『あなたを探しに』より
※【No:2226】朝生行幸さんの『どうすりゃいい?駆け引きされるのはいやだ』とか
【No:2227】柊雅史さんの『裏とか言うな福沢プロデュース』のパロディでもあります。
交差点を大きく回った時、カチャリと言ったのは何だったのだろう。
封筒の中に残された、デート資金の小銭?
それとも、祐巳のコートのポケットのロザリオ?
いや、それ以上に、心当たりのある音。
あれはきっとスイッチだ。ある道具を動かす時に発する音。
ある人物がいる所、必ずと言ってよいほど目にすることになる道具。
それは、“ドリル”。
それを、起動させる為のスイッチの音。
だってほら、続いてぎゅいんぎゅいんと回りだす音がした。
言うまでもないことだが、“ドリル”はごく間近にあった。
車内には、幸か不幸か乗客は祐巳と瞳子の二人きり。
あるいは、バスそのものに狙いを定めているのか。
ドリルが瞳子自身を狙うとは考えられないから、標的は絞られる。
あくまで祐巳の邪魔をしたいのだろうかドリルは。
そもそも、なぜスイッチでドリルで邪魔なのかという疑問は、祐巳には浮かばないようだ。
その“ドリル”がバスの破壊を目的としているならば、ちょっと怖い思いをするだけで済む。
でも、もし“その気”ならば。
間違いなく二人の仲を引き裂くつもりに違いない………何故とか聞くな。追い詰められた人間の思考に理屈は通用しないのだ。
そんなのは嫌だ。
せっかく姉妹になれるというのに。
姉妹になるのを、ドリルなんかに邪魔されるなんて嫌だ。
だから。
だから祐巳は、明日なんて暢気なことを言っていられなかった。
隣で寝息を立てている、瞳子を揺すり起こした。
「起きろ! 瞳子!」
「は、はい!? 何ですかお姉さま!?」
混乱しているのか、祐巳は瞳子を呼び捨て。
瞳子は瞳子で祐巳をお姉さま呼ばわり。
ロザリオ授受の儀式はまだだけど、既に二人の関係は、姉妹で完結しているようだ。
祐巳はその場で瞳子の手を取って、バスから飛び降りた。良い子はけっしてマネをしてはいけません。
月明かりの下、目を白黒させている瞳子を尻目に、ポケットに手を突っ込む。
そこには、確かなロザリオの手触り。
「はい、デートはこれで終了。デートが終わったから、今から返事、OK?」
「は、はぁ……?」
寝起きのせいなのか、バスから落ちたショックなのか、瞳子の意識はハッキリしておらず。
畳み掛ける祐巳に、呆然の面持ち。
勢いだけで祐巳は、ロザリオの鎖を輪にすると。
「とゆーわけで、瞳子ちゃんを妹にします。これが返事です。だから私の妹になりなさい。答えはハイかイエスか。さあどっち?」
「ちょ、ちょっと祐巳さま!? どっちも何も。そもそもロザリオの授受はリリアンで行わなければ意味が無いでしょう!?」
「あ、意外。そういうとこはこだわるんだね」
気持ちはわかるけどねと呟いて祐巳はふふふと笑った。
「でもそれはそれ。そんなに待ってられるかー!!!」
ぐばあっと両手を下から上に振り上げる祐巳。目の前にちゃぶ台があれば間違いなく引っくり返している勢いだった。
「だってこの状態で次は短編集なんだよ? こんな半殺し状態耐えられないよ!」
「生殺しです! 怖いですよ祐巳さま」
「早く続きを書くようにあんかけ炒飯差し入れに行くよ?」
「全殺しですよそれじゃ! よけい怖いですからっ!!」
「もうなんでもいいから受け取れやゴルァ!?」
無理やりロザリオをかけようとするが、ドリルの抵抗にあってなかなか首にかけられない。
どうやら祐巳も、バスの中で半分寝ていたようで、何でもない小さな音がキッカケで、とんでもない発想に結びついてしまったようだ。
常識で考えれば、ただの女子高生がドリルに狙われたり、ましてや次の新刊の内容がわかったりするワケがない。
昨夜、デートということでなかなか寝付けず、遅くまで既刊やSSを読んでいたのが原因のようだ。
「これで瞳子ちゃんは私のものよー……むにゃむにゃ」
「こんなところで、やめてください祐巳しゃま……」
こうして、心の中では姉妹が成立しているらしい二人は起きてるんじゃないかコイツらと疑われるくらい、息の合った寝言での会話を続けるのだった。
……………って夢オチかよ!