【2109】 島津由乃の憂鬱大丈夫ですアルテミスの祝福  (クゥ〜 2007-01-06 18:42:13)


 島津祐巳&由乃。その三の三。

 その一【No:2045】その二【No:2058】その三【No:2098】【No:2101】―今回。



 島津祐巳と島津由乃は双子だ。
 顔が似ていないのは、祐巳がお父さん似で由乃がお母さん似の二卵性だから。
 由乃は、二人の幼馴染兼従妹の支倉令とリリアンでの姉妹に成り。
 祐巳は、紅薔薇のつぼみである小笠原祥子と姉妹に成るための賭けをしているところだったが、そこに由乃が割り込んできていた。




 「暗くなっちゃったね」
 「……」
 「由乃、大丈夫?」
 祐巳は返事をしない双子の姉である由乃を見る。
 「大丈夫」
 「……そう」
 祐巳は心配しながらも由乃には手を貸さない。由乃は今日、本当に久しぶりに怒鳴り声を上げていた。
 由乃は体が弱く、祐巳は心配だったが姉妹のお姉さまである令姉ちゃんに支えるのは任せ。ただ、横を着いていくだけにした。
 その様子を後ろから眺めているのは、紅薔薇さまこと水野蓉子さま、黄薔薇さまにして令姉ちゃんのお姉さまでもある鳥居江利子さま、白薔薇さまこと佐藤聖さまと祐巳のクラスメイトにして白薔薇の蕾でもある藤堂志摩子さん。
 そして、紅薔薇の蕾で蓉子さまの妹であり、現在、祐巳と賭けをしている小笠原祥子さまが歩いていた。
 祐巳と由乃と令姉ちゃん、三人の後姿を見ていた祥子さまに蓉子さまが話しかける。
 「ふふふ、あの三人の中に入るのは大変そうね。どうする祥子?」
 「どうすると言われましても、このまま祐巳ちゃんは残りの数日も付き合ってくれるそうですから」
 「あら、それだけ?」
 「……ダメですか?」
 「ダメダメ、それだけじゃ、無理よ祥子」
 蓉子さまと祥子さまの会話に割り込んだのは江利子さまだった。
 「令のお姉さまとして意見を言わせてもらえれば、あの三人は、あの三人で完結してしまうところがあるの」
 「三人で完結?」
 「そうだから祐巳ちゃんを振り向かせたいなら、無理やりでも祐巳ちゃんを令と由乃ちゃんから引き離さないと」
 そう言われても祥子さまには、祐巳を無理やり令姉ちゃんや由乃から引き離す方法が浮かばない。
 「ですが、どうすれば……」
 困った表情の祥子さまに、今度は聖さまが会話に加わった。
 「だったらデートに誘ったら、たった七日間しか時間がないんだから一日も無駄にしないことよ」
 「デートですか?」
 祥子さまは、聖さま、江利子さまを見て考え込んでいた。
 後ろの方でそんな話が薔薇さまたちによって進められているとも知らず、祐巳は由乃の方だけを見ていた。
 由乃は令姉ちゃんの方に寄り添っているものの、片手で祐巳の手を掴んでいた。
 そのまま並木道を抜け道路まで辿り着きバス停の前で別れるのだが。そのバス停に来たとき。
 祥子さまが祐巳を見た。
 「祐巳ちゃん」
 「はい」
 「今度、デートしましょう」
 「えっ?」
 祐巳は薔薇さまたちとの話を知らないので、祥子さまの言葉に驚きを隠せない。
 「今度の日曜日、どうかしら?それとも部活?」
 「いえ、大丈夫ですけど」
 「そう、よかった。それでは、ごきげんよう」
 祥子さまたちは祐巳たちを残してやってきたバスに乗った。
 残された祐巳たちは、バスを見送り家路に着こうとするが由乃が動こうとしない。
 「どうしたの由乃?」
 由乃を見る。
 「なんでもない……」
 祐巳は祥子さまからのデートを受けたことに文句を言われると思っていたが、由乃は拗ねただけで何も言わなかった。
 祐巳は一度、令姉ちゃんと視線を合わせて由乃の後を着いて帰った。


