もちもちぽんぽんしりーず
【No:1878】−【No:1868】−【No:1875】−【No:1883】−【No:1892】−【No:1901】−【No:1915】−これ
出会ったのは一年と少し前
貴女はベッドの上で愛しい人の優しさを受けていた。
出会ったのは一年と少し前
貴女は愛しい人に認められた存在だった。
そして今
私は貴女の横に立っている。
文化祭も終わり、振り替え休日の次の日。
まだ誰も居ない薔薇の館に私、福沢祐巳は居る。
「♪〜♪〜。」
鼻歌を歌いながらテーブルを拭いていると、藤堂志摩子さんが入ってきた。
「あら?ごきげんよう。祐巳さん早いのね。」
「ごきげんよう。だって、一年生だもの。」
私が志摩子さんの方を向くと、クスッと笑われる。
「どうしたの?」
「いえ、早く来たのはそれだけじゃないと思って。」
「?なんで?」
「祐巳さん、普通ロザリオは服の中に入れるのよ。」
指摘されて胸元を見てみると、リボンの前で揺れている金属のアクセサリー。
「うう、だって慣れてないんだもん。」
多少照れながら服の中に仕舞い込む。
「蓉子さまから受け取ったのね。」
「・・・うん。」
今度は、本当に照れて頷いた。
「照れてる祐巳さんは可愛いわね。」
「志摩子さん〜。」
花のように笑う志摩子さんに何も言い返せない。
「もう、他の方々がいらっしゃるわ。お茶の準備は私がするわね。」
外からは誰かが階段を上る音がする。
まだ早いせいで空気が澄んでいるせいか、いつもより良く聞こえた。
「ごきげんよう。」
入ってきたのは、水野蓉子さま、鳥居江利子さま、佐藤聖さま。
「ごきげんよう。」
私と志摩子さんも挨拶。
蓉子さまは私に気付くと歩み寄ってきた。
「言った通りにちゃんと早く来たのね。えらいえらい。」
そう言って私の頭をなでてくれた。
「・・・はい。」
「わー、見せつけてくれちゃって。」
江利子さまの声が聞こえるけど無視。
こうしてもらいたくて昨日お母さんから目覚ましを借りたんだから。
「蓉子、お姉さま達がもう来るよ。」
聖さまに言われて「解ってるわよ。」と言って、私から離れた。
・・・・・・解っているけど、少し名残惜しい。
しばらくすると、紅薔薇さまと白薔薇さまが入ってきた。
「ごきげんよう。」と挨拶を交わす。
「あれ?お姉さまはどうなされたのでしょう?」
江利子さまの質問に「わからない。」との返事。
さらにしばらく雑談を交わしていると、8時ぎりぎりになって黄薔薇さまが入ってきた。
「ごめん。遅くなった。」
「ぎりぎりよ、令。」
紅薔薇さまの言葉にもう一度、「ごめん。」と謝った。
やっぱり紅茶は入れたてが良いし、先に乾杯してるのも失礼だろうと言うことで待っていたんだけど。
「由乃さんがまだですね。」
「由乃は今日はお休み。いつもお祭りの後は熱を出すの。」
私の質問に黄薔薇さまが答えた。
大丈夫かな?と思いつつ、私と志摩子さんは流しに向かう。
カップが全員の手に渡ったことを確認すると
「文化祭の成功を祝って。」
紅薔薇さまの言葉に軽くカップを掲げた。
「さて、文化祭についてなのだけど。」
紅薔薇さまが続ける。
「ひとつ確認しておきたいことがあるの。祐巳ちゃん。」
「は、はい、なんでしょう?」
いつものキリッとした顔、鋭い声に少し緊張。
「姉として聞いておきたいのだけど、蓉子からどんな風にロザリオを受け取ったの?」
「ごほっ!?」
視界の端で蓉子さまが咳き込んでいる。
「あ、それは私も友人として聞いておかないと。」
「私もそれは必要だと思うわ。」
白薔薇さまも黄薔薇さまも無駄に気品溢れた振る舞いで。
(ど、ど、ど、どうしよう?)
助けを求めて蓉子さまを見ると、ハンカチで口を押さえながらこっちを見ている。
その視線は「言ったら、・・・すごいわよ。」と言っていた。
「うーあーえー。」
「どうなのかしら?」
どう切り抜けようかと思っていると、異変を感じた。
(マズいマズいマズい。)
湧き上がってくるものを堪えていると、白薔薇さまが覗き込んできた。
「祐巳ちゃん?どうしたの?」
もう駄目だ。
そう思って立ち上がろうとした瞬間。
―――ぎょろぎょろぎょろぎょろ―――
しばらく鳴った後、「ぎょ!」という音を最後にそれは鳴り止んだ。
数秒後に部屋の中に笑いが溢れた。
「斬新な返し方ね。」
そう言って白薔薇さまに褒められた。(?)
