーン、パパーン―――
私の声と何かの破裂音が重なった。
びっくりして周囲を見ると、何処に隠れていたのか、それぞれの両親、私の祖母に弟、よーちゃんの祖父母が出てきた。
何故か皆の手にはクラッカーが握られている。
「祐巳ちゃん、今日はお祝いよ。中華屋さん予約してあるから急いで車に乗ってね。」
「母さん、急いで準備しなよ。」
「はいはい。」
なんだこれは?
「祐巳おめでとう。」
そう言って弟に肩をたたかれた。
と思えば、何故か父親同士が、涙目でカメラを回している。
しかも、何故か両方とも最新式のやつなんだけど、わざわざ買ってきたんだろうか?
なんなんだこれは?
しかも、祖母達は口々に
「おめでとう。」
「蓉子をよろしくね。」
「長生きして良かった。」
「冥土の土産が出来た。」
そう言って、かわるがわる握手を求めてくる。
許されるなら、昔の某ドラマのGパンを穿いた刑事のように叫びたかったが流れで何も言えない。
とりあえず、「ありがとうございます。」「頑張ります。」と返事を繰り返す。
ちらりと横のよーちゃんを見ると、こっちに気付いてちらりと舌を出した。
ここでやっと気付く。
外堀が完全に埋められたどころか、山になっていることに。
向こうでは、父親同士が泣きながら、私とよーちゃんの昔の思い出を語り合っている。



とりあえず、誰か私が何も言ってないことに気付こーよ。






結局、そのままに中華を食べに行ったのだけど、店の人はさぞ驚いたことだろう。
一番年下の私たちが上座に座り、一番年上の人が泣きながらジュースを注いでいるのだから。


「ねえ、お母さん、帰りは祐巳と歩いて帰りたいんだけど良い?」
食事も終わり、男性陣は、一人残らず生きる屍と化してタクシーに投げ込んである。
普段お酒を飲むとこなんて見たことが無いお婆ちゃんですら飲んでいた。
「ほら、防犯ブザーも持ってるし。」
よーちゃんはポケットから紐のついたおもちゃみたいなものを取り出した。
「まぁ、近いから良いかしら?」
お母さん同士で話し合うと、どうやら了承らしい。
「その代わり、真っ直ぐ帰ってくるのよ。」
釘をさすのも忘れずに。
「解ってるわよ。ねぇ?」
「あ、うん。」
突然の振りに慌てて首を縦に振った。




「・・・よーちゃん、ずるい」
時間はまだ8時くらい。
今まで熱狂的な場所に居たから、外の風が気持ち良い。
私は前を行くよーちゃんに不満を言った。
「あんなのずるい。」
「嫌なら言えば良かったじゃない。」
少しだけこちらを向いて答えた。
「だって、完全に私が受けたの前提だったじゃない。私何も言ってないよ。」







「・・・。」






私が話したっきり沈黙。
だんだん不安になっていく。
怒らせちゃったかな?
(妹になりたくないかと言われればそりゃなりたいけど、いくらなんでもあんなやり方はないと思うわけよ。だけどさーいや、悪いのはよーちゃんだよ。完全に完璧に。
でも、もうちょっと私も言い方に気を使っても良かったんじゃない。だって、もしかしたらよーちゃんにも事情があったりなかったり・・・)

「祐巳。」
そう言うと、家に行くには真っ直ぐなはずなところを曲がった。

「よーちゃん、何処行くの?」
私も慌てて角を曲がる。

「よーちゃん。」

「もうちょっとよ。」
その言葉を信じて黙って後をついていく。



着いた先は公園。

住宅街の中にひっそりと結構分かり辛いところにある公園。


「此処がどうしたの?」

「小さい頃ここでよく遊んだでしょう?」

「うん。」

ブランコ、滑り台、ままごと、鬼ごっこ

「ずっと羨ましかったわ。」

「何を?」

「姉妹って同じ家に帰れるでしょう?」

「・・・うん。」

言っていることがなんとなく解った。

私たちは他人じゃない。

でも、家族でもない。

だから、最初から持っていた温かさでは物足りなくなってもどうすることも出来ない。


「もし、祐巳のことを妹だって言えるならこんな嬉しいことはないわ。初等部にこの制度を知ってから、ずっとこの日を待っていたの。」

「でも、あんなことしなくたって。」

よーちゃんはかぶりを振った。

「私は、臆病なの。」

「そんなことないよ。いつだってよーちゃんはかっこよかった。成績優秀で、生徒会長で。私の憧れだったもの。」

「くすっ、見て。」

そう言うと、よーちゃんは手のひらを私に見せた。
それは、細かく震えていた。

「ここ一週間くらい、まともに眠れなかったわ。




私はいつだって、




祐巳にかっこいいところを見せたくて虚勢を張っていたのよ






そばに居なくたっていい








ねぇ祐巳






私の妹になって」












月の光の中に立つよーちゃんはとても弱弱しく見えた。






私は無言でよーちゃんの手を握る。









きっと私は笑っていた。



「帰ろう、『お姉さま』」



「ええ。」





月の下





公園から家に帰る私たちは




確かに姉妹だった。









今回のもちもちぽんぽんがなんか不完全燃焼だったので。思い付きですね。(オキ)
もっと、伏線とか入れたかったな。ただ、最初のほうは楽しかったです。(ハル)


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