「瞳子ちゃんさ、それ脱いだらそのまま『とりかえばや物語』の衣装を着るの?」
――また、この夢。
「もちろんです……けど?」
「それ脱いで、まずは制服着て、でまた制服脱いで、それから『とりかえばや』の衣装じゃ、やっぱり面倒くさいよね?」
「何をおっしゃっているんですか」
分からなかった……ううん、実際には今だって分かっていないまま。
そう。『その言葉の先に、何を繋げようとしていたのか』ではなくて、『どうしてこんなことを言い出したのか』ということが。
なぜこんな。暖かい感情を、温かい笑顔を、日向のようなひと時を。こうして、手を差し伸べてくださるのかを。
「そ。悪いけれど、私、今しか時間がないんだわ。というわけで、よろしく」
「約束なんて…」
繋いだ手から伝わってくる暖かさが心地よかった。
今自分がどんな格好をしているのか。そんな小さなことなんて気にもとまらないほど、それは心地の良いひととき。
「ね、瞳子ちゃん。当然この中には瞳子ちゃんの作ってくれた数珠リオもあるんだよね?」
さも嬉しそうにそう尋ねてもきて。何が楽しいのか、何が嬉しいのか。
その手に持った『モノ』が、果たして私の作った『モノ』だなんて、それこそ一言も言ってなどいないというのに。
そう、これは夢。『過去』という名の、夢の欠片たち。
私に一時の安らぎと、温もりと……そしてそれ以上の孤独とを与えてくれる。
かけがえのない、私とあの人との思い出。
心の内側から、少しずつ温かさが染み入ってくるかのように。
『頭に血が上っているみたいだから、今は何を言っても耳に入らなさそうだもんね』
だから。
『その場で百数えなさい』
だから―――。
この至福のひとときを、もう少しだけ……このまま。
『あ、ごめん。邪魔しちゃいけないかな、とも――』
せめて、夢の中だけでも―――――。