【2257】 瞳子ドリル!の距離がちょっと遠い  (篠原 2007-05-09 21:21:44)


『クリスクロス』より?


 ちさとはふと前方を歩いていた一人の生徒に目が引きよせられた。
(ん?)
 たくさんの生徒の中で、何故その一人に引きよせられたのだろうか。
 彼女も、みんなと同じ制服を着て、同じように地図を持っている。特に背が高かったり太っていたりという身体的な特徴があるわけでもない。
(ああ、そうか)
 視線、だ。他の生徒たちがカードを探してきょろきょろしている中で、一人だけ目的を定めてまっすぐに向かう姿が目立ったのだ。
(どこにいくのだろう?)
 ちさとは知らずに後を追っていた。どこに行くのか見届けるまではひき返せなくなっていた。
 やがて、彼女は社会科準備室の前で立ち止まると、その扉を開いた。その時、初めて顔が確認できて、誰だかがわかった。
(松平瞳子……!?)
「瞳子ちゃんをバカにするなー!」
「うわぁっ!!! ………って、祐巳さん!? なんでこんなところに?」
「だって瞳子ちゃんだよ!? シルエットでわかるでしょう! 身体的な特徴が無いって? 顔を見るまで瞳子ちゃんだと気付かないなんて、そんなのありえないよ!? ていうか瞳子ちゃんをバカにするなー!」
「バカは祐巳さまです!」
「わあっ!!!」
「………」
「と、瞳子ちゃん? なんでここに」
 それはこっちのセリフだ。とちさとは思ったが黙っていた。気のせいか、怒鳴りつけられた祐巳さんは微妙に嬉しそうだし。

「なんでもなにも、宝捜しでここにいましたから。あれだけ騒がれたら嫌でも聞こえます」
 そう言って、瞳子はずいっと祐巳さまにせまった。
「それで、私が何ですって?」
 つられるように一歩退く祐巳さま。
「だ、だって普通一目でわかるじゃない。シルエットでわからないわけないよ。この人はドリルを、瞳子ちゃんの存在意義を全否定したんだよ!」
「バ カ は 祐 巳 さ ま で す !」
「ええっ!?」
 ドリルとか存在意義とか。何故この人はこんなにも、無防備な言葉を瞳子に向けてしまえるのだろう。
 結局は、この人も私のことをそんなふうに見ていたのだ。一瞬でも信じたいと思った自分がバカみたいだ。
「やっぱり、そういうことなんじゃないですか」
 黙りこんだまま、目を瞬かせている。この人は、まだ自分のミスに気付いていない。
「私の存在意義が何ですって? おかしいと思ったんですよ。私が私であればいいなんて」
「え、えーと………、何を怒っているのか、わからないわ」
「無意識にされていたことなら、尚のこと始末が悪いです」
「ねえ、何か誤解していない? 私はドリルがドリルであれば、本当にそれだけでいいの」
「だからそれです!!」
 瞳子は力一杯叫んだ。
「え? でも、ドリルは漢の浪漫だよ?」

 火に油だった。





「瞳子ちゃんとは、しばらく距離をおこうと思って」
「そう」
 祥子さまの相槌に、祐巳は頷いた。
「何か、誤解があるみたいなんですけど………」
「誤解ぢゃねえええええぇーーーーー!!!!」


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