今日は瞳子は薔薇の館でのお手伝い。ところが部屋に来てみると、誰もいない?
「とーこちゃん♪」
「ひっ」
突然、後ろから抱きつかれて驚いてしまいました。
声ですぐ分かりますが、このようなことをするのは祐巳さましかおりません。
日々スキルアップして、最近では、足音を殺して後ろに近づく技を身に着けてしまって、
本当に困ったお方ですわ。ここは凛と抗議をいたしましょう。
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、祐巳さま。い、い、いきなり後ろから、だ、だ、抱きつかないでください。」
抱きつかれたままのためか、ちょっと声が震えてしまいました。
決して動揺しているわけではありませんわ。
「とーこちゃん抱き心地いいんだもの。減るもんじゃないし、ちょっとぐらい、いいじゃない?」
祐巳さまはとんでもないことを言われる。
このまま、野放しにすると、他の方に抱きつきそうで、抱きつくのは私だけに・・じゃなくて、
薔薇様になると言う方が、それでは困りますわ。
やはり、ここは私一人が犠牲になって、我慢しましょう。
「分かりました、少しだけですよ。」
「わーい、瞳子ちゃんの許しをもらえた〜。でも、瞳子ちゃん顔真っ赤だよ、大丈夫。」
こ、これは、幸福のあまりに真っ赤になってるのでは決してありませんわ。
きっと祐巳さまが私に抱きつくことで血液の流れが阻害されて・・
「どれどれ、熱は?・・わー、とーこちゃんのホッペすべすべ。」
!!
祐巳さまが私に抱きついたまま、私の右頬に左頬を並べてすりすりさせているではありませんか。
突然、このようなことされると、理性が・・
あー、これが祐巳さまの頬の感触・・
・・
(プチッ)・・何かが切れる音・・
ふっ。もうこうなれば・・やるしかありませんわ。
祐巳さまは後ろから私の右頬にすりすりしているから、ここで、私が右を向けば・・
キャー
祐巳さまのホッペに私の唇が、嬉し恥かしの初キッス。
事故チューと言い張れば、単純な祐巳さまは信じてくれますわ。
頭の中で2回ほどシミュレーションして、これで完璧。
瞳子、勇気を出してゴーですわ。
よし。えい。
「うーん、ちょっと熱いかな?逆側のホッペは・・
瞳子ちゃん、いきなり横向いたら逆側のホッペ見れないじゃない。」
私が横を向く一瞬前、祐巳さまは顔を引っ込めてしまいました。
おかげで計画がガラガラと崩れてしまいました。
私の勇気が・・。
「そうか、体温はおでこでみないとね。」
私が呆然としていると祐巳さまは私の方向を90度回転させて・・
え、向かいあわせて・・え、え?
祐巳さまのお顔が近づいてきます。
体は祐巳さまの腕で固定されていて動けないし・・
祐巳さま・・おでこで体温はかるんですよね。
何で、目をつぶるんですかー
祐巳さまのおでこが私のおでこに・・
お顔が近すぎます・・
祐巳さまの眼が・・唇が・・鼻が・・
きゅー
「熱があるじゃない、瞳子ちゃん。
え、瞳子ちゃん、あーん、瞳子ちゃんが倒れちゃったよ。」
祐巳さまの声を遠くに聞きながら、私は意識を失ってしまいました。