【No:2197】【No:2198】の続きです。
祐巳さんは私の胸で暫く泣いたあと、ぽつりぽつりと、さっきあったことや、彼女の胸のうちにあったことの断片を話した。
私は黙ってそれを聞いていた。祐巳さんの体はいつもよりも小さく感じた。
やがてどうにか落ち着いた祐巳さんが言った。
「ありがとう、由乃さん…。ごめんね」
私は彼女の頭をそっと撫でながら
「そんな台詞別に聞きたくないわよ」と返す。
事実、お礼を言われるようなことをした覚えもないし、謝られるようなことをされた覚えも無いから。
自慢じゃないが、私は人の為に何かしたことなんて、生まれてこのかた一度も無い。
だから祐巳さんに胸を貸してあげたのだって私がそうしたいからしただけのこと。これから何かするにしても、そういうことだ。
祐巳さんはそんな私の、些かぶっきらぼうな物言いに少し笑って
「うん、そうだね…。ごめん」
と、また謝った。
やがて昼休みの終わりを告げる予鈴が響いて来た。
祐巳さんは、まだ少し目を赤くしていたけれど、もう涙は止まっていて、表情も幾分しっかりしている。
それを確認して、私は教室の方へと歩きだした。
「私、ちゃんと薔薇の館に行くから」
私の後ろについて歩きながら祐巳さんはそう呟いた。
志摩子さんと会っても平気だから。我慢するから。逃げないから。
そんなことを自分に言い聞かせているように見える。
「そう」
私はそれだけ返して、それから一度廊下を立ち止まった。
振り返り、祐巳さんを見る。彼女の少し上気した頬にそっと手を添え、幾分真剣な眼差しで。
「祐巳さん。あまり無理しないで」
責めるような気持ちでは無い。私の本心から出た言葉。
だから祐巳さんは、少し微笑んで「うん」と答えた。少しは気分が楽になっただろうか。
教室のそれぞれの席に戻って程なく、始業のチャイムが鳴る。
それと同時に教室に入ってくる先生に、申し訳ないが私は一瞥もくれずに考え事をしていた。
どうしようか。『私が』どうしたいか。
祐巳さんのことも気になることは気になるが、それよりも気になるのは白い方…私の、もう一人の親友――
祐巳さんの話を総合してみると、志摩子さんは今日昼休み、いつものように祐巳さんを迎え入れたのに
突然強引にキスされたかと思うと、さらに突然「さよなら」を言われた格好になる。こんな理不尽なことがあるかって。
だからという訳ではないが、私は志摩子さんの親友として、彼女の側に居たいと思った。
彼女が心開ける人は少ない。
お姉さまである佐藤聖という人は今はいない。一番に心を開いている祐巳さんと、乃梨子ちゃんもこの場合
(本人不承知のままだが)当事者ということになる。そうするともはや志摩子さんは一人になってしまう。
自分が志摩子さんの為に何か出来るなんて思っていない。したいとも思わない。
ただ、今私は志摩子さんの側にいたいと思ったから、そうすることに決めたのだ。
さすがに授業中は無理だが、どうせ今日は志摩子さんは薔薇の館に来ることは出来ない。
仕掛け人の祐巳さんと違って志摩子さんには何が起こったのかさっぱりわからないはずだから。
混乱した頭で、祐巳さんのように強がるなんて出来るわけがない。
私は勝手にそう結論付けると、放課後志摩子さんを連れ出す算段を立て始めた。
もっとも私が青信号で志摩子さんにくっついていけばいいだけだから(あの志摩子さんが追い返すなんて出来るわけないんだから)考える必要も無いんだけど。
とりあえず右から左に流れた五時間目の授業が終わると、同じくぼんやりとしていた祐巳さんを横目で見つつ私はすぐに行動を開始した。
といってもすぐに志摩子さんのところに行くわけではない。この休み時間はたったの10分。
