【2315】 そこのけそこのけ訳わかんないからあしたをつかめ  (まつのめ 2007-06-21 18:38:08)


 ※戯言※
 昔の人は言いました。『テレビを見ると馬鹿になる』と。
 お久しぶりです。まつのめです。最近というかちょっと前からネット上の動画配信が大変なことになってますが、多分にもれずまつのめも影響を受けて色々視聴している次第。
 馬鹿になるかどうかはともかく、どうやら見過ぎると筆が鈍るようです。皆さんもどうかお気をつけください。
 さて、まだ本調子とは言い難いのですが、リハビリもかねて一本。
(パロディとのクロスといえるかも。知らない人は置いてきぼり気味。暴力的表現に敏感な人は要注意)




 1 『二条乃梨子と物騒な少女』


 リリアンの銀杏並木には、一本だけ桜の木が混じっている。
 今は夏。件の桜もこの季節は青々と緑の葉をなびかせて、そこに付く虫達が繁殖していた。
 まるで近づく者達を追い払うかのように。


 時は正午も回ってこれから最も暑くなるという時間。制服に身を包んだ乃梨子はひとり、リリアンの銀杏並木を歩いていた。
 休み中なのに学校にいる訳は、既に山百合会の仕事で自主登校な日々が始まっていたからであり、仕事もせずに外を歩いているのは準備の都合で仕事が途絶えて暇になったからであった。
 そんな乃梨子だが、いつもクールな彼女の表情が今は何故だか良く晴れた天気とは裏腹にどんより曇っていた。
 もちろんこの炎天下。熱の吸収の良い黒の制服がとても暑苦しいからという理由もあるが、それはあくまで二次的なことだ。
 それはほんの十数分前のことだった。
 紅薔薇さまである祐巳さまが、書類の承認の関係で明日にならないと仕事が進められない言い、今日はこれにて解散と宣言したのだ。
 それを聞いた乃梨子は、「こんなことでいいのか山百合会」と思う前に、思いもかけずに志摩子さんと纏まった時間を過ごせるチャンスが来ことを喜んでいた。
 そして、折角だから単なる寄り道では行けない所まで足を伸ばそうとかあれこれ計画を考え始めたのだけど、喜んだのも束の間。志摩子さんに今日は最初から家の手伝いがあるから午前中で抜けるつもりだったと言われてしまったのだ。
 そんなわけで、「だったら一緒にどう?」という紅色と黄色の中睦まじい姉妹の誘いを心の中で「嫌がらせか」と思いつつ謹んでお断りし、ほぼ同時に薔薇の館を出たものの「ちょっと教室に用があるから」と一旦別れて、その一行に追いつかないようにと半ばヤケクソ気味に暑い中、校庭をさ迷っていたのだ。

「はぁ……」
 ため息をつく乃梨子の頬を汗がつたう。
 なんとなく足はあの一本の桜の木に向かっていた。
 この季節に見ても緑の葉が繁茂しているだけで何の面白みも無いのだけど。
 虫もいるし。
 それでも前方に見えてきた緑の葉をピンク色に置き換えて、かつて志摩子さんと出会ったあの風景をに重ねてみた。
(もう一年以上前のことなんだな)
 こうして花の季節以外に来ることは珍しいのだけど、いつ来てもこの場所は志摩子さんとの出会いにまつわる大切な場所だと思えた。
 いまでもはっきりと思い出せるあの光景。ちょうど木の下のあの辺りに志摩子さんが……。
「……あれ?」
 緑のかたまりから視線を下ろすと、丁度乃梨子が志摩子さんをイメージしていた辺りに一つのシルエットが佇んでいた。


 その、葉に澄む虫達の存在も気にしない様子で桜の葉っぱを見上げていたのは、えーっと、少女?
 乃梨子が彼女(?)の性別を見紛うのも無理はない。
 乃梨子と余り変わらない身長や、全体の線の細さや体つき、幼さの残る顔などからようやく乃梨子と同年代の少女らしいと判るのだけど、服装だけを見るととても女の子とは思えない。
 このくそ暑いのに長袖シャツと長ズボン。しかも色も暑苦しいカーキ色。
 その上、いかにも実用重視といった濃いグレーのベスト。
 足元を見ればごつい黒のブーツ。あれは安全靴ってやつか?
 極めつけは、ざんばらに短く切られ、ロクに櫛も通していないであろうぼさぼさの黒髪だ。
 彼女は顔は見上げたまま、視線だけこちらに向けていた。どうやら乃梨子が彼女を認識する前から乃梨子の存在に気付いていたようだ。