 その一部始終を見ていた視線があることも知らずに……。


 祐巳が祥子さまからデートのお誘いを受けた次の日。
 由乃は、怒ったのが体に来たのか欠席をすることに成ってしまった。
 「それじゃ、行って来るから」
 「……」
 由乃は眠っているのか祐巳の言葉に応えない。
 祐巳は仕方がなくそのまま家を出る。家の前には令姉ちゃんがいて、由乃が休むことを伝えた。
 「一声かけてかけてから行く?」
 「……ううん、眠っているならいいよ」
 何時もなら由乃を見てから行くのに、今日の令姉ちゃんは行かないと言う。
 祐巳は不信に思いながらも、少しだけ令姉ちゃんと登校出来る事が嬉しかった。
 いつもの道を進み、背の高い校門を向け。
 祐巳は令姉ちゃんと他愛無いお喋りをしながら並木道を抜けていくが、その先のマリアさまの前に祐巳は祥子さまを見つけた。
 いや、祥子さまは祐巳を待っていたようだ。
 それが分かって祐巳が一歩前に足を踏み出したとき。祐巳の手を令姉ちゃんが掴んでいた。
 「なっ、なに?」
 「祐巳は、祥子のデート。楽しみ?」
 「……」
 祐巳は令姉ちゃんの言葉に考える。
 確かに楽しみにはしているし、興味もある。
 「うん、たぶん楽しみ」
 祐巳は素直に頷いた。
 「そうか」
 令姉ちゃんが手を離したところに祥子さまが優雅に近づいてきた。
 「ごきげんよう、祐巳ちゃん、令」
 「ごきげんよう、祥子」
 「ごきげんよう、祥子さま」
 「由乃ちゃんはお休み?」
 祥子さまは姿の見えない由乃の事が気に掛かるようだ。やはり、昨日のことが気に成るのだろう。
 そんな祥子さまの様子に祐巳は少しムッとしてしまう。
 「どうかした?」
 だが、そんな祐巳の様子にすぐに気がついたのか祥子さまは祐巳に微笑みかけていた。
 「あっ、いえ。由乃はお休みですが、明日には出て来れると思います」
 「明日は日曜よ」
 「あっ、そうでした。あははは」
 「ふふふ、本当におかしいわね祐巳ちゃん。明日のデートは学校ではないわよね?」
 「は、はい」
 「祥子、祐巳」
 祐巳と祥子さまで笑っていると令姉ちゃんの声がする。
 「早くお祈りして行くよ」
 令姉ちゃんはマリアさまの前にいて、祐巳たちを呼んでいる。
 祐巳と祥子さまは並んで令姉ちゃんの方に向かい。三人でお祈りを済ませる。
 「……令姉ちゃん」
 「祐巳も気がついた?」
 「うん」
 「どうしたの、二人とも」
 祐巳は祥子さまの問いに答えずに竹刀を取り出し、マリアさまから少しは成れた茂みに近づき。
 竹刀を叩き下ろした。

 ――ガッサァ!!「「「ふっぎゃ!!」」」

 「なっ?なに」
 祥子さまの驚きの声が聞こえた。
 「何しているの?」
 祥子さまと令姉ちゃんが祐巳の横から覗き込むと、茂みの中には三人の生徒が倒れていた。
 一人はカメラを持っているようだ。
 もう一人は、手に手帳を持って、最後の一人は笑っていた。
 「え〜と、蔦子さんだよね?」
 祐巳はその中の一人に見覚えがあった。同じクラスの生徒で、確か写真部だったと思う。
 手帳を持っている人は知らないが、最後の一人にも見覚えはある。名前は……。
 「で……確か、真美さん?」
 「そちらの人は三奈子さんだね」
 令姉ちゃんが、名前の分からなかった人の名を知っているようだ。と、言うことは二年生だろうか?
 「あはは、ごきげんよう」
 「ごきげんよう、ところでこんな所で何をしているのかしら?」
 「デバガメじゃない?」
 祥子さまの言葉に応じたのは祐巳たちの前にいる三人ではなく後ろから聞こえた。
 「うーん、私は覗きだと思うわ」
 「違うわね。盗撮よ」
 どれもリリアンには相応しくない言葉だが、それを発したのは祐巳たちの後ろにいつの間にか並んだ三人の薔薇さまたちだった。
 「「お姉さま!?」」
 令姉ちゃんも祥子さまも驚きの声を上げ、祐巳も含め慌てて三人で挨拶をする。
 「「「ごきげんよう、お姉さま方」」」
 「「「ごきげんよう」」」
 挨拶を交わし改めて三人を見る、そのとき祐巳の頭の中で以前起こった剣道部覗き事件が思い出され、祐巳は反射的に竹刀を構えていた。
 「こらこら、祐巳ちゃん。イキナリどうしたのかな?」
 「いえ、この前、白薔薇さまに失礼を働いたときのことを思い出しまして……三人にお聞きします。この前、剣道部を覗きましたか?」
 祐巳は竹刀を構えたまま三人に詰め寄るが、三人は知らないと言うように首をそれこそポルターガイスト現象の人形のように、物凄い勢いで横に振った。
 「本当?」
 「まぁまぁ祐巳ちゃん、そのへんで」
 聖さまが笑顔で祐巳の前に出る。
 「そうね、証拠もないし」
 江利子さまも笑顔。
 「でも、ここで何をしていたかは聞いておかないとね」
 蓉子さまも笑顔で、三人の薔薇さまが一人づつ捕まえる。
 「あの、薔薇さま方?」
 三奈子さまが脅えている。まぁ、三人の薔薇さまたちの微笑みに囲まれては仕方がないのかもしれないが……。
 「さぁ、少しお話を聞きましょうか」
 そして、微笑みの薔薇さまたちと共に三人は連れて行かれ、残された祐巳は、去っていく三人に対して哀れみを込めて手を合わせ。
 「なっ、なんだったのかしら」
 祥子さまは、ただ驚いていた。


