「ごきげ……」
「こんなんじゃ駄目だわ!」
放課後、薔薇の館で祐巳の挨拶が突如として沸き上がった由乃の声にかきけされた。
「こんな見えすいた推理じゃミステリとして成り立たないわ!こんなのじゃあ誰でもトリックが分かるわよ。」
……なんなんだろう、この光景。由乃さんがいつにも増してハイテンションで、名も知らぬ1年生に怒鳴りつけている。その横で令さまはヘタレ…もとい、うなだれている。志摩子さんはいつもどおりに、にこやかにその光景を眺めながら紅茶を飲んでいる。お姉様や乃梨子ちゃんはまだ来てないらしい。
…っていうか志摩子さん、暴走由乃さんを止めようよ。
「祐巳さん、それは無理というものよ。『あの』由乃さんよ?」 「…また私、百面相してた?」
「祐巳さん、察しが良くなったわね。」
さすが赤薔薇の蕾ね。って、志摩子さん、こんな事でさすがって言われても……。
しかし、この状況どうしたものだろうか。由乃さんの講義(?)は佳境に入りつつある。
「第一、この人の殺され方は何なの?確かに人が死ななきゃミステリは成り立たないわ。だけど、これじゃあやり過ぎよ。此れじゃあ、ただの殺人鬼万歳小説じゃない。犯人の動機もこれに輪をかけてるわね。」
由乃さんの口調はますますきつくなっていく。名も知らぬ1年生はもう泣きそうになっている。そこに由乃さんのトドメの一撃。
「こんなでミステリ作家だなんて、ちゃんちゃらおかしいわ!出直してきなさい!」
「すみませんでした!」
名も知らぬ1年生は泣きながら薔薇の館を去っていった。可哀想に。
「よ、由乃さん、一体何があったの?」
「あら、ごきげんよう、祐巳さん。来てたのね。」
由乃さんはさっきの事なんか気にもせず、余裕な態度で紅茶を飲んでいる。
「来てたのね、じゃあないわよ。さっきの1年生どうしたの?」
「ああ、あれね。あの娘はミス研の一年生で、あの娘が書いたミステリ小説の感想を言ってたの。」
……あれが感想ですか。もはや、批評なのでは?
「あれでミス研だなんて信じられないわ。もっとマシな作家はいないのかしら。」
等とぶつぶつ言いはじめた。…まずい、この状態は、なにか良くない事を考えてる時だ。大抵被害を受けるのは私。
「祐巳さん、確か花寺にもミス研あったわよね?」
「うん、あるけど…?」
「今度、花寺に行くって祐麒君に話通しといて。」
祐麒ごめん。もう止めれません。