【1915】 明日への切符  (オキ&ハル 2006-10-11 05:56:54)


もちもちぽんぽんしりーず。
【No:1878】―【No:1868】―【No:1875】―【No:1883】―【No:1892】―【No:1901】―これ



ビスケット扉を開けると既に人がいた。
「ごきげんよう、聖さま。」
「ごきげんよう、祐巳ちゃん。」
窓に腰をかけて何かを飲んでいる姿は、まるで一枚の絵のようだった。
匂いからしてコーヒー?
「そっちにあるもの適当に飲んでいいよ。」
視線で流しのほうを示すとまた外に目を向けた。
私は少し考えた末にインスタントのコーヒーにする。
がさごそと棚を漁って見つけた砂糖とミルクを入れると、部屋に満ちていた匂いと微妙に違う匂いが混ざりだす。
「ねぇ祐巳ちゃん、一つ聞いて良い?」
聖さまの方を見るとこちらを向いていた。
「はい、なんでしょう?」
「蓉子のどこが気に入って妹になりたいの?」
「え?えーと、かっこいいし、頭も良いし、うーん、でも、そういうんじゃなくて。」
腕まで組んで考えたけど、はっきり答えが出ない。
「うーーーーーーん。」
「そんなに大げさに考えなくて良いよ。」
苦笑いされてしまった。
「蓉子はいい子だからね。頼りになるし、真面目だし。・・・どうしたの?」
「あ、す、すいません。蓉子さまのことを知ってる人の言葉だったので。」
「?妹になりたいってくらいだから、祐巳ちゃんのほうがよく知ってるはずでしょ。」
「いえ、ほとんど知らないんです。」
「?初めて会ったのはいつごろ?」
「この前ここに来たので二回目です。」
「それだけ?」
「はい。」
我ながら変わってると思うけど、聖さまは驚いた顔をした後声に出して笑った。
「すごいね。」
「すごい・・・ですか?」
変わってるとは思うけど。
「だって、お互い一目惚れってやつでしょ。」
「一目惚れかぁ。そうなのかな?」
ドラマや本では見るけど、実際にその身になってみると気付かなかった。
そもそも、妹になりたいなんて最初から諦めていたかもしれない。
何の取り柄もない自分は普通に高等部を過ごすのだと、どこかで思っていた。
「それに妹になれるかも、なんて思ったことなかったですから。」
「へー、なんで?」
「何の個性もない私を必要としてくれる人なんているのかなって。」
「・・・。」
私の言葉に聖さまは変な顔をした。
「どうしました?」
おかしなことを言っただろうか?
「ん、いや、以前似たような言葉を聞いてね。それより、愛しの人が来るよ。」
「え?」
―――がちゃ―――
「ごきげんよう。」
入ってきた蓉子さまに私と聖さまは挨拶を返す。
「なんか、珍しい組み合わせね。」
「何をお飲みになられます?」
流しに向かう私に蓉子さまは驚いて、そして笑う。
「あら、出来るようになったのね。えらいわ。」
私の頭を「良い子良い子。」となでた。
聖さまの前だというのに。・・・・・・嬉しいんだけど。
「楽しそうね。蓉子サン。」
「ええ、楽しいわよ。聖サン。」
聖さまの皮肉交じりの言葉に蓉子さまはなんでもないように返す。
「・・・私ちょっと下の様子見てくるわ。祐巳ちゃん、これ洗っといてくれる。」
「あ、はい。」
少し沈黙の後、椅子を鳴らして聖さまは立ち上がった。
蓉子さまの言葉に気を悪くしたのだろうか。
おろおろする私を尻目に、聖さまは扉に向かう。
―――がちゃ―――
「良いのよ。」


