【2372】 理由が分からない涙  (若杉奈留美 2007-09-11 09:52:02)


…あれ?
さっき寝たばかりなのに。
もう目が覚めちゃったよ。

つーかさ、ここどこ?
まわりにグレーの霧しかないって、どうよ?

…マジかよ。
誰もいねーじゃん。

ちょっと…


そもそもあたし、どうしてここにいるの?
どうやってここに来たの?

昨夜あたしはごく普通にお風呂入って、ちょっとうだうだして、
寝たはずだよ?

そのとき時計は12時くらいだった。
あれからそんなに経ってないはずだけど?

…やだ、なんで誰もいないの?
なんか寒いし、ここ…

美咲は?お姉さまは?
純ちゃんは?他のみんなは…?

…どうすればいいの?
どうやって帰ればいいの?

こんな誰もいないところにひとりぼっちだなんて…
そんなの嫌!


「…さま、お姉さま」

…美咲…えっ!?

あれ?

あたしいつの間に…?


「ずいぶんうなされてましたけど…大丈夫ですか?お姉さま」


…気づくとあたしは、泣いていた。


昨日の話。
クラスの友達が、突然言った。

「学校、辞めることにした」

その子は薔薇の館以外で、結構仲のいい子だったから。
最初あたしは何が起こったのか、まったくわからなかった。

「ここはね、表面的にはとってもきれいなところよ。
私にもいろいろあって、ここに入れたときには思ったの。
『これでもう、私の苦しい日々もおしまいなんだ』って。
…でも現実は違ってた。
終わってなんていなかった。
本当はリリアンにいることなんて、許されてなかったのに。
許されたんだ、ここにいてもいいんだって、
自分で勝手に思い込んでいただけ」
「そんな…!」
「智子さん、もう止めないで。私の居場所はここではなかった、というだけの話なのだから」

放課後。
彼女はいつもより長く、マリア様にお祈りを捧げて。

いつものように、去っていった。


「…お姉さま」

ふいに体が傾いたかと思うと。
あたしの体は、あたたかな腕に包まれていた。

「私は、お姉さまがいないとだめなんです」

あたしが、いないと…?

「お姉さまにとって、妹はきっと誰でもいいのかもしれません。
でも私には、他の人の妹になんてなる気はありません。
たとえ嫌だとおっしゃっても離れません。

…お姉さまが、好きだから」

また流れてくる涙の理由なんて、分からなかったけれど。
ほっぺがあったかいから、それでいい。

「だから、生きていてください。
他の誰かのためなんかじゃなく、私とお姉さま自身のために」

…そうだね、美咲。
もうしばらくは…生きてみるよ。


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