 やがて、三メートル位まで近づくと彼女は顔をこちらに向けた。
 顔を見れば切れ長の大きな目。表情は乃梨子以上に仏頂面、というより眉根にしわを寄せ。口をへの字に引き結んたしかめっ面だった。
 彼女は射抜くような鋭い視線で乃梨子を睨んでいた。
 でも、良く見ればその整った顔は髪型をちゃんとして、表情をもっと柔らかくすれば十人中十人が振り向くような美人であろうと思われた。
 その、存在感だけは異様にあるが、この場所にはあまりにミスマッチな彼女を目の当たりにして、乃梨子はしばらく息をするのも忘れてその姿を見つめ続けていた。
「……ぁ」
「え?」
 彼女が声を発したことに気付いて、ようやく乃梨子は我に返った。
 彼女はもう一度言った。
「おい、女」
「……は?」
(今、なんと?)
 容姿や体格に似つかわしくない低めのハスキーボイス、そしてその口調に、乃梨子はまた息をするのを忘れそうになった。いや、服装には合ってるのかもしれないが。
 彼女は続けて言った。
「……おまえは何者だ。何故休暇中にこのような場所にいる」
「何者って……」
 いきなりのおよそ友好的とは思えない態度に乃梨子は思わず表情を歪めた。
 一つ判ったことは、どうやら普通に日本語が通じる人間らしいってことだ。いや、見るからに純日本人風ではあるけれど。
 乃梨子はようやく認識できた状況と質問の意味を頭の中で整理しつつ答えた。
「え、えーっと、私は山百合会の仕事があって昨日から自主登校なんだけど……」
 彼女の表情が微妙に険しくなった気がした。
「山百合会? ここの学生の自治組織のことだな」
「じちそしきって、そう。『山百合会』は生徒会みたいなものよ」
 いちいち使う言葉が堅苦しいのだけど、意味はあってる。
「そうか。つまりキミは自治組織の役員で、その仕事の為に学校の夏季休暇であるに関わらず登校しているのだな。ならば問題ない」
 何が問題ないんだ?
 つうか『キミ』ですか?
 いちいち言動が不可解なんだけど、こんなところで彼女はいったい何をしていたのだろう?
 彼女はそれきり乃梨子には興味を失ったように、また桜を見上げたと思うと、今度は講堂の建物を見上げたり並木道を前後に見渡したりし始めた。
「……何をしているの?」
「なんでもない。気にするな」
 いや、そんな事を言われても、こんな人気の無い休み中の学校に、こんな異様な格好でこんな怪しい行動を取る人間がいたら、興味を持たない方がどうかしている。
 だが、興味を持ったことに後悔するのにそんなに時間はかからなかった。
「あなた、リリアン学園の関係者よね?」
 乃梨子がこう話しかけると、彼女は動きを止め、そしてきっぱりと言った。
「関係ない」
「はぁ? じゃあ何でここに居るのよ? ここはリリアンの敷地内なのよ」
「偶然、迷い込んだだけだ」
「んなわけあるか!」
 あまりの白々しさに思わず突っ込んでしまった。
「問題ない」
「大有りよ! ここにはちゃんと警備員がいるんですからね。関係者以外立ち入り禁止なのよ」
 敷地は高い柵で囲まれていて、主要な出入り口には警備員が常駐しているのだ。塀の上には監視装置くらいついているだろう。
「あんなものは無いに等しい。本気で敵襲に備えるなら最低でもセントリーガンくらいは装備する必要があるだろう。警備兵も職務を遂行しているとは言い難い。もっと優秀な人材を雇うべきだな」
「ちょっと、何の話よ?」
「キミがここの自治組織の人間だと聞いたから、この学校の警備体制について忠告を与えているのだ」
「忠告って、敵襲とか警備兵とか物騒なこと言わないでよ」
(もしかして、この子……)
 ようやく彼女の服装や言動に一致する人種が乃梨子の脳裏で検索にヒットした。
「何をいうか、民間の学校でも外部から兵隊を雇って警備に当たらせる位は普通に行われているではないか」
「どこの紛争地帯のはなしよっ! ここは平和国家日本の真っ只中なんですからね!」
 彼女が妙な事を力説するので思わず怒鳴ってしまったが、彼女は動じた様子も無く平然としていた。
(つまり『軍事オタク』ってやつ? しかも女の子。なんてレアな……)
 一応、乃梨子の話は聞いているようだ。
 なにやら果てしなく疲れを感じつつ、乃梨子は言った。
「はぁ……。とにかく嘘はつくのやめて」
「嘘? 何のことだ?」
 この期に及んでまだ言うか。
「『学園の関係者じゃない』って嘘でしょ」
「ここには偶然迷い込んだのだ」
「じゃあ、何で『山百合会』って聞いてすぐ学生の自治組織って判ったのよ? 関係者じゃなきゃこんなことしらないわよ。っていうか、スパイかなんかのつもり? 警備がどうのこうのって言ってたわね? もしかしてここにも忍び込んだんだったりして?」
 そのとき、ピリリリと携帯の着信音らしき単調な音が響いた。
 彼女はポケットから見たことの無い型の携帯を取り出して耳に当てた。
「………今、学生の自治組織の構成員と名乗る女に捕まっている」
 相手方の声は聞こえなかったが先に何か聞かれたようだ。
「………そう言う意味ではない。だが、隙を見せた覚えは無いのに疑われている」
 彼女は会話をしつつ乃梨子の方を伺っている。
 もしかしてヤバイ雰囲気? 軍事オタク仲間からの電話?
「……可能性はある。判った。ならば確保して尋問する」
(何ですって?)
 どうやら本格的にヤバそうだ。
 スパイごっこか何かをしているのかもしれないが、こういう連中は思い込みが激しいと聞く(※乃梨子の偏見です)勝手に敵の工作員役にされてしまっては堪らない。
「……了解した。早速確保に移る」
 乃梨子は電話が終わるのを待たずに走り出していた。
「待て!」
 背後から彼女が叫ぶのが聞こえた。
(冗談じゃない。可愛い顔してたから油断した。あれは変質者の一種だ)
「止まれ! 止まらんと撃つぞ!」
 走りながら振り返ると彼女は何かを構えていた。モデルガンだろう。
 気にしないで乃梨子は走りつづけた。
 関わりになるのは御免だ。よしんばそれが『只の戦争ごっこ』で実害が無いとしても、だ。
 だが、乃梨子は甘かった。それは、『戦争ごっご』なんていう生易しいものでもなかったのだ。