私は黄薔薇さまとして最低限節度を守って、それでも急ぎ目に二年生の教室を目指した。
乃梨子ちゃんの教室にたどり着くと、側に居た子に取次ぎを頼むよりも先に、私に気付いた乃梨子ちゃんが出てきてくれた。
「ごきげんよう、黄薔薇さま。どうなさったのですか?」
私が彼女を訪ねるというのは珍しい。多少訝って乃梨子ちゃんは言った。
「ごきげんよう、乃梨子ちゃん。時間もないし短刀直入に言うわね。今日、私と白薔薇さま、薔薇の館に行けないかもしれないの。
だから今日の仕事は乃梨子ちゃんの主導でやって欲しいの。だいたい、やることは把握しているわよね?」
私の言葉に乃梨子ちゃんは明らかに怪訝な色を浮かべながら「はぁ」と呟いた。
なぜ自分が。黄と白がいないなら紅はどうしたか。そもそもなぜそれを伝えに来るのが姉である志摩子さんではなく私なのか。
彼女の疑問はそんなところだろう。
どうしたら完結に乃梨子ちゃんに伝えられるかを思案していたところ、廊下の向こうから折よく見慣れた縦ロールが視界に入ってきた。
「ごきげんよう、黄薔薇さま。どうかなさったんですか?」
不思議な雰囲気をかもし出している私と乃梨子ちゃんを見て、彼女もまた不思議そうな顔をして訊ねてきた。
そういえば、ここは二年生の教室の前で、黄薔薇と白薔薇のつぼみ、紅薔薇のつぼみのそろい踏みは他の生徒からの好奇の視線を既に浴び
ている。
それだけにありのままを話すなんて、とてもじゃないが出来ない。だから彼女の登場は非常に有難かった。
どうせ後でこのドリルのところにも行こうと思っていたし。
「ごきげんよう、瞳子ちゃん。丁度よかったわ。瞳子ちゃんのところにも行こうと思っていたの。お願いがあって」
乃梨子ちゃんから一旦視線をきって、瞳子ちゃんの方へ向く。
「お願い、ですか?わたくしに?」
「ええ。大したことじゃないわ。『紅薔薇さまの側にいてあげて――』それだけ」
瞳子ちゃんの頭上にハテナが飛び交っているのが見えるようだ。そのあと少しムッとした表情。
(そんなこと。あなたに言われるまでもなく、私は祐巳さまの側にいますわ!)
そんなところだろうか。表情は雄弁だ。この子は最近祐巳さんに似てきたかもしれない。
私が少し微笑んで乃梨子ちゃんに視線を戻すと、さっきまでとは表情が違っていた。何か得心したような、それでいて複雑そうな。
思惑通り、彼女は大体の事情を推理してくれたらしい。
志摩子さんが来ないということを私が伝えに来たこと。そして祐巳さんの側に居て欲しいという私の台詞。
これだけで、祐巳さんと志摩子さんの間に何かあったらしいということまで辿り着いたようだ。本当に頭の回転の速い。
「そういうわけだから、乃梨子ちゃん、奈々と瞳子ちゃんをよろしくお願いね」
言うと
「わかりました」
とだけ真剣な面持ちで返してくれた。もっと問い詰めたい、何があったのか把握していたい。志摩子さんの妹として気になるのもわかる。
けれどもここが、この短い休み時間がそんな話をするのに相応しくは無いことも分かっているのだろう。
ちなみにこれを乃梨子ちゃんに頼んだのは、ただ単に瞳子ちゃんや奈々よりもつぼみとしてのキャリアが長く、一番ノウハウが身について
いるというそれだけの理由で深い意味はない。マリア祭も終わって次の大イベントの学園祭まではまだ時間がある今の時期、それほど急を
要する仕事は無い。資料の整理なんかが主だ。
それでも指示だしをする薔薇さまの不在はつぼみになって日の浅い奈々や瞳子ちゃんを戸惑わせてしまうかもしれない。(紅は今日は使い
物にならないと思って間違いない)
それじゃあ今日は集まり自体を中止にしてしまえばよかったのだが、祐巳さんが「薔薇の館に行く」と行ったのに中止にしてしまうのも何
