オレンジの夕日を浴びながら、花寺学院の正門を出た一人の男子生徒。
灰色の制服──袖や裾が綻びていたりと、結構草臥れた感がある──に身を包み、どちらかといえば女の子っぽいその顔は、多少お疲れのようではあった。
彼、生徒会長福沢祐麒は、バス停に向かって歩みを進めていた。
道なりにある、リリアン女学園高等部正門の前を通り過ぎようとしたとき、彼の額辺りに、稲光のような煌き、所謂『ニュータイプの光』のようなものがフラッシュする。
反射的に目を向けたその先には、妙な格好の男──青年と壮年の中間ぐらいの年齢か──が、門の脇の壁際に立っており、祐麒の方をじっと見ていた。
オレンジの夕日に照らされながら、リリアン女学園の門の脇に佇む一人の男。
形容し難い妙な服装──五分刈り頭に三角巾、割烹着にサングラス──に身を包み、結構ガタイのあるその身体は、かなり胡散臭かった。
彼、某幼稚園を手伝う修行僧藤堂賢文は、妹が姿を現すのを待っていた。
もうそろそろ出てくる頃合だなと、腕時計を確認していると、彼の額辺りに稲光のような煌き、所謂『ニュータイプの光』のようなものがフラッシュする。
反射的に目を向けたその先には、花寺の生徒──まるでタヌキを彷彿とさせる──が、鞄を片手に歩いており、賢文の方をじっと見ていた。
祐麒と賢文は、まるで計ったかのように真正面から歩み寄ると、道路のど真ん中で向かい合い、そして。
「妹萌え!」
「姉萌え!」
互いを指差し、同時に口を開いた。
しばし交錯する二人の視線。
おおかた倍近い年齢差があり、しかも初対面に関らず一瞬で共感部を見抜いた彼等の間には、余人には理解し難い、変な繋がりがあるようだ。
二人は、同時にニヤリと会心の笑みを浮かべると、ガッチリと握手して踵を返した。
そのまま、二度と振り向くことなく、祐麒は歩みを進め、賢文は元の場所に戻る。
その様を、門の中からこっそり窺っていた写真部のエースこと武嶋蔦子は、シャッターを切るのも忘れて、呆然と小さく呟いた。
「……なんじゃアイツら?」
夕日は、黙して語らなかった。