【2110】 山百合会のトリビア何かを見つけて  (時山 モナカ 2007-01-07 00:43:41)


【No:2102】→【No:2106】→これです。 本編のパクリと言う訳でもない。…とは言い切れない?SSではないことは確かだ。 モナカ版とか言っとけ(ぇ

 乃梨子がある日家に帰ってパソコンをつけると、一通の電子メールが届いていた。
「タクヤ君だ」
 タクヤ君は乃梨子の趣味である仏像愛好の仲間である。乃梨子はリリアンに通っているが、仏像を鑑賞するのが好きで自分に逆隠れキリシタンという自虐的なあだ名をつけるほどである。
「どんな内容だろ」
 着替えながら、パソコンから印刷し終わったメールを読み出す。
《遅くなりましたが、御入学おめでとう。新生活には慣れてきましたか?》
「慣れたかと言われたら、全然だね。学校が異次元に見えるよ。」
 読みながらメールや手紙に返事をしてしまうのは、乃梨子のいつもの癖であった。
《僕の入院中にノリちゃんの周りがずいぶん変わってしまって正直びっくりです。》
「まあ、東京に来たっていうだけでかなりの違いだからな〜」
 三つ折ソックスを丸めて、洋服棚の近くの籠に投げ入れた。ドンピシャで入った。
《しかし、ノリちゃんらしいね。僕も絶対玉虫観音像を見たかったのに。スキーで足を骨折なんてしちゃったから。》
 玉虫観音像と言うのは、京都の某寺にある二十年に一度だけ開放される仏像である。乃梨子が千葉の実家を離れて東京のリリアンに大叔母の家から通っている理由もこれにある。その開放日がちょうど第一志望である公立校の試験日の前日であった。日帰りで帰ろうと思っていた乃梨子だが、新幹線が不通ではどうしようもなく、残った道は合格していたリリアンに通うのみであった。
「その辺はみんなからいろいろ言われましたよ。でもそれも玉虫観音像の前ではいい思い出よ!」
 玉虫観音像の写真が入ったアルバムを抱きしめる。一見すると変な人だが本人はそれで満足らしい。
《東京にやってきたのならば、H市の小寓寺に行ってみることをお勧めします。そこにはノリちゃんのお気に入りの幽快の弥勒像がありますよ。》
「そ…それは行かねば」
「リコ〜。どこ行く気なの?」
「菫子さん…」
 大叔母である二条菫子に睨まれ、乃梨子は気を取り直した。
「それって、もしかしてラブレターとかいう物ではないのかな?」
「そんなわけないでしょう」
「彼がいるなら仏像にはハマらんか。乃梨子、そろそろご飯だからね」
「はーい」
 大叔母が出て行ってから一言つぶやいた。
「好きな人がいても一緒にお寺巡りするんだからね」


 後日小寓寺に向かうため電車に乗り込むと先日のクラスメイトの瞳子達との会話を思い出した。
「昨日はどうでしたか?」
「昨日?」
「お忘れになったの?桜の木の下の幽霊の話よ」
「ああ、あれか」
 乃梨子は忘れていた訳ではなかったのだが、二人の印象がとても強かったため幽霊の話を半分以上忘れていた。
「うちの生徒だったけど。」
「生徒だったんですか?」
「どんな方でしたか?」
「お名前とか聞きましたか?」
「まさかその場でロザリオとか受け取られていないでしょうね?」
「ち…ちょっと…」
 乃梨子は人に溺れるような感じだった。
「とりあえず簡単に言うけど二人いて…」
「二人だったんですか?」
「お話ではお一人しか見なかったと」
「とりあえず、その日は二人いたの。一人は短い髪でもう一人は長くて巻き毛だった。」
「お名前はお聞きになったの?」
「会議に行くって言ったから聞いてるわけではないけど、別れ際に巻き毛の人のほうがもう一人に『シマコ』って呼ばれてた」
「それってもしかして…」
「たぶん…」
「誰か分かるの?」
「このお方じゃなかったですか?」
 リリアン瓦版と書かれた紙に昨日見た二人の写真があった。
「そうだけど」
「白薔薇様でしたの?」
「蕾の方まで…」
「私たちはなんと言う無礼を…」
「ちょっと。そのロサなんたらって言うのは何なの?」
「新入生歓迎会のときに言われましたのにご存じない?」
「じゃあ説明しましょうか」
 このクラスの委員長が出てきた。
「お願い」
「リリアン高等部の生徒会は山百合会といいまして、生徒会長とされる方が三人いらっしゃいまして紅薔薇様、黄薔薇様、白薔薇様といいます。」
「ロサ…?」
「ロサ・キネンシス、ロサ・フェティダ、ロサ・ギガンティアです。またそれぞれに蕾とその妹がいらっしゃいます。まだ入学してすぐですので蕾の妹は誰にもいませんが。」
「え…っと、蕾とか妹って?」
「リリアンには姉妹制度と言うものがありまして、下級生の指導と言う意味で特別な上級生と下級生の関係としてロザリオを渡して姉妹関係が成立します。渡す上級生側が姉、渡される下級生側が妹になります。薔薇様の妹が特別に蕾と呼ばれるのです。」
「さっきロザリオが何たらとか言ってたのって…」
「白薔薇の蕾と姉妹関係になられたか聞いているのです」
「渡されてはいないよ」
「そうですか」
 教室全体が安心した空気になった。乃梨子は何か妙な感じがしたが、気にしないことにした。

 電車から降りた乃梨子はバスに乗り換える前に腹ごしらえをした。
「ご飯も食べたしそろそろかな」
 数日前からタクヤ君とメールのやり取りをして今日を迎えたが、昨日緊張で寝付けなかったからか乃梨子には若干疲れがある。
「ん?」
 反対側の歩道に見知った顔があった気がした。
「まさかね」
 その人は先日桜の木の下であった白薔薇の蕾であるシマコという人にとても似ていた。


 続く


一つ戻る   一つ進む