蓉子さまの言葉。


「羨ましいだけなんだから。」
―――がちゃん―――












部屋を出ると、佐藤聖は髪をかきあげて天を仰いだ。






「見抜かれてる。・・・・・・か。」











その日は衣装合わせの日だった。
「可愛い可愛い。」
黄薔薇さまの言葉は嬉しいのだけど・・・
「本当ですか?」
さすがにシンデレラ、話の主人公だけあってドレスも煌びやか。
ただ唯一の問題は着ているのが私ということだろうか。
紅薔薇さまは私をくるりと一周させる。
「身長は同じくらいだったから丈は大丈夫のようだけど・・・。」
採寸は作業を考えて、夏休み前に行った。
で、夏休み前のシンデレラ役は志摩子さんだった。と、いうことは
「そうね、丈は大丈夫ね。・・・」
2人の視線は私の胸元に向けられている。
(うーーーー、しまこさん〜〜〜〜。)
腰周りはきついくらいなのに。
「タオルかなんかない?」
黄薔薇さまの言葉後ろに控えていた方々が、何かないかと動き始める。
しばらくして手渡されたタオルをくるくると丸めて押し込まれた。
「うーーん、なんか形がな〜。」
「そうね、もうちょっとあればね。」
(うーーー、しーーまーーこーーさーーんーー。)
「黄薔薇さま、これなんていかがでしょう?」
「ん?」
そう言って手渡されたのは
「肩パットなんですけど、上げ底ブラにも使われているらしいので。」
「ありがとう。」
「なんでそんなこと知ってるの?」やら「使ってないわよ。」という喧騒の中、目出度く小道具が一つ決定。
「さて、祐巳ちゃん。」
「なんでしょう?黄薔薇さま。」
黄薔薇さまは、にっこり笑った。
「蓉子ちゃんに見せに行く?」
「え、え、え、え、え?い、い、い、い、いえ結構です。」
正直に言えば見てほしかったけど「見てください。」なんて恥ずかしすぎる。
どうせ志摩子さんに似合うように作られたドレスなのだから。
「その心遣いは無用よ、令。」
紅薔薇さまはキッパリハッキリおっしゃった。



「むこうから来たわ。」


「え!?」
紅薔薇さまの視線を追うと
「あら、似合ってるわよ。」
魔法使いの格好をした蓉子さまが近づいてきた。
「あ、ありがとうございます。」
何故かお礼を言ってしまう。それも頭まで下げて。
「そんなに照れることないのに。」
そうは言ってもなってしまうものは仕方ないわけで。
照れ隠しのつもりで私は言ってしまった。


「いえ、蓉子さまが着たほうがお似合いですよ、きっと。」



時が止まった。


「ねぇ、もうちょっと時間をいただいてもいいかしら?」
優しく微笑むような紅薔薇さまの言葉に、手芸部の方々は頬を赤く染めて「ええ。」と返事をした。
それをきっかけにしてか、黄薔薇さまは私に後ろに回る。
「え?」
「静。」
「解っているわ。」
白薔薇さまが蓉子さまを後ろから抱くようにして現れた。
「えーと、お姉さま?」
怯えた声を出しながらも身動きすることは出来ない。



「蓉子、脱ぎなさい。」



「は、話せばわかりますから。」
焦っている蓉子さまの後ろから白薔薇さまが肩越しに顔を出した。
「ねぇ、祐巳ちゃん?」
「はい?」


「蓉子ちゃんのシンデレラ姿見たくない?」
笑顔でそう聞かれた。


そんなの決まっている。
「見たいです!・・・・・・あ。」


即答してから気付いた。
「ほら、愛しの祐巳ちゃんもああ言ってるわ。」
紅薔薇さまの手が伸びる。
「祐巳ちゃん!!」
「・・・ごめんなさい。」
手遅れながら謝った。
「じゃあ祐巳ちゃん、ファスナー下ろすから動かないでね。」
「はい、ありがとうございます、黄薔薇さま。」

