「かしらかしら」
「真心かしら」
とある昼休み。自分の席で、うんうん、と頷きながら『バカの壁』を読んでいた乃梨子の元に、敦子と美幸は「真心かしら真心かしら」と二回言いながら、何やらふわふわとくるくると舞いおりたのであった。
「かしらかしら」
「真心かしら」
「・・・違うんじゃない」
本から一向に目を離さず、とりあえずといった風におざなりな声を返した乃梨子に、敦子と美幸は「乃梨子さん・・・寂しいのですわね」と断定のイントネーションのハーモニーを奏でると、哀れみと恍惚の表情で再びふわふわくるくると舞い始める。
「・・・何で私が寂しいわけ?」
「だって、乃梨子さん。最近、瞳子さんと」
「あまり仲がよろしくない感じではありませんか」
「いや、別に・・・そんなことは・・・」
邪気の無いその天使たちの言葉に乃梨子は、良く見てるなあ、と内心舌打ちをしながらも、そこでようやく本から顔を上げ、心配そうな表情を踊りながら投げかけてくる敦子と美幸を見る。
「・・・そんなことはない、よ」
「そんなことありますわあるのですわ」
「私たち、心配しているんですのよ」
「いや、だから、心配には及ばないから」
「及びますわ及ぶのですわ」
「仲直りして頂きたいですわ」
「いや、だからね・・・」
ふわふわくるくると己の周りを舞う敦子と美幸に、この上ない鬱陶しさを感じつつも、乃梨子は渾身の白薔薇パワーで何とか笑顔を浮かべると、「お気になさらず」と拒絶感を加味しながら再び本に視線を落とす。が、敦子と美幸は漂う空気はお構いなしに一向に側を離れない。
「かしらかしら」
「真心かしら」
「・・・・・・」
「こうなったら美幸さん! 私たちの手で!」
「そうですわ敦子さん! 二人を仲直りさせるのです!」
『真心ですわ!』
「・・・え?」
何やら物凄く嫌な予感に、慌てて顔を上げる乃梨子であったが、敦子と美幸は「真心ですわ真心ですわ」と二回言いながらふわふわくるくると、ちょうどミルクホールから帰ってきた瞳子の元に舞い降りると、がばっ、と有無を言わせず捕獲し、そのままふわふわくるくると目を白黒させる瞳子と共に乃梨子の元に戻ってくる。
「かしらかしら」
「真心かしら」
「・・・一体、これは何事ですの?」
「ごめん瞳子。私にもさっぱり」
『さあ、仲直りですわ!』
『は?』
互いにペアでハモりつつ、二種類の表情で顔を見合わせる四人であったが、やおら敦子と美幸は、乃梨子と瞳子の手を取り握手させると、ふわふわと微笑みながら、くるくると二人の周りを舞い始める。
「これで二人は仲直りですわ!」
「私たちの真心が通じたのですわね!」
「・・・本当に、これは何事ですの?」
「ごめん瞳子。私にもさっぱり」
その後、敦子と美幸は教室内をふわふわくるくると舞いながら、片っ端からクラスメートに微笑み爆弾を投下して廻っていたが、ミルクホールから戻ってきた可南子に「背が高いのを気にしていてはダメですわ」とかましてしまい、ぷちん、ときた可南子のアイアンクローに沈黙させられるまで、真心を振りまき続けたのであった。