【注意】テレビアニメ版を基にしております。
「白薔薇さまメリークリスマス。」
「もう一声。」
「え?」
「今日は私の誕生日なんだ。」
「マイハッピーバースデー。」
次の日。
「お邪魔します。」
「どうぞ。何もない部屋ですが。」
そう言って蓉子を招き入れると、彼女はきょろきょろと私の部屋を見回した。
「本当に物が無いわね。」
室内には、机とベッド、大き目のタンス位しかない。
「物が多いと落ち着かないの。」
わざわざリビングから2つ持ってきたクッションの片方を渡すと、蓉子はフローリングの上に座った。
「相変わらずね。」
ちらりと見えた目がそう言った気がした。
「で、何のよう?冬休み早々行っても良い?だなんて。」
私も床に置いたクッションの上に座る。
「迷惑だった?」
「別に。」
「一応聞いたわよ。ご両親に迷惑はかからない?って。」
確かに聞かれたけど、うちは放任主義もいいところ。
この時期になっても、家には寝るためだけに帰ってくる。そんな感じ。
だから、大事を起こさない限り迷惑なんてかからないし、蓉子が大事を起こすとも思えない。
「私は聞かれなかったわよ?」
皮肉交じりの問いかけ。
「貴女は嫌なら嫌と言うでしょ。」
「よくご存知で。」
「長い付き合いですもの。」
「で、最初の問いの答えは?」
「大したようじゃないわ。」
こーゆー頭の回転の速いところは、私の蓉子の好きなところでもあり、嫌いなところでもある。
「去年、3人で誕生会をやったでしょう?」
「ああ。」
去年。
まるで相当昔のことのようだ。
もう栞もお姉さまもいない。
いるのは目の前の蓉子だけ。
「まぁ、今年は山百合会でやったから良いかなと思ったんだけど。」
駅のホームと薔薇の館。
「私が誕生日だって蓉子が言ったんだって?」
彼女は少し目を見開いた。
「誰から聞いたの?」
「志摩子。」
蓉子が知られていないと思っていたであろうことを知っていたことに、子供じみた感情を込めて答えた。
「ふふっ。」
「何?急に笑い出して。」
訝しげに蓉子を見た。
「聖は変わったわね。去年はそんな顔を見せてはくれなかった。」
「そう?」
「ええ、もっと意地の悪そうな顔をしてた。」
「ひどいな。意地の悪そうな顔なら、今年の蓉子には負けるね。」
「あら、心外よ。」
苦笑を浮かべながら肩をひそめた。
ふと、もう一人の薔薇さまが浮かんだ。
「じゃあ、江利子は?」
問いに、蓉子はしばらく考えると口を開いた。
それに合わせて、私も口を開く。
「「企んでそうな顔。」」
見事にハモった。
私たちは、顔を見合わせると同時に笑い出した。
「あはは、蓉子も結構言うね。」
「くすくす、同じことを言ったあなたには言われたくないわ。」
こんな風に蓉子と笑いあう時が来るなんて、去年の私は絶対に信じないだろう。
「志摩子ちゃんと祐巳ちゃんのおかげね。」
「・・・そうかもね。」
ふわふわ髪の少女とツインテールの少女。
「あの2人には感謝しているわ。」
ポツリと漏らした蓉子の言葉は、そのまま私の言葉だった。
「・・・なにか飲み物もって来るけど、コーヒーでいい?」
「ええ。」
なんか照れくさくなって、逃げるように部屋の外へ出た。
こんな空気は私の柄じゃない。
ポットのお湯とインスタントの粉で出来たコーヒーを持ってあがると、蓉子は窓の外を見ていた。
「雪が降りそうね。」
こちらを見ずに。
暖房の音だけが響く。
先の雰囲気が残っていて、引きづられた。
「蓉子にも感謝してる。ありがとう。」
蓉子が呟いたときより、もっと小さな声で。
「ん?」
こっちを向かれて気恥ずかしくなり、
「さ、砂糖いる?」
慌てて誤魔化した。
「ありがとう。」
蓉子は笑顔で一本だけ持ってきたスティックシュガーを受け取った。
それ以降は、お互いの進路やら思い出話とか、たわいも無い話をした。
暗くなり、ちらちら雪が降り出すと、蓉子は「帰るわ。」と言った。
玄関まで送る。
「本当に何しに来た?って感じね。」
苦笑交じりに、私がつぶやくと
「目的なら果たしたわよ。」
「え?」
「聖が変われたか、見に来たんだもの。」
きっと私は、とても驚いた顔をしていたに違いない。
蓉子は、とても楽しそうに笑っていたから。
「貴女変わったわよ。」
「自分のためでもないのに、ご苦労なことで。」
かろうじて言い返す。
「いいえ、私のためよ。」
そこで一度区切ると、本当に本当に楽しそうに笑った。
「おかげで安心して、したいことが出来るもの。」
「は?」
「こっちの話よ。」
くるりと回って、ドアノブを手にした。
「それと、ありがとう。」
「今度は何?」
「スティックシュガーの分よ。」
何のことかわからずにいる私を置いて、ドアが蓉子を隠していく。
「あれは、貴女に返したのよ。」
ガチャン
「・・・やられた。」
私は、天を仰いだ。
「蓉子にも感謝してる。ありがとう。」
「(こちらこそ)ありがとう。」
ドアの外の蓉子のしてやったりの顔が浮かんだ。
さらに、その日の夜。
江利子から電話があった。
珍しいことがあるものだと思いながらも、話を聞く。
「蓉子と祐巳ちゃん付き合いだしたんですって。」
「え?」
「クリスマス会の帰り際に、2人がこっそり話してるのを見たのよ。
で、その後、祐巳ちゃんがすごい幸せってオーラ出してたから問い詰めたの。
そしたら吐いたわ。」
「・・・やられた。」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。」
今日の目的は、『もう祐巳ちゃんを貸さなくても良いか?』の確認だったと気付く。
まったく蓉子には敵わない。
「あ、祐巳ちゃんデートしない?」
「デート?」
「別名、山百合会年始会とも言う。」
「行きます。行かせていただきます。」
ささやかな反撃は恋人の方にすることにした。
「ゆーみちゃん。」
「ぎゃう。」
お久しぶりです。今年も祐蓉です。笑(オキ)
忙しい時期ですね。(ハル)