【2371】 よくわからない人達  (篠原 2007-09-11 03:14:02)


 がちゃSレイニーシリーズ外伝 『多重スール狂想曲』 【No:2342】の続きです。



「お姉さまのばかーーーーーっ!!!」
「あっ!」
 投げ付けられたロザリオがスコーンと顔面にヒットして、桜子は思わず仰け反った。
「痛ぅ」
 鼻をおさえてちょっと涙目になった桜子が見たのは、リリアンの生徒らしからぬ勢いで走り去っていく少女の後姿だった。
 ああ、あんなにカラーを翻して、プリーツを乱して。注意しないと。
 そう思いかけて、そういえばもうあの子の姉ではないんだなと改めて思った桜子は、ゆっくりと首を振ると落ちていたロザリオを拾い上げた。
 それにしても、こんなに独占欲の強いコだったかな。



「どうしたの?」
「え?」
 教室に戻るとちょうど入り口のところで一緒になったクラスメートが話しかけてきた。
「鼻、赤くなってるよ?」
「え、ホントに?」
 片手で鼻を押さえて、桜子は苦笑した。
「これが当たってね」
 そう言って、もう片方の手にしていたロザリオを相手に見せる。
「?」


 桜子には、姉と妹がいた。ここでいう姉と妹とはもちろん、リリアンでのスールのことだ。
 今朝の騒ぎで、さらに姉一人、妹二人を得ることになった。
 それが気に入らなかったみたいでね、と桜子は他人ごとのように呟いた。
 妹にして欲しいという二人を受け入れたのはそのクラスメイトの彼女も見ていたから知っていた。
 姉の方は普通に妹にと請われてそれを承諾した。まあ、すでに姉がいる状態で申し込むのを普通というかは別として。
 どちらも、桜子から望んでなったというわけではなかったが、要は最初の、元からの妹がそれを知って、しかも桜子に自分からそれを解消する気が無いことを聞いて逆上したのだろう。
 そしてロザリオを投げつけられた。
 話を聞いて、クラスメイトは絶句した。


「何も投げ付けることないのにねえ」
 やれやれとばかりに言う桜子。
「いや……、それは怒って当然でしょ」
「そうかなあ、皆で仲良くすればいいのに」
 そう言うと、何故だかそのクラスメイトはひどく疲れたような顔をした。
「聞いておいてなんだけど、そもそも人にペラペラしゃべることではないでしょう」
「別に隠すことでもないし」
「隠せよ! ちょっとは!」
 突然、再起動したかのようにくってかかる。
「っていうかそのまま見送ったの? 止めなさいよ!」
「あのコが自分で決めたことなら、他がとやかく言うことじゃないでしょう」
「他はともかく、お姉さまとしては一言あってもいいんじゃないの? というか聞いたかぎりじゃ、ちゃんと考えて決めたっていうより、その場の勢いで怒りにまかせて投げ付けただけなんじゃないの? 後になって落ち着いたら後悔するんじゃないの、そのコ」
 んー、と桜子はちょっとだけ考えるように視線をさまよわせてから言う。
「でも、あのコが怒った理由については何も解決してないのよ。状況が変わっていないのなら、結局同じことじゃないかしら?」
「新しく妹にした方を解消すればいいだけでしょう」
「一度受け入れたものをこちらから一方的に解消するの? それこそどうかと思うけど?」
「む……」
 黙り込んで、でも不満そうな、何か言いたそうな顔をして、うまく言葉が見つからない。そんな風に表情を変える彼女のそういうところを、桜子はかなり気に入っていたりするのだけれど。
「でも、本当の妹でしょ」
「妹に本当も嘘も無いと思うけど?」
「だからっ!」
 激昂しかけて、また急激にテンションが落ちる。
「聞くだけ無駄な気もするけど……いいの? そんなあっさりと」
「んー? 私は去る者追わずよ」
「……そうですか」
 そう言って、彼女はまたひどく疲れたような顔をした。
「あっ」
 突然、何かに気が付いたというようにしまったという顔をする桜子。
「せっかく買ったのにロザリオ余っちゃった。どうしよう?」
「知るか!」
「よかったらあげるわ」
「いらない」
「えー?」
「そういう冗談は嫌いだから」
「冗談じゃないのにー」
 ずんずんと肩を怒らせて離れていく後ろ姿を見送って、桜子はわずかに肩をすくめると、差し出したポーズのままだったロザリオに目をやった。
「どうして、同じ学年だと姉妹になれないのかしらね」
 そう呟いて、桜子はロザリオにひとつキスをした。


一つ戻る   一つ進む