【2222】 蔦子陥落素直になれない私は右往左往  (クリス・ベノワっち 2007-04-07 05:58:42)


「よし、ラスト」
カシャリ、と年季のはいったカメラが鳴く。マリア様の下で照れくさそうに微笑んでいた少女達が、こちらに向かって頭を下げ小走りで去っていく。
「ふー。楽しかったけど、さすがに疲れたわね」
何枚撮っただろう、さすがバレンタインというところか。気づいてみれば1時間を軽く超えていた。あまりにも集中していたため気づかなかったが体中が冷え切ってカチカチだ。・・・でも、それに見合うだけの成果はあった。チョコを渡しあう姉妹や、チョコと一緒にロザリオまで渡してしまう子もいたりと、とても充実した濃ゆい時間を過ごせた。そういえば山百合会のイベントはどうなっただろう。
「ねぇ、笙子ちゃ・・」
振り向いた私は、隣にいるはずの笙子ちゃんを見て、息がつまった。

泣いている。

その瞳は私を通り越して、先程の少女達が消えていった方向を見つめ続けていた。
馬鹿だ。私は馬鹿だ。私は笙子ちゃんの想いを知っている。それなのに、延々と笙子ちゃんの目の前で、姉妹関係を結んだ幸せそうな少女達を見せ付けていたのだ。私はなんてことを・・
「笙子ちゃん」
そっと肩に触れ呼びかけると、笙子ちゃんは弾かれた様に気づいた。そして自分が泣いている事に酷く動揺し、私から顔を背けると同時に駆け出す。
「待って、笙子ちゃん!」
捕まえなければ、話をしなければダメだ。このままでは大切な何かが壊れる。そんなのはいやだ。私は笙子ちゃんと一緒にいたい。笙子ちゃんを失いたくない。

私は、笙子が、好き。

・・ああ、そうなんだ。やっぱりそうなんだね。
走りながら私は自分の気持ちを理解する。『妹をつくらない事で、ひいきのない写真が撮れる』なんてくだらないポリシーなんだ、自分の一番大切な人を、かけがえのない人を傷つけてまで守る程の価値はそこには無い。まだ間に合う、まだやり直せる。さあ、手を伸ばして・・!

「あっ・・」
私の手が笙子ちゃんを捉えると、おとなしく止まる。でも笙子ちゃんは俯いたまま顔を上げてはくれなかった。私に付き合っていた為であろう、笙子ちゃんの手はとても冷たかった。私がその手を取って両手で包み込んで暖めていると、細くかすれた声で笙子ちゃんが呟いた。
「ごめ・・な・・さ、い。・・・ごめっ・・・なさ・・」
両目から溢れる涙を、空いた方の手で何度もこすりながら笙子ちゃんはひたすら謝っていた。
「何故、貴方が謝るの」
悪いのは私だ。貴方をここまで追い込んでしまったのは私だ。
「私は、知って、いたのに・・・、蔦子さまが、・・っく、妹を、つくら・・ない・・って」
涙を止めようと必死に堪える姿が痛々しくて、私は何も言えなくなる。胸が、苦しい。
「だから・・気付かれちゃいけなかった。この、想いを。隠さなきゃ、いけな・・かった」
「でも、あの人達は凄く素敵で、幸せそうで、私には無理なんだって、なれないんだって」
「凄く苦しくて、でも、蔦子さまを苦しめたくなくて、でも、凄く苦しくて・・・」
再び堰を切ったように溢れ出す涙を、私は見る事が出来ずに、思わず笙子ちゃんを抱きしめる。
「どうしたらいいか、もう・・・・わからなくて」
笙子ちゃんが私の胸の中で震える。こんなに小さい体で、どれだけ我慢してきたのだろう。どれほど頑張ってきたのだろう。ごめんね。ごめんね笙子ちゃん。ごめんね。

「笙子」
少しして笙子が落ち着いてきた頃、私は呼びかけた。敬称をつけなかったことで笙子はハッと顔を上げる。それはきっと、笙子が自ら封印していたはずの未来図にふれたからだろう。
「好きよ、笙子。私は貴方が好き」
「蔦子さま・・」
抱きしめたまま、瞳を逸らさずに気持ちを伝える。笙子は期待と不安が混ざった顔でおずおずと私を見上げてくる。
「だから、ずっと私の側にいなさい。隠し事や悩み事もダメよ。泣くのも禁止、私は貴方の笑った顔が、どうしようもなく好きなの」
一つ深呼吸をしてから、リリアンでは聞きなれた、けれど私にとってはとても新鮮なフレーズを笙子に贈る。

「私の妹になりなさい」

それは、きっと魔法の言葉で。

「っ・・・・・・はいっ!」

結局、私はまた笙子を泣かせる事になるのだけど、まぁこれは嬉し涙だからいいよね。

「・・・蔦子さま、泣いてるんですか?」



・・・不覚、私もか。


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