「うー。」
こんなことで褒められてもうれしくないですよ。
「祐巳ちゃん。」
「はい?」
反省会も終わり、各自ばらばらに部屋を出てゆく。
私と志摩子さんがカップを洗っている間、蓉子さまは紅薔薇さまと話しをしていた。
どうやら私を待っていてくれたようで。
志摩子さんは笑いながら「先に行くわね。」と部屋を出て行った。
今、部屋の中は2人きり。
「駄目でしょう、朝ごはんを食べてこないと。」
そういうと、軽く頭をぽん、とされた。
だって、食べていたら時間に間に合わなくて。
「手を出して。」
昔、何かで見たように手の甲を叩かれるのかな。
怯えながら恐々と手の甲を差し出す。
「違うわ、手の平を上によ。」
どうやら叩かれるわけじゃないらしい。
平を上にすると、何か置かれた。
「これは約束を守ったご褒美。祐巳ちゃんが好きそうだなと思ってもってたの。」
置かれたのはイチゴミルクの飴。
「こんなのでも無いよりはマシでしょう。」
蓉子さまはにこっと笑った。
それから数日後。
朝、教室に向かうと桂さんが私に気付くや否や
「あら、ごきげんよう、シンデレラ。」
「桂さん、ごきげんよう。」
もう、劇は終わったのに〜。
そう思っていると、机の中からリリアンかわら版を取り出した。
「これ見てよ、最新号。」
手にとって見ようとすると
「あら、蔦子さんごきげんよう。」
「ごきげんよう、桂さん、シンデレラ。」
「ごきげんよう、蔦子さんまで。」
振り向くと、カメラがあってシャッター音がした。
「わっ、いきなりはやめてよ。」
非難の声を上げても、どこ吹く風とばかりに
「それ見てみれば解るでしょう。」
改めてかわら版を見た。
―――全校アンケート結果―――
姉にしたい人1位 支倉令
妹にしたい人1位 島津由乃
ベストスール 小笠原祥子 水野蓉子
特別賞
ミスターリリアン 支倉令
ミス・クィーン 水野蓉子
ミス・プリンセス 藤堂志摩子
ミス・シンデレラ 福沢祐巳
「み、ミス・シンデレラ?」
「そう、ということで、貴女は名実ともにシンデレラなのですよ、祐巳さま。」
桂さんは、テレビに出てくる執事のような口調で頭を下げた。
「まぁ、山百合会の人が選ばれるのは妥当って感じね。それに、劇は大きかったわね。」
蔦子さんは冷静に分析する。
確かに3年生は、あんまり出ていなかったけど。
「ただねぇ〜。」
ため息というか、力無い感じで蔦子さん。
「?」
「そうね。江利子さまの立場が微妙よね。」
意味の解らない私をフォローする桂さん。
「どうゆうこと?」
桂さんに尋ねると
「考えてもみてよ、姉、妹がそれぞれ1位。
もし江利子さまがいなかったら?そう考えない?」
「ああ。」
やっと理解した。
「でも、別にわざとって訳じゃないし。」
蔦子さんは眼鏡を直すと、嘆息しながら
「そうよ、だから余計質が悪いのよ。
ああ、そういえば、新聞部からアンケートの依頼が来るそうよ。」
「アンケート?」
「そ、多分好きなもの、嫌いなもの、趣味、エトセトラエトセトラ。
あげく、身長、体重まで聞かれるかもね。」
後半は笑いながら。
「あら、大変よ祐巳さん。もしかしたら、バストのサイズまで聞かれちゃうかも。」
桂さんも笑いながら。
「もう、2人とも!」
怒る私に「ごめんごめん。」と言いながら、まだ笑っている2人だった。
その日の帰り。
私が薔薇の館へ向かうために廊下を歩いていると
「あれ?由乃さん?」
菊組のクラスに1人残る由乃さんを見かけた。
「ごきげんよう、祐巳さん。」
「ごきげんよう、体の方はもう良いの?」
由乃さんは頷くと机の上を示した。
「休みの間に溜まったこっちのほうが大変。」
国語に始まり、数学、理科、果ては家庭科まで。
手伝いたいけど、由乃さんなりのまとめ方もあるだろうから諦めた。
「もう終わるから待ってて。」
前の席に腰を落として、ノートに写す姿を眺めることにする。
『島津由乃』さん。
肌はとても白くて、小柄で華奢。
切りそろえられた前髪の下には、濃いまつげがあってまるでお姫様。
志摩子さんが桜のようなふわって感じなら、由乃さんは朝露に濡れた睡蓮って感じ。
「何?」
私の視線を感じたのか、顔を上げた。
「ん?由乃さんに見とれてた。」
一瞬驚いた顔をした後、くすくすと笑い出した。
「祐巳さんって面白い。」
「そうかな?」
「で、私のことはどう思った?」
うーん、見た目の事を聞いてるんじゃないだろうし。
「うーーん。」
腕まで組んで考えていると
「病弱で守ってあげたくなる感じ?」
「そう、それ。」
つい手を打ってしまった。
由乃さんはノートを写す作業に戻る。
「残念。私はそんな良い子じゃないのよ。」
かと言って、悪い子にも見えないんだけど。
「今日、薔薇の館に行く?」
「ちょっと今日は無理かな。もうすぐ黄薔薇さまが迎えに来るから。」
「?」
なんで黄薔薇さまが出てくるんだろう?
