特に仕事は無いにも関わらず、習慣としてほぼ毎日のように、薔薇の館には人がいる。
今日も、紅薔薇姉妹、黄薔薇姉妹と、白薔薇のつぼみ二条乃梨子が集まっていた。
乃梨子の姉、白薔薇さま藤堂志摩子は、掃除当番で少し遅れるということだ。
薔薇姉妹ごとで会話しているので、手持ち無沙汰の乃梨子だったが、さり気なく聞き耳を立てていると、黄薔薇さま支倉令と黄薔薇のつぼみ島津由乃が、あの料理はライスだとか、あの料理はパンだといった話をしていた。
「そういえば……」
由乃には悪いと思いつつ、二人の会話に割り込む乃梨子。
「黄薔薇さまは、ライス派ですか? それともパン派?」
案の定、ムスっとした表情になる由乃さまだったが、気付かないフリをした。
「そうねぇ。私はライス派かな? 比率は8:2ってぐらいで。腹持ちも良いし、やっぱり日本人だからね」
黄薔薇さまらしいと思いつつ、今度は由乃に目を向ける。
「私の場合も、だいたい令ちゃんと同じだけど、7:3ぐらいでライス派ね。日本人ならライスでないと」
「ふむ」
この二人の場合は納得だ。
剣道をやってる令と、時代小説が好きな由乃、さもありなんといったところ。
いつの間にか興味津々といった風情で、三人の会話を聞いていたらしい紅薔薇姉妹、紅薔薇さま小笠原祥子と紅薔薇のつぼみ福沢祐巳にも、乃梨子は話を振ってみた。
「私の場合は、そうね、あえて言うなら中立ってところかしら。大抵5:5の割合だから、どちらかに偏ることは無いわね」
なにせ小笠原家では、専属シェフが腕をふるい、そうでない場合は、出前が殆ど。
聞いていた一同も納得顔。
「祐巳さまは?」
「うーん、朝はほぼパンだけど、お昼もミルクホールを利用しない限りライスだから、私も7:3か8:2ぐらいの割合でライス派ね。やっぱり日本人はライスだよ」
「なるほど、紅薔薇さまはともかく、ライス派が大勢を占めているわけですね」
「そう言う乃梨子ちゃんは?」
令に振られ、しばしの黙考。
「私もライス派ですね、9:1ぐらいで。パンなんて、ファーストフードかサンドイッチで偶に食べるぐらいですから。おっしゃるように、やはり日本人はライスでないと」
祥子以外が、揃ってウンウンと頷いていると。
「ごきげんよう、遅くなってごめんなさい」
ようやく志摩子が姿を現した。
『ごきげんよう』
「ごきげんよう、お姉さま」
普段の仏頂面も何処へやら、満面の笑みで志摩子の元に駆け寄る乃梨子。
「ところで志摩子さん?」
「何かしら? 由乃さん」
「さっきまで話していたんだけど、志摩子さんって、ライス派? それともパン派?」
「そうね……」
顎に人差し指を当てて、考えることしばし。
「実家はお寺だし、やっぱり日本人だから……」
「ふんふん」
「私は、ご飯派かしら?」
“やっぱり日本人”の“ライス”派四人は、言葉を失った。