【1930】 休息  (オキ&ハル 2006-10-15 05:17:24)


もちもちぽんぽんしりーず。
【No:1901】と【No:1915】のあたりにあった話



「そう言えばさぁ。」
私の隣で昼食をとっていた桂さんの声に手を止めた。
ここは講堂の裏、食べ終わったらシンデレラのセリフを覚えているかテストをする予定。
ちなみに、志摩子さんと蔦子さんが居る。
「急遽祐巳さんがシンデレラになったんでしょう?
その前は誰だったの?」
「私だったわ。」
志摩子さんが軽く手を上げた。
「はー、まぁ、王道ってやつよね。」
その言葉に私は首を傾げる。
「じゃあ、私は?」
「それは、ねぇ?蔦子さん。」
端と端の2人が顔をあわせた。
「そうね、コメディーって感じ。」
「コメディー?」
「あら、祐巳さん悪い意味じゃないわよ。」
蔦子さんの言葉に桂さんも「そうそう。」と頷く。
「祐巳さんのシンデレラは可愛くて素敵だと思うわ。」
手を合わせて志摩子さん。
「そう、志摩子さんのシンデレラを祐巳さんは出来ないけど、逆もまた然りよ。
志摩子さんも祐巳さんのシンデレラを出来ないのよ。」
付け足す蔦子さんの言葉に
「そうなのかな?」
この2人に言われると納得しちゃうような気がするから不思議。
「で、志摩子さんは何をするの?」
桂さんが話を変えてしまうから、私が納得した流れになってしまった。
「私は姉Bよ。」
「あら。」
劇の配役を知らなかった二人が驚きの声を上げる。
「意外かしら?」
「だって、祐巳さんに命令をする志摩子さんが想像できないもの。」
話をする桂さんを見た後、志摩子さんは私を見た。
「練習のとき、変なところあった?」
練習のときを思い出すと
「うーんとね、迫力はあるよ。」
全員の視線が集まる。
「志摩子さんだから、逆にこう従っちゃうというか。」
私の言葉に、志摩子さんを除く3人が「解る解る。」と笑い合い、志摩子さんだけが首を傾げていた。





「すいませーーん。」
薔薇の館の1階の物置から出てくると、入り口に2人組みの生徒が居た。
「はい、なんですか?」
いちいち上に呼びにいくことも出来ず、正式には山百合メンバーではない私が対応する。
「あ、祐巳さん、文化祭でカレーを出すのだけど、是非薔薇様たちに食べていただいて感想を聞きたいの。」
見れば、手におかもちと言うのだろうか、そういうのを持っていた。
「薔薇さま方は全員上にいらっしゃると思うから。どうぞ。」
先導して階段を上がり始めた。
「でも良かったわ。祐巳さんで。」
「?」
「失礼だけど、もしいきなり紅薔薇さまだったらどうしよう?って言ってたの。」
隣の子と「ねぇ。」と頷きあった。
だったら、少し嬉しい。
由乃さんも言ってたけど、別にここは薔薇さま専用って訳じゃないから。
その手助けが出来るなら嬉しい。
「桜亭の方がいらっしゃいました。」
ビスケット扉をノックして開いた。
試食自体は了承してくれたのだけど、問題はカレーを出した後。
「あれ、8皿しかないわ。」
蓉子さまの言葉に持って来た2人が顔を見合わせた。
「あ、すいません。祐巳さんを数に入れ忘れてしまったようです。」
ちらりと私を見た。
「あ、私なら良いです。食べても美味しいくらいしか言えないだろうし。」
とりあえずそれで納得してもらうと、私を除く方々が食べ始める。
「緑が欲しいかな?」とか「ご飯とカレーの量が」とか適切なアドバイスを熱心にメモる2人。
しばらくして感想が出切ると、
「このカレーのお皿は、後で返しに行けば良いかしら?」
「あ、いえ、これに入れて館の前に出していただければ、帰りに回収をしますから。」
紅薔薇さまの問いに答えると2人は帰っていった。
黄薔薇さまが扉を開けてあげ、白薔薇さまの「ありがとう。」を背に受けて。
扉が完全に閉まると、白薔薇さまが提案をした。
「さて、祐巳ちゃん。部外者も居なくなったことだし、蓉子ちゃんに食べさせてもらえば?」
「え?」
白薔薇さまと蓉子さまの顔を交互に見る。
「少なくとも蓉子ちゃんはそのつもりだったと思うけど?」
黄薔薇さまの言われるままに蓉子さまのカレー皿を見ると。
「えーと。」
なるべく崩さないように半分残されている。
視線を蓉子さまに向ける。と
「・・・今、スプーンを洗ってくるから。」
流しに向かう蓉子さまの顔は見えない。
「あら、てっきり食べさせてあげると思ったのに。」
紅薔薇さまの言葉に、私と蓉子さまは動きを止めた。
「なんだったら、私たちは外に出て行ってもいいのよ?」
「結構です。」
蓉子さまは、再度動き出し流しへ向かう。
「残念ね。」
『あーん。』を想像していた私は、笑いかけてきた白薔薇さまに思わず顔を伏せた。


