【210】 夢の中でシンプルで素敵な小さな胸  (くにぃ 2005-07-13 00:45:10)


注意!!
このお話は一見【No:205】の続きのようですが、完全にアナザーストーリーです。
No.205までのすてきな雰囲気を台無しにされたくない方は、どうかスルーしてください。
また、だったら投稿するなよというツッコミも無しでお願いします。




片手で由乃の背中を支えながら、ゆっくりと布団に倒れ込んでいくと、そこに由乃の長い髪がふわりと広がる。
由乃の体を布団にそっと横たえると、手は支えていた背中からそっと引き抜かれ、肩からやがて胸の方へ向かっていく。

(焦るな、落ち着け、俺。冷静に、冷静に)
自分にそう言い聞かせながら、祐麒は浴衣の上から右手をそっと由乃の胸にあてがった。まるで壊れやすい物を扱うように、優しく、そっと。
手のひらには浴衣越しに由乃の体温と、早鐘のような鼓動が感じられる。その時ふと思った。
(……小さい……)

抱きしめると折れてしまいそうな華奢な由乃に似つかわしい愛らしさと、初めて知る柔らかさ、温かさに、祐麒の胸は高鳴った。そしてまた思う。
(……でも、やっぱり小さいよな……)

祐巳のやつはたまに無防備に胸を押しつけてきたりするけど、もしかするとあいつより小さいんじゃないのか。いや、大きさなんか問題じゃない。別に俺は巨乳派じゃないし。第一、今祐巳を思い出してどうする。集中しろ、俺!

そんな内心の葛藤を見透かしたように、下から祐麒の目を真っ直ぐに見て由乃は言った。
「祐麒、今何か考えてたでしょ。小さいとかなんとか」
「え、そ、そんなことないよ。何言ってるんだ」
明らかにうろたえている祐麒に、由乃は畳みかける。
「うそよ。その上、よりによって祐巳さんと比べたりしたんでしょ!」
「してないって。ちょっと由乃、落ち着いて」
「何よこのシスコン!祐麒のバカーーー!」
その叫び声とともに下から繰り出された由乃の右フックは、祐麒の左テンプルをきれいに捕らえた。
(なんでこうなるんだ)
薄れゆく意識の中で、祐麒はなぜか祐巳の笑顔を思い浮かべていた。



ガツンッ。
「痛っつう……」
「大丈夫?祐麒くん」
送迎用のマイクロバスが不意に揺れて、窓際の席で頬杖をついて居眠りしていた祐麒は窓枠にしたたかに頭をぶつけてしまった。
ああ、それにしても何て縁起でもない夢だったんだ。本番では絶対あんな失敗しないぞ。
それにしても、実際のところどうなんだろう。胸……。服の上から見た感じだとアレだけど、着やせってこともあるし。でも胸が着やせってあるんだろうか。

「あ、ああ。平気。なんともないよ」
心配げに顔をのぞき込む隣の席の由乃さんに、不埒なことを考えながら頭をさすって祐麒は応えた。
「それよりいつの間にか寝ちゃったんだな。ごめん」
「ううん、いいのよ。どうせ夕べ楽しみでなかなか寝付けなかったんでしょ」
「うん。実はそうなんだ」
そう言って笑い合う二人。
「ほんとに大丈夫?ちょっと見せて。わっ、コブになってるわよ。もうすぐホテルだから着いたら冷やさなきゃ」
由乃さんは席から腰を浮かして体を半分ひねり、祐麒のさっきぶつけたところに右手を伸ばす。その姿勢だと、祐麒の目の前にちょうど由乃さんの胸が来ることになる。

「キャッ!」
「わっ!」
またまたバスが揺れて、バランスを崩した由乃さんの胸が図らずも祐麒の顔に押しつけられた。
不意のことにびっくりした祐麒はその刹那無意識に、本当に無意識に致命的な一言をぽつりと漏らしてしまった。小さい、と。

「祐麒くん。今小さいって聞こえたんだけど、何が小さいのかしら?」
耳ざとくそれを聞き逃さなかった由乃さんは両手で胸を押さえ、眼光鋭くにらみつけて祐麒を問い詰める。
「い、言ってないよ、そんなこと」
うろたえる祐麒に、尚も容赦なく由乃さんは畳みかけてくる。
「うそよ。確かに聞いたわ。まさか祐巳さんと比べてとか言うんじゃないでしょうね」
「比べてない比べてない。あくまで一般論っていうか。いや、そうじゃなくて……」
「何よこのエッチ!祐麒のバカーーー!」
そう叫んで左側方から飛んできた由乃さんの平手は、祐麒の頬をクリティカルヒットした。
(なんでこうなるんだ)
祐麒は自分の夢見の悪さを心底呪った。


目的のホテルが行く手に見えてきたが、とりあえず今夜は何事も起こりそうにないようだ。
赤い手形の着いた左の頬を押さえて、祐麒は落胆なのか安堵なのか分からないため息をつくのだった。


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