 何かの破裂音が響いた。
 その直後、乃梨子は頭部に強い打撃を感じて昏倒した。
(なに? 撃たれたの?)
 一瞬、意識が飛んで、気が付くと地面にうつ伏せになっていた。
 後頭部が凄く痛い。転んだ時に打ったのであろうか、額も痛い。
 混乱する乃梨子の頭に『改造モデルガン』という言葉が浮かんだ。
(私、死ぬの? 変質者に撃たれて?)
 足音が近づいて、背中に圧し掛かる重さを感じ、次に両手を後ろに回されて手を拘束された。
 そして首の後ろに固い感触。
「し、死ぬ。死んじゃうっ……」
 乃梨子がそう言うと彼女は言った。
「さっきのは暴徒鎮圧用のゴム・スタン弾だ。命には別状無い」
「へっ?」
 乃梨子は背後から撃たれて頭から血がどくどく流れていると思っていた。
 が、頭を実弾で撃たれて生きている訳が無いことはちょっと考えれば判ることだった。
「それにこれは特別に威力が弱めてある。問題なく話せるはずだ」
 弱めてこれか。ものすごく痛かったんですけど。
「っていうか、何処触ってるのよ! ちょっと止めて!」
 背中を押さえつけられれたまま、腹や胸、そしてお尻の周りを弄られた。危険物を持っていないか調べているつもりらしい。
「大人しくしろ。お前の負けだ」
 ゴリっと首の後ろの固い感触が動いた。
「ま、負けって何の!?」
 乃梨子が怯まずそう叫ぶと、少々呆れたような口調で、
「死にたいのか? それとも演技か?」
「何のことよ?」
「何処の組織の差し金だ。所属をいえ。おまえの目的は!」
 目の前に銃の先が見えた。先ほど発砲したのとは別の銃だ。
 彼女はその銃の先で乃梨子の顔を無理やり横に向けた。
「だから山百合会の……」
「情報では山百合会は単なる学生の自治組織の筈だ。裏で手を引いているのは誰だ!」
「そんなの居ないってば! いい加減にしなさい! それがモデルガンでもこれは立派な犯罪行為よ!」
 暴行、傷害、脅迫。すでに軽犯罪の域を超えている。
 乃梨子が毅然として彼女を睨んだが、彼女は変わらず冷静な目で言った。
「モデルガン? これは本物だ」
 そう言って彼女は乃梨子の視線の先にある銀杏の木の幹に向けてそれを発砲した。
 パンと軽い音がして、それは木の幹に穴を穿った。
(うそっ……)
 乃梨子の顔から血の気が引いた。
 言うべき言葉を失って、口をパクパクさせているとまた彼女の携帯が鳴った。
 彼女は乃梨子を押さえつけたままそれに出て
「今、ターゲットを確保した。やはり単独行動のようだ。この周辺にも敵の気配は無い。現在尋問中…………なに!?」
 『なに』のところで彼女の表情が変わった。今まで仏頂面というか、冷徹な表情だったのが、なにか焦ったような困惑したような表情になった。
 どういう訳か顔中に冷や汗も掻いている。
「そ、そうか。対応がまるで素人なのは演技ではなかったのか…………りょ、了解した」
 携帯にそう言った後、彼女は乃梨子の方を見た。