その後カレーを食べたけど、やっぱり「おいしい。」しか言えなかった。












・・・・・・・・・・・・・ただ、蓉子さまが口をつけたものだと思うと、少し緊張してしまったのは内緒。















「祐巳ちゃん、終わった?」
文化祭当日、蓉子さまは私の教室まで迎えに来てくれた。
これから劇が始まるまで、2人で回る約束したのだ。
「もう少ししたら、交代の子が来てくれると思うので。」
「じゃあ、それまで展示を見ているわ。」
「はい。」
蓉子さまが展示を見ている間に交代の時間。
座っていたクッションを直していると、ちょうど展示を見終わったらしい。
「ぜひ、記帳して行って下さい。」
「ええ。」
ボールペンでノートに、蓉子さまらしいきっちりとした文字で『水野蓉子』と書き込まれた。
「行きましょう。」
「はい。」
その様子に、交代したの子が
「祐巳さん、蓉子さまの妹になったの?」
と、聞いてくる。
私は、「さぁ?」と残して、蓉子さまの後を追った。



「2人とも、集合時間を聞いてなかったの!!」
紅薔薇さまの雷が落ちた。
―――ぴかぴかどっしゃーーん―――
「ごめんなさい。」
私たちは素直に謝った。
頭を下げた影でこっそりと、ぺろりと舌を出して笑いあった。
「もう良いわ。さっさと準備なさい。」
ため息交じりの許しが降りると、慌てて準備を始める。
「どこ行ってたの?」
ドレスを着せてくれるのは黄薔薇さま。
「2人でカレーを食べて、写真展を見てきました。」
「へー、余裕あるね。」
黄薔薇さまの手が髪に伸びる。
「いえ、緊張しています。蓉子さまと一緒にいたせいか、寸前まで劇のこと忘れてました。」
「へぇ、楽しかったんだね?」
「はい。」
「じゃあ、その勢いで頑張ってみようか。」
背中を強く押された。

準備を終えて舞台袖に行くと、王子様はもう既にスタンバイをしていた。
「やあ、祐巳ちゃん。」
「・・・まだ、少し腫れていますよ。」
そっけなく返してみた。
「やっぱり分かる?昨日はずっと冷やしていたんだけどな。」
頬を押さえる仕草もどこか芝居がかっているように見える。
「さっき、さっちゃんに会ったらど。こか吹っ切れているようだった。
多分君のおかげだろう。礼を言うよ。ありがとう。」
軽く頭を下げながら。
(・・・もしかして柏木さんが紅薔薇さまにあんな事言ったのは・・・。)
「そういえば、祐巳ちゃんて一人っ子?」
「?いえ、下に1人。来年、花寺学院高等部1年生ですけど?」
「そう。是非可愛がってあげないと。」
(うわっ。)
楽しそうなその顔に、何故か背筋が寒くなる。
おかげで、聞こうとしたことが頭のどこかに仕舞い込まれてしまった。



















小笠原祥子は文化祭が終わり、家に帰ると制服も脱がずにベッドに倒れこんだ。



私が蓉子と出会ったのも4月だった。



みな少なからず思うのだろうけど。



蓉子との出会いは運命だと思っている。








でも、あの2人の出会いは素敵だと思った。











ちょっとだけうらやましい。




























作業する手を止めると、机の上に飾ってあるものを眺めた。




この気持ちをなんと言うのか。




寂しいような  


嬉しいような


そして誇らしくて、自慢したいような







でもやっぱり悲しいような







窓からさす月の光




時計の音しかしない部屋で





何かを告げている気がした。













シンデレラ編で入れられなかった話をまとめてみました。これで、きちんと終われます。原作と同じ数でまとめるという縛りはやっぱり厳しかったかな?(オキ)
今回遅れた分を取り戻そうと必死です。(笑)それはさておき、量やバランス的に入れづらかったところなので、このような形になってしまいました。まだまだです。(ハル)


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