「ねぇ聖?」
「ん〜?」
いつものように、放課後の薔薇の館。
紅薔薇さま水野蓉子が、苛立ちを隠そうともせず、白薔薇さま佐藤聖に問い掛けた。
「何を見てるのよ?」
「ん〜、通販の下着カタログ」
「……一応今は、仕事の時間なんだけど」
三薔薇さまを筆頭に、ここでは生徒会のお仕事中。
「分かってるよ。でも、仕事をしている人の邪魔をしないのが私の仕事だからねー」
「結局、仕事をする気はないってことね。で、なんでそんなもの見てるのよ」
どうせ言っても無駄なので、蓉子らしいのからしくないのか、それ以上の追求はしなかった。
「いやぁ、誰にどんな下着を着せたら似合うかなぁって、知的なゲームの真っ最中ってワケ。例えばさぁ……」
辺りをグルリと見渡す聖。
「例えば江利子なんて、何故か色付きは似合わないわよね。純白の三点セットなんてどう? 上下にガーベル、ガーストで攻めたら、熊親父もイチコロなんじゃ?」
「もう既にやってるわよ」
顔も上げずにしれっと言ってのけた黄薔薇さま鳥居江利子の言葉に、流石の蓉子、聖も唖然。
「……あ〜はは、はは、そうなんだ。ま、まぁそれはおいといて」
珍しく困惑の表情で、江利子から視線を逸らす聖。
「蓉子なんかは……、やっぱり紅薔薇らしく赤い色の下着なんてどうかな? 大人っぽくてよく似合うと思うよ。なんなら、買ってあげようか?」
「い、要らないわよそんなの!」
若干頬を紅く染めて、プイと横を向く蓉子。
「?」
疑問符を浮かべる聖だったが、それもそのはず。
奇しくも蓉子は今現在、女子高生らしからぬ赤い上下セットを纏っていたのだから。
いくら聖でもそこまで知っているとは思えないが、図星を指されたせいか、挙動が不審。
「他には、令なら……」
「私なら?」
興味半分といった風情の黄薔薇のつぼみ支倉令。
「ダメだ〜、スポーツブラしか思い浮かばないよ」
「……どうせ私は、セクシーランジェリーなんて似合いませんよ」
「あーゴメンゴメン、そんな意味で言ったんじゃないのよ」
ちょっと拗ね気味の令に、手を合わせて謝る聖。
でも令は、部活もあるし動きやすいことから普段もスポブラなので、別に本気で拗ねてるわけではない。
慣れてしまっているので、むしろ普通の下着には少し抵抗があるくらいだ。
「祥子はどう?」
いつの間にか興味津々の蓉子は、妹である紅薔薇のつぼみ小笠原祥子の名を挙げる。
「うーん、祥子は……。そうだな、紫なんて似合いそうだなぁ。人を選ぶ色だけど、高貴なイメージがあるから」
「あらピッタリね」
「そうですか?」
見かけはちょっと嫌そうにしているが、満更でもなさそうって祥子の雰囲気が、蓉子にはアリアリと窺えた。
「ごきげんよう」
『ごきげんよう』
遅れて姿を現した、白薔薇のつぼみ藤堂志摩子と、黄薔薇のつぼみの妹島津由乃、紅薔薇のつぼみの妹福沢祐巳。
「志摩子はどう?」
表情からは、まるで興味なさそうに見えたのだが、江利子までが食い付いてきた。
突然名を呼ばれ、キョトンとする志摩子。
「むー……。まぁ欲を言えば必要ないんだけど」
「どういう意味よ?」
「白かな、って思ったけど、黒もなかなか似合いそうじゃない?」
「そうね、色白だから、白よりも黒の方が映えそうね」
ジト目の蓉子から目を逸らし、志摩子に視線を向ける聖に、江利子が同意する。
「あの、何の話でしょうか?」
「どんな下着が似合うかって話」
志摩子は、困った顔で由乃と祐巳を見た。
「じゃぁ、祐巳ちゃんと由乃ちゃんはどう?」
『う〜ん……』
聖だけでなく、蓉子も江利子も、何故か祥子や令も加わって、祐巳と由乃の頭のてっぺんからつま先まで、ジロジロと観察し始めた。
考えること数十秒、五人は同時に口を開いた。
『グンゼ?』
そのある意味酷い評価に、祐巳と由乃はしばらくの間、本気で落ち込んだと言う……。