【21】 日曜日星空の下で突撃せよ  (うみ 2005-06-13 21:23:42)


「やるしかありませんわね……乃梨子さんもそう思うでしょう?」
既に日もとっぷりと暮れて、空には満天の星空が。
「私はそんなことを言った覚えは一切無いんだけど――」
必要ないほどに使命感に燃えるのは、勝手知ったる我が親友。
フルネームだと松平瞳子というのだけれど――どちらかというと、その左右の縦ロールの方が圧倒的に印象的なのではないかと思ったり。名前は知らなくとも、その髪形は知っているとか。

とにかく、そんな瞳子が一体何に燃えているのかというと。

「そんな! 二年生の三人が、祐巳さまのお宅でお泊り会ですよ! そのうえ、今頃はパジャマパーティの真っ最中という!」
「いや、だから――」
それにしても、ホントこれっぽっちも聞く耳を持ってくれないんだから。
というのも、今日の放課後に突然呼び止められたかと思ったら、『乃梨子さん、作戦会議ですわ!』とかって。
曰く、『私達だけ除け者だなんて、酷いと思いませんか?』とかなんとか――いやさ『祥子さまと令さまは良いんかい』とは当然の如く突っ込んでみたんだけど、案の定梨のつぶて。
まあ、既に祐巳さまの家から数十メートルの位置にスタンバイしている辺りからして、既に手遅れという気もひしひしとしてきているものの。
このあとどうなるかなと考えると、ただただ頭が痛いばかりで……
「大丈夫ですわ、私の独断と偏見で有馬菜々さんにも声を掛けておきましたから!」
「……へ? ちょ、ちょっと瞳子!?」
あああああ、本当にもう!
そこまでしちゃっているんじゃ、いまさら却下も出来ないじゃない!
「そもそも! 乃梨子さんだって祐巳さまのお宅に伺いたいんでしょう? 志摩子さまにお会いしたいのでしょう」
「うっ、それは……」
くるりと振り返っての正論。にっこりと微笑んだその表情が、余計憎らしく感じられて……ええ、そうですとも。どうせならパジャマパーティに参加したかったですとも!
でも、それを認めてしまってはズルズルとなし崩しに―――って、どっちにしても既に時間切れだったみたい。だって、そんな私達の所に今だけに限っては来て欲しくなかった人物が……そう、瞳子の援軍という形で。
「あの――ごきげんよう。乃梨子さま、瞳子さま」
「ええ、ごきげんよう。菜々さん」
「ごきげんよう」
そう、有馬菜々さんの到着。しかも肩から提げたあの大荷物は、どう見てもお泊りセット完備だし。
「えっと……それで、本当に由乃さまにお会いできるんですよね?」
「ええ、もちろんですわ――ねぇ? 乃梨子さん」
そこで私に振らないで欲しいんだけど――まあ、いまさらどうこうなる次元じゃないってことは、それこそ重々承知してはいるんだけどさ。
ホント、それを認めてしまったとしたら、もう後戻りは出来ないというのに……
「ははは、もう諦めたよ……」
「はい、今日はよろしくお願いいたします」
ぺこりと頭を下げる菜々さん。瞳子に続いて、最後に私も荷物を肩に掛けると、やる気に満ちた声が瞳子から一言。
「では、福沢邸へ向けて、突撃ですわ!」
「おー!」
「ぉー……」
そんな殊更に怪しい集団は、約一名やる気のない様子を見せつつも、その歩みを進めていって……。

この後、つぼみ一名とつぼみ候補二名の襲撃にあった福沢邸での一連の騒動と、六名に増えたパジャマパーティのその顛末。

「言ってくれれば瞳子ちゃんも誘ったのに」
「菜々も来たかったんだ。ふふふ、ちょっと嬉しいかも」
「止めようとって……乃梨子は来たくはなかった(私に会いたくはなかった)の?」
とかなんとか、ともかくそんな感じで。

まあ、詳細に関してはまた別のお話ということで……


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