『お姉さま、自分で出来ますから!』
『良いから、黙ってなさい。』

「あ、踏まないようにゆっくりね。」
「あ、はい。」

『あら、思ったよりはあるのね。』
『お姉さま、変なところ触らないでください!』

「祥子、ドレス。」

『ありがとう。』
『蓉子ちゃんって、肌すべすべね。』
『白薔薇さま、それは脱ぐ必要ありません!!』

「とりあえず祐巳ちゃんは蓉子ちゃんのローブを着てようね。」
「はい。」

しばらくして、蓉子さまはシンデレラのドレスを着ていた。
「わぁ、とてもよくお似合いです。」
「・・・・・・ありがと。」
蓉子さまは何故か涙目だった。
「で、蓉子着てみてどう」
「えーー、胸元がきつくて腰周りがゆるいです。・・・どうしたの、祐巳ちゃん?」
「・・・いえ、なんでもありません。」
うずくまって床にのの字を書きたくなった。
「さて、遊ぶのもこれくらいにしましょう。」
白薔薇さまの声に周囲がわたわたと動き出す。
私ももう一度来て、細かいところを直さなければならない。
びくびくしながらドレスを脱ぐ蓉子さまを薔薇さま方は笑いを押し殺した様子で見ていた。

衣装合わせが終われば、今度は薔薇の館で劇の練習。
私は隣を歩く蓉子さまを見ていた。
(もっと可愛ければよかったのに。)
別に私に非があるわけではないが、ため息が出そう。
じっと見ていた視線に気付いたのか、蓉子さまはこちらを向く。
あわてて顔をそらそうとすると、耳元に顔をそっと寄せて来て耳元でささやいた。


「とても可愛いと思ったわ。」
音が出そうな速さで首を回すと、軽く笑ってまた前を見始める。

(わ、わ。)
急にどきどきしてきた。
黄薔薇さまに言われてもこんな風にはならないのに。


少しだけ、蓉子さまに寄り添った。






文化祭まで一週間をきった。
今日は数少ない、体育館で練習できる日。
そして、花寺学院からお手伝いが来る日。
黄薔薇さまは時計を見ると少し離れたところに居た白薔薇さまに話しかけた。
「ねぇ、そろそろじゃない?」
「そうね。」
白薔薇さまに皆の視線が集まる。
「だれか校門まで迎えに行ってもらえないかしら?」
「はい。」
私は手を上げた。
優秀でないところは、こーゆーことで埋めなければならない。
「祐巳ちゃんは良いよ。お姫様は迎えるものって相場が決まってるから。」
黄薔薇さまに止められてしまった。
「じゃあ、志摩子ちゃん行ってきてくれない?」
「はい。」
白薔薇さまの言葉にうなづくと部屋を出て行く。
(・・・お姫様か。)
話によれば、頭良し、顔良し、家柄良しのすごい人らしいのに、会いに来る相手が平凡な私ってのが。
なんともおかしな話だこと。
不安になって蓉子さまの方を見れば、目だけでこっちを見ている。
表情から読み取ったのか、少しだけ笑うと声に出さずに「めっ!」と、私をたしなめた。
自信を持ちなさいということだろうか。
私は小さくファイティングポーズをとると、首を縦に振った。
「・・・私、先に行って舞台を見てくるわ。」
今まで一言も話さなかった紅薔薇さまは、返事も待たず部屋を出て行く。
黄薔薇さまは小さくため息をつくと、気を取れなおしたのか私の方を見た。
「祐巳ちゃん、茶の準備してくれる?」
「あ、はい。」
私は席を立った。