だかなと思ったから。それに急に今日の集まりを中止にしたら自分のせいだって思いかねないし、一度中止にしてしまうと忙しくないこの
時期には薔薇の館自体に足が向かなくなってしまうかもしれない。
そんなことを考えて、私らしくないと思わず苦笑する。
(要はあれよ!志摩子さんと私の二人っきりのムフフタイム(?)を邪魔されたくないだけよ)
心の中で呟きながら、満足した私は二人に挨拶をして教室へと踵を返した。瞳子ちゃんが再びハテナをいっぱいに浮かべて私を見ていたが
、まあ別にいいだろう。
教室に帰ると、休み時間になってすぐに飛び出していった私を不思議そうに見ていた祐巳さんと目があった。
でも何か言葉を交わす前に始業ベルがなって、そのまま六時間目の授業が始まった。
放課後、私は速攻で掃除を終わらせると教室を飛び出した。
祐巳さんが私の方を見ていたので、ウインクをしてやると変な顔をされた。
でもダメダメ。私の心は今祐巳さんより志摩子さんに傾いているのだ。
もしどっちか一人としかキス出来ないなら志摩子さんと……って違う違う。
とにかく私は祐巳さんをほったらかして、志摩子さんの教室に向かった。
祐巳さんは宣言した手前、ちゃんと薔薇の館に行くだろう。そうすれば事情も何も知らない瞳子ちゃんがちゃんと祐巳さんを受け入れてく
れるだろう。いつものお小言なんかをつけて。
私は愛しの志摩子さんを目指して彼女の教室に突入した。
もしかして早退でもされてたらどうしようとか思ったけど、すぐにそんな心配は杞憂に終わる。
志摩子さんは教室の掃除を終えて一人黙々と掃除日誌を書いていた。
なんというか悲劇のヒロイン然としたオーラ。教室に突入してもまだ私の存在に気付かない志摩子さんにちょっとイラッとしたけど、まあ
いい。
「志摩子さん」
私の言葉に、はっとしたようにこちらを振り向いた志摩子さんの目は、予想通りというか心なし赤かった。
出てくるときの祐巳さんだって、もうその目の赤みは退いていたのに。
「あら、由乃さんなの?ごきげよう…」
そう言ってぎこちなく微笑む志摩子さんに、私はまたちょっとイラッとした。
私は怖い顔でもしてたのだろうか、志摩子さんはちょっと怯えるように上目遣いで私を見てくる。
今度はちょっとドキッとしたので相殺してあげることにする。
フッと笑みを零して私は言った。
「掃除、終わったよね?ちょっと付き合わない?」
志摩子さんはちょっと小首を傾げたあと「ええ」と頷いた。
志摩子さんが帰り支度をするのを待って、二人で掃除日誌を返しに行く。
志摩子さんはぼんやり前を向いて歩いていた。
職員室を出て、校舎を出てから志摩子さんが口を開いた。
「由乃さん、どちらへ…?」
ごきげんよう、黄薔薇さま、白薔薇さま、そんな下級生の挨拶に笑顔を返してから私は口を開いた。
「薔薇の館へなんかいかないわよ。私は今日はサボるって決めたんだから。志摩子さんも付き合いなさい」
命令口調で傲慢に、私らしく。
「ええっ!?」と呟いた志摩子さんの口調は驚き半分、ほっとしたのが半分というところか。
「そうね、古い温室に行こうかしら。来るわよね?」
私の言葉は多少高圧的だろうけど、彼女の行動に関して私の意志は関係ない。志摩子さんの返事は「来る」か「来ない」で
「ついて来る、ついて来ない」ではない。志摩子さんはコクリと頷いた。
温室のベンチに並んで座る。志摩子さんは俯き加減に、私は「相変わらず荒れてるわね」なんて辺りを見回しながら感想を述べる。
「今日志摩子さん、5、6時間目の授業出たわよね?」
「ええ…」
唐突に切り出した私の話に、志摩子さんはすぐ返事をよこした。どうやらここまで連れ出した私の行動の理由も
