【2337】 あなたがいた場所  (クリス・ベノワっち 2007-07-21 23:31:06)


私は、マリア様やイエス様を信じている訳ではないし

むしろ、あの事があってからは憎しみの対象だったろう

だから私には判らなかった。何故彼女はあんなにも神を必要としていたのだろう

何故、私を選んではくれなかったのだろう

彼女の心の内を知る『すべ』は、もうないけれど

すこしでも知りたくて、彼女と一つになりたくて

その日、お聖堂の扉を開いたのは、きっとそんな理由だったのだろう

お聖堂の中はとても静かで。穏やかで

眼を閉じれば浮かぶ彼女の祈る姿が、本当にそこに存在してるんじゃないかって

かすかに聞こえる風の音が、彼女の吐息なんじゃないかって

そんな事、あるはずもないのにね

ゆっくりと奥に進みイエス様の前に跪き目を閉じる

そうしていると、時がゆっくり流れていく。心が白くなっていく

体の感覚がなくなって、風や空気と一体になる

昔、私はそんな様になりたいなんて考えていたなと、意識の片隅で思う

意識がふっと戻ったのは、微かな物音

お聖堂の扉が開く音

栞だ。と、心が泣く

栞だ。と、心が叫ぶ

足音が近づき、私の横で同じように跪く

私は眼を開ける事ができなかった

少しでも長くこの幻想に浸っていたかった

少しでも長く彼女を感じていたかった



彼女と、ずっと一緒にいたかった




「お姉さま」
その声で眼を覚ました私は、お聖堂の椅子で横になっていた。
「眠っていらしたんですね。朝礼がはじまりますよ、もう行きましょう」
あれは夢だったのだろうか。けれど、祈っていたはずの私が椅子に寝ているのは何故だろう。
「ねぇ志摩子、私は・・」
言いかけてやめた。夢なら夢でいい。イエス様がくれた贈り物ならば、それでもいい。

「今度、一緒にお聖堂で祈ろうか」
およそ私らしくないセリフにも、志摩子は真顔で返してくれた。
「はい、喜んで」


それは、暖かな秋の日の出来事。そして、夢のような出来事。


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