「よーし、出来た!」
福沢祐巳は、満足げな表情で、満足げな声をあげた。
今現在、リリアン女学園高等部二年松組では、書道の時間だった。
お題は、『好きな言葉(四文字)』。
各席のあちこちでは、いろいろ好き勝手な字が書かれた半紙が窺える。
「祐巳さん」
「あ、由乃さん」
呼ばれた声の方に目を向ければ、半紙を手にした島津由乃が立っていた。
「祐巳さんは、なんて書いたの?」
「そう言う由乃さんは?」
「へへーん、コレだ!」
由乃が掲げた半紙には、こう書かれていた。
『先手必勝』
「ふーん……、由乃さんらしいね」
「まったくだわ」
そこに姿を現したのは、武嶋蔦子。
「どういう意味よ」
「そのまま、ってことよ」
「あはは。そんな蔦子さんは、何書いたの?」
「ふふん、コレよ」
蔦子が掲げた半紙には、こう書かれていた。
『千載一遇』
「ふーん……、蔦子さんらしいね」
「まったくね」
そこに姿を現したのは、山口真美。
「どういう意味?」
「いかにも、って感じ」
「チャンス到来って雰囲気?」
「あはは。そんな真美さんは、どんなの書いたの?」
「むふふ、コレよ」
真美が掲げた半紙には、こう書かれていた。
『三面記事』
「ふーん……、真美さんらしいね」
「いやいやまったく」
「どういう意味かな?」
「まさに新聞記者ってところが」
「ま、新聞絡みの四文字って、結構選ぶのが難しいのよね」
「あはは」
「それはそうと」
いまだに祐巳の半紙は、彼女の両手で隠されたままだった。
「イイカゲンに、祐巳さんの見せなさいよ」
口を尖らせて、由乃が祐巳を責め立てる。
「えー、いいよ恥ずかしいし」
「人のを散々見ておいて、それはないわね」
「やっておしまい!」
破らないように慎重に、無理やり祐巳の半紙を奪う三人だが、器用だなアンタら。
「取った!」
スルリと抜き取った祐巳の半紙を見てみれば、そこには。
『妨害電波』
「あー」
「あー」
「あー」
異口同音に、間抜けな声を上げる由乃、蔦子、真美。
『祐巳さんらしいね』
「どういう意味よ!?」
「んーとね、前々から思ってたんだけど……」
眉を顰めて蔦子は、
「普通の人が普通に電波を受信していると考えると、祐巳さんの場合は、自身が出す妨害電波のために、まともな受信状態じゃなくなっていると思うのよ。すなわち、祐巳さんに時折見られる奇矯な言動は、まさしくその妨害電波にあるワケで」
「なるほど、説得力がある説だわ」
「どこが!?」
「なんにしろ、仮にも高校生が書く文字ではないことは確かだけど」
「既に妨害電波が出てるってことね」
散々な言われように、祐巳はいじけてしまった。
祐巳の『妨害電波』は、何故か花丸を貰っていたため、由乃、蔦子、真美の三人は、納得が行かない表情をしていた。