しばらく後、志摩子さんが花寺学院の方を連れて戻ってきた。
「はじめまして、『柏木優』です。今回はよろしくお願いします。」
軽く頭を下げて挨拶をする振る舞いが、まるで本当に王子様のよう。
黄薔薇さまが代表して応答をする。
「いえ、こちらこそ今回はよろしくお願いします。とりあえず、シンデレラの入れたお茶でもどうぞ。」
(ひぇ。)
椅子に座った柏木さんの前に紅茶を運ぶと、
「君がシンデレラ?今回はよろしく。」
笑いかけられてしまった。
「こちらこそ今回はよろしくお願いします。」
頭を下げて答えると、蓉子さまの隣に逃げ込む。
「どう思う?」
目でチラッと柏木さんを示しながら小声でたずねられた。
「んー、優しそうで良い人だと思いますけど?」
同じように小声で返す。
「お姉さまも大丈夫だと思うのだけど。」
心配そうな言葉にやっと意味を理解した。
男嫌いの紅薔薇さま。
あの人なら、そう悪くはないと思うのだけど・・・。
その後、お茶を飲みながら自己紹介をすると一同体育館へと向かう。
中へ入ると、紅薔薇さまは一人立っていた。
「はじめまして、小笠原祥子です。」
「・・・はじめまして、柏木優です。」
何故か柏木さんは少し変な顔をした。
今まで居なかった人が入った初めての練習も、セリフ、ダンスとも完璧だった柏木さんのおかげもあってか滞りなく終わった。
何か起きたのは、それから数日後。
文化祭の前日、最後の練習日だった。
前の数回と同じように行われていた練習の合間の休憩時間。
「外の空気を吸ってくるわ。」と言う紅薔薇さまに「僕も行こうかな。」そう言って柏木さんもついて行く。
私たちは、紅薔薇さまのための良い機会だと思って、特に止めもしなかった。



なのだけど、休憩時間が過ぎても2人は戻ってこなかった。


「どうしたんだろう。祥子は時間を守るタイプなのに。」

黄薔薇さまの言葉に誰も続かない。

ただ奇妙な沈黙が続いた。


「・・・探しましょう。もしかしたら紅薔薇さまの体調が急に悪くなってしまわれたのかも。」
沈黙に耐えられず声を上げた。
「・・・そうね。」
白薔薇さまが頷くとてきぱきと指示を出し始める。
2人一組になって振り分けられた場所を探し30分後にここに集合と決めると、各班は動き出した。
「祐巳ちゃん。」
シンデレラのドレスのまま走り出そうとしている私の後ろから白薔薇さまの声。
「ありがとう。」
振り向いたときには既には自分の担当場所へと走り出していた。
私も自分の先を行く蓉子さまを追って走り出す。
「きっと助かった。ってことよ。」
小走りのまま、先の言葉を蓉子さまに伝えた。
「さっき、妙な間があったでしょ。いくら普段頼りになったところで、私たちはたかが女子高生なのよ。」
「・・・はい。」
『いろんなこと』が浮かぶ頭を軽く振って、出来る限りに急いだ。


―――やめて、離して!―――

どこかで聞いたことがある声を聞いたのは、「見た。」と言う人の話で向かったマリア像の方へ向かう最中。
紅薔薇さまは当然目立つし、柏木さんだって今は王子様の格好をしている。
多くはなかったけど、見た人は居た。
私たちが辿り着いたときには、柏木さんが黄薔薇様たちに囲まれていた。
後ろから江利子さま達のグループも見える。
「祐巳ちゃん、守衛さん呼んできて。」
黄薔薇さまのいった言葉に紅薔薇さまが少しだけ体を振るわせた。
「・・・行けません、そうするときっと紅薔薇さまが困るから。」
一度私に集まった視線が紅薔薇さまに集まる。
「・・・良くわかったわね。」
俯いていて表情は見えない。
「はい、なんとなく。」
何故かは自分でもわからない。
でも、体を震わせた姿を見たらそう思ったのだ。
「騒がせてごめんなさい。彼、柏木さん、いえ、優さんは私の従姉弟なの。そして」
私達と柏木さんの間に立ち頭を下げると、やはり俯いたまま小さい声で話し始める。
「婚約者なの。それで、ちょっと話がこじれてしまって。」
私たちは、あまりの展開にあっけにとられていた。
その中で柏木さんは、紅薔薇さまに歩み寄る。
「そうなんだ、僕たちはお互いに愛し合っているんです。今回のことは本当にすまないと思っています。」
話しながら柏木さんは紅薔薇さまの背中に手をまわし、そっと顎に空いている手を当てる。
それはまるで愛し合う2人がキスをするかのようで・・・。
―――パシィン―――
「いい加減になさって!」
走り去る紅薔薇さま。
残されたのは、頬を押さえる柏木さんと状況の掴めない私たち、そして震えていた声。
「はっ。」
とりあえず、今の状況だけ理解すると紅薔薇さまの後を追って走り出す。
前に同じように走り出そうとする柏木さん。
「駄目なんです。柏木さんじゃ。」
根拠は無いけど、柏木さんを紅薔薇さまの元に行かせたくなかった。
走ってる勢いそのままに体当たりをすると、バランスを崩したままに柏木さんは転んだ。
私は、小さくなっていく紅薔薇さまを追いかけた。

