【2125】 パンドラの箱の中から  (杏鴉 2007-01-17 07:14:08)


『藤堂さんに古手さんのセリフを言わせてみる』シリーズ

これは『ひぐらしのなく頃に』とのクロスオーバーとなっております。惨劇は起こらない予定ですが、どうぞご注意を。

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――月曜日――


「ふあぁぁ……」

うぅ……眠いなぁ。
昨夜はあまり眠れなかった。原因は、もちろん蓉子さまから聞かされた話。そして頼み事を引き受けたことに対する不安と……後悔。
お姉さまへの疑いを晴らしたい。
だからこそ蓉子さまの頼みを引き受けたのだが……。
良く考えたら百面相なんて言われている私に爐修譴箸覆探る瓩覆鵑討任るのだろうか……?
それにいくらお姉さまの為とはいえ、コソコソ嗅ぎ回るというのは、なんだか裏切っているような気がして後ろめたい……。
茶色くした部屋の中で、そんな事ばかりを考えていたら眠れなくなってしまったのだ。

「ハァ……」

どんな顔でお姉さまと話せば良いんだろう。普通にしなきゃいけないんだろうけど……自信ないなぁ。
あぁ、瞼も重いけど足も重い……。
私は鬱々とした気分のまま、背の高い門をくぐり抜けた。
しばらく歩いてマリア様のお姿が見えた時、お祈りを捧げている美しい人の姿も見えた。
その美しい人は、私が一番大好きで、今一番会いたくない人だった。

ど、どうしよう……まだ心の準備が……。
私はとっさに身を隠してしまった。距離が離れていたからか、お姉さまは私には気付かず、校舎の方へと歩み去っていった。
私はお姉さまの後姿が見えなくなるまで、じっとその場で身を隠していた。

「……私、何やってるんだろう…………」

一段と重さを増した足を引きずるようにしてマリア様の前に立った私は、いつものように眼を閉じ手を合わせたが、とてもお祈りをする気分にはなれなかった。
結局お祈りのポーズだけして早々に立ち去った……マリア様の視線から逃げるように。





昼休み、私はお弁当を片手に薔薇の館へと向かった。朝とは違い、足どりは軽くなっている。
朝の一件の後、私はずっと考えていた。お姉さまの事……そして蓉子さまの事を。
午前中ずっと考えて、やっと答えが出た。
私はいつものようにお姉さまの隣に居ればいいのだ。
いつものように薔薇の館で仕事をして、私の入れた紅茶を飲んでもらって、時には叱られたりもしながら同じ時間を過ごせばいい。
そして蓉子さまにこう言うんだ「お姉さまは事件とは関係ありませんでしたよ」って、そうすれば蓉子さまの苦しみも少しはなくなるんだから。
お姉さまが失踪事件なんかに関わっているはずがない。だからこれでいいのだ。
そう、これがきっと一番良い答え。

……さっきからずっと頭の中で耳障りな音が鳴っている……とてもウルサイ……。
でもお姉さまのお顔を見ればきっと聞こえなくなる。だから大丈夫。きっと、大丈夫だ。
私は自分に言い聞かせるように、心の中で何度も何度も大丈夫だと呟いた。
知らず知らずのうちに、自分の足もとしか見えないくらい俯いてしまっていた顔を、私は無理やり引き上げた。

「あ……お姉さま?」

顔を上げた先には、大切なお姉さまと…………お姉さまの隣に立つ、瞳子ちゃんの姿があった。
二人は後ろにいる私には気付かず、そのまま薔薇の館に入っていった。
寄り添いあい、何か話していた二人は……まるで姉妹のように見えた……。

おかしいなぁ……音が……止んでくれない……それに治まっていた筈の胸の痛みまで……。

「……あぁ……痛いなぁ……」

しばらくその場で突っ立っていた私だったが、悪意すら感じられる陽射しに負けて、ノロノロと薔薇の館の扉を開けた。
館の中に入るとジリジリと肌を焼く攻撃は止んだものの、空気自体が熱を持っていて不快感はちっとも消えてくれなかった。
「ハァ……」自分の吐く溜め息すらも熱くて不快だ……。
早く二階へ行ってお茶でも飲もう…………いや、ダメだ……二階には今、お姉さまと瞳子ちゃんが……。
志摩子さんや乃梨子ちゃんが居てくれればいいが……こんな気分の時に親密そうな二人の姿なんて見てしまったら……私は……。

あ、そうだ。そういえば一階の部屋に置いてある備品がまた乱雑になってきたと、この間お姉さまが言ってたっけ。
まだ二階には行きたくないし、時間を潰しがてら備品の片付けでもしよう。


――ガチャッ


「っ!……祐巳」
「……え?」

誰も居ないと思い込んでいた一階の部屋には、皮肉な事に避けようとしていたお姉さまと瞳子ちゃんの二人が居た。

「……祐巳、あなたこんな所に何の用なの?」

それはこっちのセリフです、お姉さま。こんな所で瞳子ちゃんと二人っきりで、何をしていたのですか……?

