「・・・・・・えっ?・・・うん、特に変わった事は無いよ」
ごきげんよう。二条乃梨子です。今、私が誰と話してるかというと・・・
「何よ瞳子。特に話題も無いんなら切るわよ?・・・えっ?何?」
携帯電話で瞳子と話している訳です。
リリアンも時代の波には勝てず、「就学時間は電源を切る事」という条件で、今年から携帯電話の所持が許可されたのです。まあ、瞳子みたいな本当のお嬢様は防犯的な意味で持っているらしいんですけど、持っていれば使いたくなるのが人情とでも言いましょうか、こうして放課後などにはお喋りに興じたりもする訳です。
「・・・何よ、ハッキリしないわね。本当に切るわよ?紅薔薇様は携帯電話にあまり良いイメージ持って無いみたいだから、来る前に切り上げたいのよ・・・」
さっきから何やら、瞳子の話しは何かを切り出したいのに、やたらと遠回しな言い方を繰り返すばかりで、何が言いたいのやら聞きたいのやら・・・
(もしかして"コレ"か?)
私は薔薇の館の流し台から、後ろを振り返り"コレ"を確認する。
先輩に対して"コレ"は失礼だったなと、少し反省しつつ、さらに確信を深める。
さっきから瞳子が聞きたがっていたのは"コレ"についての情報に間違い無いと思い、さり気なく話題のなかに"コレ"の情報を混ぜてやる。
「いまは祐巳さましか居ないけど、もうそろそろ他の人達も来る頃だと思うよ」
ああ、なんて友達思いな私(笑 感謝しなさいよ瞳子。
私の蒔いた話題に飢えた野犬なみの反射速度で「そそそ・・そうなんですの?!いえ別に瞳子は祐巳さまの事なんてどうでも良いのですけど」とか喰い付いてくる。私は内心(掛かった!)とか思ってしまった。家にいても祐巳さまの事が気になって仕方ないんだろうなぁと、心の中のネタ帳に今の瞳子の反応を書き込んでおく。
ごめんね瞳子。こんな友達で(笑
モノスゴイ勢いで反応した瞳子の為に、私はもう少し祐巳さまの様子を伝えてあげる。
「祐巳さま寝てるわよ?何か幸せそうな顔してるから、ケーキでも食べてる夢見てるんじゃない?・・・・・・あれ?瞳子?モシモーシ、おーい」
何故か突然電話が切れてしまった。
・・・まあ良いか。そろそろ本当に薔薇の館のメンバーも来そうだし。(紅薔薇様が携帯電話に不快感持ってるのは事実だし)
私は携帯電話をしまい、紅茶の準備を始める。
(志摩子さん、今日も「美味しいわ乃梨子」って言ってくれるかなぁ・・・)
そんな妄想に浸りつつ、ぼおっとしていると、何やらバタバタと騒音が近付いて来る。
何だろう?私は何気なく窓の外に視線を向けた。
(あれ?あのヘリコプター、何か近付いて来てるような?)
気のせいではなく、間違いなく近付いて来ている。
なんだろう?報道のヘリかな?それにしちゃあ、やけに豪華な感じのヘリだし、真紅の機体でフロントガラスの下に「M」のマークが・・・・・・ってまさか?!
私は嫌な予感にかられ、急いで携帯電話を取り出す。そして間髪入れずに着信履歴にリダイヤル。
プルルルル・・・プルルルル・・・プル・カチャ!
相手が喋り出す前に、冷静かつ的確に用件を言う。
「・・・あんた、ヘリの爆音で祐巳さまが起きるとか考えなかったの?」
返答はなかったが、直ちにヘリは180°転進し、薔薇の館から遠ざかっていった。
携帯電話はいつのまにか切れていた。恥ずかしくて切ったのか、圏外まで飛んでいったのかは知らんけれども・・・
久しぶりに清々しい馬鹿をみたなぁ。
「んぅ・・・ふぁあ。あれ?乃梨子ちゃん、来てたんだ。ごめんね、なんか寝ちゃってたよ、何時の間にか」
さすがにヘリの爆音が効いたのか、祐巳さまが起きてきた。
私は、あの子の馬鹿が少しでも直るように、対策を打っておく事にした。
「祐巳さま。携帯電話に興味はありませんか?」
これで後は、瞳子も携帯電話を持っている事を教えておけば、事態は勝手に好転するはずだ。
まったく、馬鹿を親友に持つと苦労するわね(笑