「あれ?知らなかった?私と黄薔薇さまは従姉妹なのよ。」
「え?そうなの?」
「本当に知らなかったのね。結構有名だと思ってたんだけどね。」
「ごめん。」
「別に謝ることじゃ無いわよ。」
由乃さんは「終わった。」とつぶやいてノートを閉じた。
「祐巳さん、蓉子さまの妹になったんでしょう?」
シャーペンを筆箱に仕舞い込む。
「・・・うん。」
やっぱり慣れない。
「うれしい、祐巳さんとは気が合いそうだし。」
「私も由乃さんと良い友達になれたらうれしい。」
そんな話をしていると
「迎えに来たよ〜。・・・あれ、祐巳ちゃんと一緒だったんだ?」
「ご、ごきげんよう。もう薔薇の館に行きますから。」
あわてて挨拶をして、2人きりにさせてあげようとすると
「ごきげんよう。別に気にしなくていいのに。」
「そうよ、小さいころからずっと一緒だもの。」
「もし祐巳ちゃんと蓉子ちゃんが一緒だったらすぐ出て行くけどね。」
笑いながら言う黄薔薇さまの言葉に由乃さんは目を輝かせた。
「2人っきりになるために、わざと祥子と話をして帰るのを遅らせたり。」
うわ、気付かれていたらしい。
「蓉子ちゃんも楽しそうだし。」
「まるで新婚さんね。」
黄薔薇さまも「そうね。」と言って笑った。
私は薄笑いを浮かべて聞いていた。
それ以外に何ができようか。
「さて、帰ろうか?」
さりげなく由乃さんのかばんを持つ動きにミスターリリアンが伊達でないことを知る。
歩き出す黄薔薇さまに付いていくべく席を立つ由乃さん。
そっと私に顔を近づけると
「ありがとう祐巳さん、おかげで決めたわ。それとミス・シンデレラおめでとう。」
言うと教室の出口に向かう。
気になるのは「決めた。」と言う言葉と、ちらりと見えた握りこぶし。
「・・・よ、由乃さん?」
私の言葉が届いたのか、下ろしている手でピースサインをした。
「由乃さん?」
何故か不安になる私だった。
次の日の放課後。
薔薇の館では会議という名のお茶会が行われていた。
参加者は、薔薇さま、蓉子さま、聖さま、私。
「そういえば蓉子ちゃん、新聞部のアンケート受け取った?」
白薔薇さまの問いに「はい。」と蓉子さま。
「良かったわね。妹はいますかの欄に大きく祐巳ちゃんに名前が書けるわよ。」
「ぶぅ。」
危うく紅茶を吐き出しそうになる。
「何を突然?」
蓉子さまのもっともな問い。
「だって、私アンケートもらってなくて悔しいんだもん。」
「だもん。」って、白薔薇さま?
「ねぇ?」と話しかけられた聖さまが「はぁ。」と返す。
―――がちゃ―――
「ごきげんよう。」
江利子さまが入ってきた。
一通り挨拶を済ますと
「お姉さま、ちょっといいですか?」
「何?」
「ちょっと話があるので外まで来てもらえませんか?」
ここじゃ言えない話のようで、いぶかしげな顔をして黄薔薇さまは部屋を出て行った。
「なんなのかしらね?」
紅薔薇さまに答えられるものは誰もいなかった。
とりあえず棚上げにして雑談を続けると、しばらくしてまた扉を開く音。
今度もまた江利子さま。
「ちょっと手を貸してほしいのですが?」
「どうしたの、江利子ちゃん?」
「ちょっとお姉さまが倒れてしまって。」
「えっ?」
あわてて窓に駆け寄ると、確かに館の前で黄薔薇さまが倒れてる。
「いったい何があったの?」
慌てる紅薔薇さまに対し、江利子さまはなんでもないように言った。
「由乃からロザリオを返されたことを報告しただけなんですけど。」
「えーーーーーーー!!」
部屋の中に驚きが満ちた。
今はまだ知る由も無かったけど
これをきっかけに
私の周りであと2組もロザリオを返すなんて
今は思いもしなかった。
はい、黄薔薇革命編です。長編で原作がある以上、毎回感動話も入れられないし、先の展開も知られているので、頑張りたいと思います。・・・最後のやつは自分の首を絞めたような気が。笑(オキ)
今回は、私の都合で一定のリズムで投稿していたのが崩れてしまいました。楽しみにしていて、あれっ?と思った方(居ないだろうけど、居たら嬉しいです。)申し訳ないです。(ハル)