彼女なりに思い当たっているのかもしれない。
(それにしても、出てたのか、授業。まあ白薔薇さまがサボるわけにはいかないか)
自分だったらサボっていたような気がしなくもない。でもまあ、やっぱり黄薔薇さまがサボるわけにはいかないか。
暫く沈黙が続いた。
「私は間違っていたのかしら…」
志摩子さんが、独り言とも、私に向けて発したとも取れる小さな呟きをもらす。
「祐巳さんの側に居られるのが幸せで、それさえあれば、それ以上何も望めないと思っていた。
でも私は…そんな私の、祐巳さんに依存する態度が彼女を息苦しくさせていたのかも、苦しめていたのかもしれないわ…」
ほう、そう解釈しますかこの仔猫ちゃんは。
志摩子さんの目から、またうっすらと涙が滲んでいる。
彼女なりにいろいろと考えていたんだろう。
でもこの美しいガキんちょは、とても聡明なくせに自分のことになるととことんネガティブになって
凹みスパイラルに陥りやすいことを私は知っている。
彼女の双眸からハラハラと毀れだした涙はそんな志摩子さんの気持ちを溢れ出させるかのように彼女の頬を伝い落ちる。
「私…私どうしたらいいのか、わからなく…て…」
志摩子さんの喉がつっかえ、言葉を紡ぐのも儘ならないという風。私はそんな姿を、気持ち遠くから眺めていた。
「で、どうしたいのよ?」
「え…?」
私の険のある声に志摩子さんが顔を上げて私を見つめる。
泣き顔もまた美人だね、こりゃ。なんて横っことを考えながらその視線を受け止めて、私は続けた。
「あのね、私は二人じゃないんだし二人の間に何があったかも、二人が何を考えてるかも分からないわよ。当たり前でしょ?
それに志摩子さんだって祐巳さんだって相手が何を考えてるかなんて分かりっこない。別の人間なんだから。
だったら結局自分の行動を決定するのは自分しかいないのよ。志摩子さんがどうするのかは
志摩子さんがどうしたいのかということ以外では決められないのよ。私何か間違ったこと言ってる?」
いきなりずいと身を乗り出した私に志摩子さんは些か吃驚したみたいに目を開いた。
別に、勢いに任せて志摩子さんの綺麗な泣き顔を近くで堪能しようとか、そんなんじゃない。
「いえ、間違いではない…と思うわ…でも…」
まあ志摩子さんの「でも」はよく分かる。そう単純な話じゃないことくらい単純な私でも分かってるから。
「私は祐巳さんといたいわ…。それは偽りの無い気持ち…。でも、私は祐巳さんを傷つけてしまった…。
私と居ることで傷つく、そんな祐巳さんを見たくない、それもやっぱり私の気持ちなの…」
私はその志摩子さんの切実な告白を聞いて思わず大仰に溜息を吐いた。
「あのねぇ…。何の説明もなしに無理やりキスされて捨て台詞を言われて置いていかれた志摩子さんの方が、なんで祐巳さんの心配してる
のよ」
辛うじて「あんたバカ?」という台詞は飲み込む。
志摩子さんは今度は本当に驚いた顔をした。そこまで知っていたの?って感じ。
それからまた俯いて、自嘲気味に笑った。涙は一応今は止まっている。
「そうね…私は馬鹿なのかもしれないわ。本当は祐巳さんがどんなことを考えているのか、何も分からない…。
私のことをどんな風に思ってくれていたのか、私が祐巳さんにとってどんな存在なのか…怖くて確かめることも出来ない…。
でもね、由乃さん…これだけは、あの時分かったの。祐巳さんが傷ついてるって…。
私に『ごめんなさい』と繰り返した祐巳さんが、私のせいで傷ついてるんだって、それだけはわかった、から…」
また折角止まりかけた涙が溢れてきている。
何だかバカバカしい話だけれど。でもその実、凄く切実な問題なのかもしれない。