 乃梨子は開放された。
 何がなんだか訳がわからないので、とりあえず恐る恐る立ち上がり服に付いた土を払ったが、気が付くと彼女はいつの間にか銃やら手錠やらを何処かにやって、何事も無かったかのように近くに立っていた。
 乃梨子は怯えつつ彼女に視線を向けた。
「……君は本当に民間人だったようだ」
「当たり前でしょう! なんなのよ?」
「私のミスだ。迷惑をかけたことは謝罪する」
(謝罪する? とても謝っている態度には見えないんですけど)
 彼女は背筋を伸ばして姿勢良く立ち、こちらを見つめているが、『謝罪する』といいつつ、まだ一ミリも頭を下げていない。
(でも……)
 その瞳は何処までも真っ直ぐで一点の曇りも無いように見えた。
 不満はあるが、どうやらこれ以上の危険はなさそうだと判断して、乃梨子は言った。
「説明して欲しいんですけど。っていうか、あなたが何を言っているのか理解できないわ。あなた何者? どうしてそんな危ないものを持っているの? ここで何をしていたの?」
 矢継早に質問する乃梨子に対して彼女は、視線を地面に向けてなにやら考えている様子だったが、やがて視線を乃梨子の目に戻してこう言った。
「キミに納得の行く答えを提供できるか自信が無いが聞いてくれ」
 変なことを言うやつだと思ったが、取りあえず続きを待った。
「私は二学期からこの学校に編入されることになっている」
「なんだ。やっぱり関係者じゃない」
「今日は学校の下見に来ていたのだ」
「下見? じゃあなんで『関係者じゃない』とか嘘付いたのよ?」
「まだ身分証が発行されていないから嘘ではない」
「ふうん……」
 怪しい。いかにもとって付けたような言い訳だ。だいたい、あんな危険物を持っている理由を全然説明してないじゃないか。
「納得してくれたか?」
「してないわよ。あんなことされて出来るわけ無いでしょ。トラウマになったわ!」
 頭を銃で撃たれるなんて、二度としたくない経験だ。いや、普通なら二度目は無いのだけど。
「すまない。キミに与えた精神的苦痛は何らかの形で保障したいと思う。損害賠償の請求が必要なら申し出てくれ。窓口を紹介しよう」
「そんなのいらないわ。だったら連絡先教えてよ。編入するんだから問題ないでしょ?」
 これは牽制のつもりだった。どうも難しい言葉を並べ立てて煙に巻かれそうな気配がしたから。
「了解した。口頭で良いか?」
「え? じゃあ……」
 驚いたことに彼女は即答で承諾した。
 乃梨子は鞄から筆記用具を出して、ノートの切れ端と共に彼女に渡した。
「……これに書いて」
「了解した」

 『相良宗子 0X0-XXXX-XXXX』

 返された切れ端には、大胆に勢いある書体(つまり女の子らしくない書体)で名前と携帯番号が書かれていた。
「さがらそうこ?」
「“名のり”で『のりこ』と読む」
「あら、偶然ね。私も『のりこ』なのよ」
「知っている。二条乃梨子だな。リリアン学園高等部二年生……」
(って、こいつ、何者!?)
 どういうわけか“相良宗子(さがらのりこ)”は乃梨子のクラスから出席番号、果ては同居人との続柄まで言い当てて見せたのだ。
 唖然とする乃梨子が“見てはいけない物を見てしまったような目”を向けていると、相良宗子は急に目を逸らして言った。
「……忘れてくれ」
「って、何をだっ!」
「私は連絡先を教え、キミは自己紹介をした。来学期からキミは私の先輩だ。ただそれだけのことだ」
「どんだけだよ!」
「……長生きしたいのならそう思うことだ。では、また会おう」
 そんな物騒な事を言い放ち、唖然とする乃梨子の前で彼女は踵を返して、逃げるように去っていった。
「……」
 そんな後姿を見守っていた乃梨子だが。
 数歩行ったところで何を思ったか彼女は立ち止まり、また戻ってきた。
「……ひとつ言い忘れた」
「な、なによ?」
「銃を突きつけられて無謀に暴れるのは自殺志願者のすることだ。もっと注意深く行動しないと長生き出来ないぞ」
「お、大きなお世話よ」
 あの時、乃梨子はそれが改造してあって弾が出るとしても、痛いだけで死ぬ程ではないと思っていたのだ。
「しかし、そんなことで命を落とすのは馬鹿げている。キミは常識に疎いようだから気をつけたほうが良い」
「アンタに言われたくないわよ!」
 どう考えても非常識の塊はこの相良宗子とやらの方ではないか。
「伝えることはこれだけだ。では――」
 そして彼女は足早に、今度は本当に去って行った。

 ――やはり、正門ではなく塀のある方に向かって。




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