「さて、意外と長く続いている『がちゃSレイニーシリーズ』ですがっ!」
「由乃、そんなシリーズ名いつ……」
「細かいことは気にしない! ちなみにこれまでの過程はこんな感じです」
【No:132】→【No:152】→【No:156】→【No:160】→【No:194】→【No:224】→【No:227】
「本当にけっこう続いてるなあ……」
「それで今回は【No:227】の続き、ではなくて」
「違うの?」
「【No:224】の中のお話しです。私が計画書作成の為に一度部屋に戻ったあたりの時間ね」
「なんで今更?」
「だって私達また脇にまわりそうなんだもん。このへんでもう少し黄薔薇分を補っておかないと!」
「黄薔薇分って……?」
「それじゃあ、いってみようか!」
「……(まだ、由乃が勝手に暴走ってパターンも残ってるんじゃないかなあ)」
「珍しいわね。令が電話してくるなんて」
「祐巳ちゃんのことだから、祥子には知らせておいた方がいいと思ってね」
「何かあったの?」
由乃が戻ってくる前にと、令は今日のことをざっと説明する。
「そう」
しようのないコ。溜め息交じりに祥子は呟いた。
「明日になればわかることだとは思ったけど、由乃が暴走しかねないから、とりあえず今のうちに」
「そう」
今度の「そう」には、少し笑いが含まれていた。
「ありがとう。知らせてくれて」
「明日、祐巳ちゃんから話だけでも聞いてあげてよ」
「祐巳が話してくるならね」
「祥子? 祐巳ちゃん、たぶん真っ先に祥子に相談したかったと思うよ?」
「ええ」
「……あまり心配してないみたいね」
「そうね。いえ、心配はしているのだけれど………」
少し考えるような沈黙。
祥子と祐巳ちゃんが二人で会えるように段取りをつけて、残りのメンバーでその間に対策会議。まずはそんなところだろうか。具体的なことは祥子の結果待ちになるだろうけど。由乃には悪いけど、なるべくなら由乃の暴走は避けたい。そう思っていたのだけど。
「明日の朝、みんなで集まりましょうか」
「朝?」
それどころか、祥子は新聞部と写真部を巻き込むことまで提案してきた。
「本気なの?」
「ええ。ヘタに嗅ぎまわられるより、最初から取り込んでしまった方が何かと都合が良さそうだし。由乃ちゃんの対応策とやらもその時に聞きましょう。祐巳はたぶん時間ぎりぎりまで来ないでしょうからちょうどいいわ」
令はさすがに少し考えたのだが、すぐに祥子には何か考えがあるのだろうと判断した。
「わかった。もともと紅薔薇ファミリーの問題だし、祥子の判断に任せるわ。ああ、由乃が来たみたいだからこれで……」
祐巳ちゃんが絡むとボロボロになることもある祥子だが、動揺している様子もないので今回は信用してもよさそうだった。
「できたよ令ちゃん!」
ノックも無しに勢いよく飛び込んできた由乃に、令は苦笑を投げかける。
「なによ?」
その表情を見咎めて、さっそく由乃は噛み付いてくる。
「ううん、今回は祐巳ちゃんが心を決めるまで待つのかと思ったのにな、と…」
「待つ? 私が? 令ちゃん、本気で私がおとなしく待ってると思うの?」
「………思わない」
いつも行け行け青信号。由乃の辞書に赤信号の文字は無い。
「さっきも言ったでしょ! 私は祐巳さんの力になりたいの。祐巳さんが傷付いてるのが許せないの」
「由乃は本当に祐巳ちゃんが大切なんだね」
「あたりまえじゃない。親友なんだから」
こんな時だというのに、令の顔に思わず笑みがこぼれた。由乃の頭に手を置く。そして訝しそうな表情をした由乃の頭を優しく撫でる。由乃はくすぐったそうに、あるいは気持ちよさそうに目を細めた。
「何?」
「ううん。みんなが幸せになれるといいなって思って」
「なにそれ」
由乃は笑ったけれど。
令は嬉しかったのだ。親友、と躊躇いもなく言った由乃を見て。由乃がそう言いきれるだけの親友を得たということが。
「正直なところ、祥子をさしおいて私が動く気は無かったんだけど……」
「でも、私は勝手に動くわよ」
「そうね。それでいいのかもね。由乃は祐巳ちゃんの親友なんだから」
勿論、力になれることがあれば令も協力は惜しまないつもりだった。気分は「全力で後方支援」である。
「それで? どんな対応策を考えてきたの?」
長い夜になりそうだった。