福沢祐巳が小さくなる頃、柏木優は起き上がったのだが水野蓉子がその肩を掴んだ。
「後輩が失礼しました。ところで、その衣装に銀杏の汁がついてしまったようのなですが、明日の舞台で支障があっては困りますので、急いで染み抜きをしたいので薔薇の館までいらしてください。」
笑顔でそう言った。





紅薔薇さまは、講堂の斜め脇にある目立たない温室の中に居た。
中に入ろうとすると
「誰?」
「・・・祐巳です。」
追っては来たものの何を言えばいいのかわからない。
それが今の正直な気持ちだった。
「・・・そう。」
入っていいものだろうか?
私が悩んでいると
「良いわよ、入っても。」
腰掛けている横を少し空けて人一人分のスペースを作った。
そこに座れと言う意味だろう。
そこに腰を落とした。

「・・・」
「・・・」

ただ沈黙だった。
何を言えばいいんだろう。
ねぇ、蓉子さま。

「・・・」
「泣いて良いと思います。」
「・・・」
返事は無い。



「泣いても良いとおもいます。












私たちはたかが女子高校生なんですから。」




私はそっと紅薔薇さまの背中に手を回した。

そしてゆっくりとさすった。


紅薔薇さまは私のドレスを引っ張って、胸に顔を押付けて泣き出した。



私はゆっくりと背中をさすった。


それしか出来ることは無かった。











「彼は私のことが好きじゃないの。」
しばらく泣いた後、ポツリポツリと話し始めた。
「なんて言ったと思う?結婚はしても良い。君は君の好きな人の子を生めばいい。君の子供なら、僕は愛せると思うよ。ですって。なのに、ぬけぬけと、私たちは愛し合ってるですって。私はいったい何なの。」
まるで子供のように泣く紅薔薇さま。




(きっと、柏木さんのことが好きだったんだ。)

思いながらも口には出さない。

それは、紅薔薇さまの最後のプライドだと思うから。










日も落ちきった頃私たちは薔薇の館に戻った。
既にみんな帰ったことを蓉子さまのメモで知る。
きっと、紅薔薇さまのことを気遣ってのことだろう。




明けて文化祭




結果から言うと、劇はそれなりの成功だった。












福沢祐巳がセリフを間違えた以外は。








ぱちぱちと火がはぜる。
私は少し離れた土手のところに腰をかけて、立ち上る炎を見ていた。
「終わっちゃったな。」
2週間頑張った。
・・・・・・なのにセリフを間違えてしまった。
炎を周囲でたくさんの生徒がおしゃべりをしている。
ここからでは、誰が誰だか判別できない。
もう、蓉子さまの妹になるなんて希望を持つことも無く、私もあの一員となるんだ。
きっと、それが相応しい。