第三者である私はもちろん、祐巳さんも志摩子さんも、二人がお互いを必要としている、惹かれ合っていることは重々分かっている。
それならそれでいいじゃないかといかないところが難しい。多分本人達よりも第三者の立場にいるほうがよくわかる。
二人は惹かれ合いながらも、お互いに求めるものが微妙に違う。
そりゃあまあ当たり前の話。一対一の人間関係で、二人がお互いに求めるものの量や質が全く同じなんて、そんな気持ち悪い
のにお目にかかったことは無い。(志摩子さんと佐藤さんちの聖さんの関係はそれに近かった気もするけど。だから不気味な姉妹だったわ
…)クローン人間じゃあるまいし。
普通そんなお互いのニーズと、それに最適な距離感を測りながら形成されていくのが人間関係ってモノで。
この二人の場合、その相手の存在が大きすぎるのか何か知らないが、距離感の測り方が分からないのだろう。
そして我武者羅に近づき過ぎた結果として、今小さなひずみから音を立てて水が漏れ出したというわけだ。
いい気味……ってまあそれは置いといて。
コレばかりは当人同士にしか、どんなポイントが最適なのかは分かりっこない。
だから、志摩子さんと祐巳さんが向き合って二人で関係を紡いでいくしかないのだ。
「ねえ志摩子さん」
ちょっと私らしくも無い優しい口調で声を掛ける。
志摩子さんは手で一度目元を拭って、私の方に向き直った。
「結局志摩子さんの中で答えは出ないんでしょ?」
「ええ…多分いくら悩んでも、そうだと、思う…」
「ならやっぱり答えは祐巳さんと二人で見つけるしかないんじゃない?」
「祐巳さんと…二人で?」
「そう。さっきから言おうと思ってたんだけどね、志摩子さん。登場人物は二人いるわけ。
志摩子さんと祐巳さん。志摩子さんがどうするかを決めるのはさっきも言ったとおり志摩子さんだけど
二人の関係を如何するかを決定するのは志摩子さんじゃないわけ。それは登場人物二人の意思が必要なの。
だから一人で考えても答えなんか出るわけ無いわ。志摩子さんには祐巳さんが何を考えているか分からないんだから。
祐巳さんの気持ちを推し量ってるだけで『これが正解』なんて答えが出るとでも思ってるの?」
志摩子さんは私の言葉を聞いてつと押し黙った。
まあ、我ながら言っていることが二転三転してるような気もするけど、言いたいことは大体言ったし
もう満足したから帰ってもいいかな。
あ、でももうちょっと志摩子さんと一緒にいたいから居よう。
まったく、祐巳さんもそうだけどこのお子ちゃま達は本当に魅力的なんだから。
それから志摩子さんは返事を返すことも無く暫く黙りこくっていた。
温室の外はいつしか赤い光に包まれている。見えないけれど、夕焼けは絶好調のようだ。
どれくらいそうして無言で座っていただろう。
志摩子さんがポツリと言った。
「由乃さん、ありがとう」
だから、私は自分の為にしたいことをしてるだけだから御礼を言われる筋合いなんて無いんだって。
そう言おうとしたけれど、そこにあった志摩子さんの笑顔があまりにも綺麗で、言うタイミングを逃した。
頬が赤くなったのが自分で分かったから。こんな状態でそんなこと言ったら、まるでどこかのドリルみたいじゃないか。
だから私は何も言わずに、つんつんと志摩子さんのほっぺたを突いてみた。
私の動作が自然だったのか志摩子さんは素直に私の謎の行動を受け入れている。
受け入れられると余計恥ずかしくなるのだけど、柔らかい頬が気持ちいいから暫くそうしていた。
これが私と志摩子さんの距離感。
私から志摩子さんへの、或いは私から祐巳さんへのベクトルは逆に比べて些か大きすぎるけれど
その代わりいろんなお零れに預かれる『親友』という役割も悪くはない。
そして無駄に長くなる