 ここはある建物の影。
 三人の人影が立っている、空は晴天。
 それなのに三人の顔は影が覆い見えない。
 その三人の前には、三人の脅えた生徒がいた。
 「本番では失敗しないように」
 「本当よ、せっかくネタを提供してあげたのだから」
 「そうそう、失敗でもしたら……消えるわよ。誰かが」
 「「「はい!!」」」
 顔を青ざめた三人が敬礼していた。


 そして、約束の日曜が来たのだが、朝から問題が発生していた。
 朝から睨み合う、祐巳と由乃。
 それを見て、令姉ちゃんが困っていた。
 何が起こったかと言うと、祐巳の私服が全て朝から洗濯されていたのだ。勿論、犯人は由乃。
 祐巳と由乃は、幼い頃から喧嘩はしたことがあるがここまで縺れた事はなかった。
 実を言えば祐巳は勿論、由乃さえ当惑していた。
 祐巳も由乃も止められない。
 この状態にあって祐巳と由乃の間に入れる人間は昔から一人しかいない。
 「はぁ……由乃、今回は貴女が悪いよ」
 令姉ちゃんだ。
 令姉ちゃんは、由乃がどうしてこんなことをしたのか理由は聞かない。祐巳も聞く必要はなかった。
 理由は、祐巳も令姉ちゃんも分かっているから、わざわざ聞く必要はないのだ。
 「……」
 「……」
 「祐巳、そんな事をしている場合じゃないでしょう」
 由乃と睨み合いを続ける祐巳に、令姉ちゃんが割ってはいる。
 「洋服は本当に全部ないの?」
 「一応、あるけどさぁ」
 全部と言ったが、何着かは残っていた。だが、それは……。
 「あっ、由乃!!」
 祐巳がチラッと令姉ちゃんを見た瞬間、由乃は手早く自分の部屋に逃げ込み、部屋の中から鍵の音がした。
 「逃げないでよ!!」
 「祐巳、由乃は任せて準備しなさい。私も手伝うから」
 「うえっ?!」
 「何?その態度は」
 祐巳は躊躇した。
 その理由は、無事に残っていた衣類にある。
 ……。
 …………。
 「やっぱり似合うよ!!」
 問題の残った服を着た祐巳を、令姉ちゃんは嬉しそうに見ていた。
 祐巳に残された服。
 それは令姉ちゃんが祐巳と由乃の誕生日に贈った洋服だったのだが、その洋服と言うのが……いわゆるゴシックロリータ。
 ゴスロリだった。
 由乃には白いゴスロリ。
 祐巳には黒いゴスロリ。
 しかも、令姉ちゃんの手作り。
 これを貰った時の祐巳と由乃の攻撃は凄まじかった。
 二人同時に散々令姉ちゃんを罵ったのだ。おかげで令姉ちゃんは一週間もの間、島津家に来なかった。
 ……由乃、覚えていなさいよ!!
 祐巳は服をダメにされたことよりも、この服を着なければ成らなくなったことに大きな怒りを感じた。
 「令姉ちゃん!!洋服貸して!!」
 「でも、そんな時間ないよ?」
 「でもさぁ!!あぁぁぁ!!!」
 確かに時計を見れば時間はない。
 「駅前で待ち合わせだっけ?」
 「あっ……う、うん」
 「それじゃ、急がないと」
 「でも、この格好で?!」
 「似合っているし祥子も喜ぶと思うよ、大丈夫!!行ってきなよ」
 そ、そうだろうか?
 どうも根拠のない自信か、令姉ちゃんの趣味にしか聞こえない。
 祐巳は時計を見て、意を決すると家を出た。


 「令ちゃんのぶあっかぁぁぁ!!!!!」


 家を出るとき、二階から由乃の声が聞こえた。








 終わるつもりがなかなか終わらないし、暗躍する人たちもいるし。
    ……何とか次で!!……終わったらいいなぁ(泣


                            『クゥ〜』


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