泣きたかった。

自分を責めたかった。




「探したわよ。」
声とともに肩をたたかれ、後ろを振り向けば紅薔薇さま。
きっと不合格を言い渡しに来たんだ。
出そうになる涙を袖でぬぐう。
「結果はどうなんでしょう?」
これ以上、姿を見てると泣いてしまいそうだ。
「・・・結果なら、蓉子に伝えてあるわ。本人から聞きなさい。」
「わかりました。」
「ねぇ、一ついい?」
「はい、なんでしょう?」
立ち上がると、炎を背にして対面した。
これなら、泣いている顔を見られない。
「昨日はありがとう。大変だったでしょう、泣いている人の傍に立っているのは。」
「いえ、別に。」



そんなことは思わなかった。


だって


「だって、蓉子さまのお姉さまですもの。必ず立ち直るって思ってましたから。」

「・・・そう、ありがとう。いっていいわよ。」

「あ、はい、失礼します。」
蓉子さまの所に行こうとして、その場所を聞いていないことに気付いた。
「さぁ?でも、「待ってる。」って言ってたわよ。」

礼を言うと、その場所に向かった。















思ったとおりの場所にその人は居た。
「待っていたわ。」
蓉子さまはふふっと笑った。
ちょっとだけ希望がわく。
もしかしたら。
「それで、あの?」
「?」
私の問いに、訳が解らないという顔をする蓉子さま。
恐る恐る言葉を続ける。
「紅薔薇さまに認められたらスールになれるって・・・。」
私の言葉を聞くや否や、蓉子さまは笑い出した。
「?」
今度は私の方が訳がわからない。
「あれはね、嘘なのよ。」
「嘘?」
「そう。」
蓉子さまは私の方に歩み寄ってくる。
「この2週間祐巳ちゃんは頑張っていたわ。志摩子ちゃんや由乃ちゃんにだって、劣らないわ。それは私も、お姉さまも認める。」
「でも、私今日、・・・」

「結果じゃないのよ。それとも、私達の言ってることを疑うの?」

「い、いえ。」




蓉子さまと目が合った。






「そして、水野蓉子は、福沢祐巳を妹にしたい。
福沢祐巳は水野蓉子を姉にしたい。違う?」




まるで、いつかの様だ。






なぜか、蓉子さまの目に立つととても素直になれる自分がいる。















「いえ、そのとおりです。」






蓉子さまは首からロザリオをはずした。




「受け取ってくれるわね?」



かけ易いように輪にしたロザリオ



なんて言えばいいのだろう。






秋の風が吹いた。






私は口を開いた。








「―――。」









時は遡る



小笠原祥子は福沢祐巳が去った後、そこに座って炎を見ていた。
今日の劇のダンスシーンで、何度も優さんの足が踏まれていた。
ヒールの靴はさぞ痛かったことだろう。
「くすくす。」
つい笑いがこぼれる。



「だって、蓉子さまのお姉さまですもの。」





歌いだしたい気分だった。




妹がすばらしい人と出会ったことを祝福して。









風が吹いた。














「会いに来てね。」



「はい。」



私は、館の中へと向かう蓉子さまを見送った。




願いと今をつなげたくて、


「―――。」


それは春風が運んでいった。







そして、秋




「受け取ってくれるわね?」




風がどこかから言葉を運んできた。




「はい。」





月の下






薔薇の館が見守る前で








2人は姉妹になった。














言い訳にもなりませんが、風邪が治りそうです。で、調子に乗りすぎてしまいました。長すぎです。これでも、結構削ったのですが。で、今回なのですが、まとめきれてるんでしょうか?でも、以前書いたとおりにします。えっと、『黄薔薇革命変』行って良いでしょうか?初めて小説なんて書く人たちなのでいつだって心配性です。平伏(オキ)
書くのだけが仕事と割り切っているのですが、今回始めてプロットに口出ししました。長すぎだよ。ここに書いた最初の話の伏線、生かしきれたかな?(ハル)
読んでくれてありがとうございます。


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