「祐巳?」
「あの……備品の片付けをしようと思いまして」
「備品?……あぁ、確かにそろそろ片付けないといけないわね。でも今からだとお弁当を食べる時間がなくなってしまうわよ。今日の放課後にでも皆でやりましょう」
「あ、はい。そうですね……」

私は何も言えず、お姉さまはさっさと話を切り上げてしまった。

「祥子お姉さま。私はこれで失礼いたしますわ」
「そうね。また今度お話しましょう。あぁ、それと瞳子ちゃん。私の事は犢皮薇さま瓩狆融劼気洵瓩噺討个覆韻譴丱瀬瓩茵」
「あ、申し訳ありません。でもずっと狆融劼姉さま瓩箸呼びしていたんですもの、急には変えられませんわ」

二人は私の事などお構いなしで……。私は唯ただ疎外感を噛みしめていた。

「では、ごきげんよう。祐巳さま」

すれ違いざまに、そう言い残して瞳子ちゃんは出て行き、私は口の中でモゴモゴと「ごきげんよう……」と呟くのが精一杯だった。
お姉さまは、こんな所で瞳子ちゃんと何を話していたんだろう?
私が入っていった時、お姉さまは随分驚いていた。私に聞かれてはマズイ事を話していたのか……? 

「祐巳? 何をしているの、上に行くわよ」
「え……あ、はい」

二階でお弁当を食べて、予鈴の鳴る少し前まで一緒に居たけれど、お姉さまが瞳子ちゃんの話題を出す事は一切なかった。





放課後になって掃除区域の中庭に来てはみたが……。
今の季節は落ち葉もないし、ゴミをポイ捨てするような不届きな生徒がこのリリアンにいる筈もなく、特にやる事も無いのでさっさと掃除を切り上げた。わざわざ暑い思いをしてセミの声を聞きに来たようなものだった。
……できる事ならこのまま帰りたい。
私が密かに漏らした溜め息は、セミの合唱にまぎれて消えた。


――ガチャッ


「ごきげんよう……」

そう言いながらビスケット扉を開けたが、部屋には誰も居なかった。まだ皆、掃除などが終わっていないのだろう。
何もしないで座って待っているのもどうかと思うし、昨夜の睡眠不足が祟っているのかじっとしていると眠ってしまいそうだった。軽く掃除でもしよう。
だが一階の部屋とは違い、こまめに掃除しているこの部屋は大して汚れておらず、あっと言う間に終わってしまった。
やる事がなくなってしまった私は、とりあえず自分の分のお茶だけ入れて皆が来るのを待つことにした。

お茶を飲みながらボンヤリと考える。
先週も寄り道なんてせずに、ここで今みたいに皆を待っていれば良かった……。
そうすればあんな記念碑なんて見つける事もなかったし……蓉子さまにあんな話を聞かされる事もなかった……。
お姉さまを疑ったりする事も…………アレ?……私……お姉さまのこと……疑って…………

それ以上は考える事ができなかった。
私は睡魔に負けて……いや、思考に負けたのかもしれない……何も考えなくていい、優しい夢の世界へと堕ちていった……。


……まどろみの中、誰かの話し声が聞こえる。


「……け……祐……まは……祥……姉さま…………」
「そん…………が?……も……事を?」


ぅ…ん……もう少し……眠っていたい……。


「……週……れは……に…………蓉子……たわ」
「そ…………姉さ……祐巳……」


――え? この声……お姉さまと…………瞳子ちゃん?


私の意識は急速に覚醒していった。
いつの間にか机に突っ伏していた身体は注意深くそのままにしておき、耳だけを研ぎ澄ませた。

「……巳さま…………やはり……話…………では……」
「…………の件ね…………今さら…………かしら……!」

しかし少し離れた位置でボソボソと喋っているらしく、よく聞きとれない。

「おちつい…………子お姉さま……祐巳さ…………どうする……考え……と」
「そうだっ……余計な…………聞か……のね…………可哀想な祐巳……」

……何なんだこの会話は……? いったい何を話しているんだ二人は……っ! 可哀想って何!?


――ガチャッ


「「ごきげんよう」」

私はいかにもその物音で目が覚めたかのように、緩慢な動作で身体を起こした。

「あら、祐巳さん。お昼寝していたの?」
「あー……一人で待ってるうちについ、うとうとしちゃって……えへへ」

微笑みながら尋ねてくる志摩子さんと、ちょっと呆れたような顔の乃梨子ちゃんに、頭を掻きながら笑顔を向ける。
流しに立つ二人が、じっと私を見つめている事に気が付かないフリをしながら……。


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