…あれ?
さっき寝たばかりなのに。
もう目が覚めちゃったよ。
つーかさ、ここどこ?
まわりにグレーの霧しかないって、どうよ?
…マジかよ。
誰もいねーじゃん。
ちょっと…
そもそもあたし、どうしてここにいるの?
どうやってここに来たの?
昨夜あたしはごく普通にお風呂入って、ちょっとうだうだして、
寝たはずだよ?
そのとき時計は12時くらいだった。
あれからそんなに経ってないはずだけど?
…やだ、なんで誰もいないの?
なんか寒いし、ここ…
美咲は?お姉さまは?
純ちゃんは?他のみんなは…?
…どうすればいいの?
どうやって帰ればいいの?
こんな誰もいないところにひとりぼっちだなんて…
そんなの嫌!
「…さま、お姉さま」
…美咲…えっ!?
あれ?
あたしいつの間に…?
「ずいぶんうなされてましたけど…大丈夫ですか?お姉さま」
…気づくとあたしは、泣いていた。
昨日の話。
クラスの友達が、突然言った。
「学校、辞めることにした」
その子は薔薇の館以外で、結構仲のいい子だったから。
最初あたしは何が起こったのか、まったくわからなかった。
「ここはね、表面的にはとってもきれいなところよ。
私にもいろいろあって、ここに入れたときには思ったの。
『これでもう、私の苦しい日々もおしまいなんだ』って。
…でも現実は違ってた。
終わってなんていなかった。
本当はリリアンにいることなんて、許されてなかったのに。
許されたんだ、ここにいてもいいんだって、
自分で勝手に思い込んでいただけ」
「そんな…!」
「智子さん、もう止めないで。私の居場所はここではなかった、というだけの話なのだから」
放課後。
彼女はいつもより長く、マリア様にお祈りを捧げて。
いつものように、去っていった。
「…お姉さま」
ふいに体が傾いたかと思うと。
あたしの体は、あたたかな腕に包まれていた。
「私は、お姉さまがいないとだめなんです」
あたしが、いないと…?
「お姉さまにとって、妹はきっと誰でもいいのかもしれません。
でも私には、他の人の妹になんてなる気はありません。
たとえ嫌だとおっしゃっても離れません。
…お姉さまが、好きだから」
また流れてくる涙の理由なんて、分からなかったけれど。
ほっぺがあったかいから、それでいい。
「だから、生きていてください。
他の誰かのためなんかじゃなく、私とお姉さま自身のために」
…そうだね、美咲。
もうしばらくは…生きてみるよ。