期末試験が終わって今年もあと少しの日数を残すばかり、町には楽しげな鈴に音があふれていた。
たくさんのクリスマスプレゼントが並ぶショーウインドウ、煌びやかなそれら商品を覗き込んでいるツインテールがかわいい女の子、しかし、突然くわっと!体を伸ばすと両腕をがっしり胸の前で組み、力強くつぶやいた「やっぱりこれしかない!!」と…そして綺麗な赤薔薇がプリントされた便箋を買って行った。
「こんなにがんばったのは久しぶりですわ」きれいな赤薔薇の包装紙で自分の努力の結晶を丁寧に丁寧に梱包しつつ、縦ロールが印象的な少女は少し、いやかなりドキドキしつつ、つぶやいた。
「喜んでいただけたらいいな・・・」
日はめぐり、今日は薔薇の館のクリスマスパーティー、もともと学園祭などの労をねぎらうため瞳子・可南子はもとより、オーディション関係で、真美・日出美・蔦子・笙子も招待を受けていた、参加人数も例年より多いためそれなりに盛り上がっていたのだが…ある一部分だけは少しおかしかった。
「ねえ、真美さん、裕己さんの態度なんかおかしくありません?いつもよりよそよそしいというか、おどおどというか」
「ええ確かに、蔦子さん。それと瞳子ちゃんもかなりおかしいですわ、なんか緊張しまくってません?」
「1年生たちも何かしら事情を把握しているようですし」
「「なにかあるわね((ニヤリ))」」
新聞部・写真部の両エースが動くとなれば事は早々に進む、この状況でここまで館の正式住人に気づかれず動けるのはさすがとしか言いようがない。
可南子の場合――「夕子さんと次子ちゃんの仲むつまじい生写真and祐巳さん生着 ピー 写真欲しくない?」陥落
乃利子の場合――「とある、お寺の娘さんの書いた、妹との愛の日記があるんだけど、瓦版に載せてもいいかしら?」陥落
笙子の場合―― 「ごめんなさい!未だにあなたに心を開いて貰えないだめな先輩で」(瞳うるうる体ふらふら)笙:鼻血どばどば 陥落
日出美の場合――「ごめんなさい!未だにあなたに心を開いて貰えないだめなお姉さまで」(以下同上)陥落
ほどなくして、「なるほど、あのツンデレコンビにも困ったものね、ここいらで私たちが一肌脱ぎますか?」
「ふふふ、脱いじゃいますか?」
「笙子さん、笙子さん、」「ん、何、日出美さん?」「ねえ、祐巳様と瞳子さんがおかしいのはしかたないとして、なんか今日のお姉さまたち少し変じゃありませんでしたか?」
確かに何時もの蔦子様はあくまで裏方志向だ、(瞳うるうる体ふらふら)なんてことは普通しない、でも真美様はあの美奈子様の妹、その素質は十分…だが今は言うまい。っと心に秘めつつ2人でそんな話をしていた。
そんな真・蔦がいたソファーの下には<チュウハイ>と、きれいにプリントされたカンが数本転がっていた事は気ずか無いままに。
『うう・・瞳子ちゃん、なんか何時もにまして私を避けているような… その態度もすごくかわいいんだけどw いやいやしかし何故か時折睨まれているような気がする。で、でも、いや今日こそはこれを瞳子ちゃんに渡すって決めたんだから!! 祐巳!!ファイト!!お―』
『何なんですの!今日の、今日の祐巳様の態度は!! 時折私を見てはおどおどした態度を見せたり、にこにこした表情を見せたり、まったく百面相にもほどがあります!いつもみたいに後ろからぎゅって、ぎゅってしていただけたら…あわわわわ(鼻から赤い水が止まりません)
で、でも、いや今日はこれを祐巳様に渡すって決めたんだから!! 瞳子!!ファイト!!お―』
※そのころ(めがねand七三 ウフフフ・・・(笑))がさごそ・がさごそ・・
べべん(この節は琵琶の音を想像してください)
ほほを赤らめ2人の少女 薔薇の館の片隅で 二つの品物取り替える
一つは薔薇の包装紙 一つは薔薇のラブレター
思いのたけは 強けども 互いに通わぬこの思い
ツンツンデレレ ツンデレレ
成就させるは我が使命 報道せしめる我が使命
ツンツンデレレ ツンデレレ
ツンツンデレレ ツンデレレ・・・・・
パーティーも終盤になり、すでに夜も遅くなったためそろそろお開きとなりかけた頃「「うええ〜〜!!」」と重なった声がきこえた。
「祐、祐巳どうしたの、びっくりするじゃない!!瞳子ちゃんもどうしたの!!」
「い、いえ何でもないです、ちょっと明日の宿題のプリントを忘れたみたいで(こ・この梱包品はなに?私の手紙は?)」
「すみません、祥子お姉さま、何か虫みたいなものが見えた気がして取り乱してしまいました(こ・この手紙は何ですの?私の包みはどこですの?)」
「すみませんお姉さま、ちょっと教室に行ってまいります。」
「もう、遅いのだから早く帰ってらっしゃいね」と、ため息混じりに仰った。
(どうしたのでしょう私、今日は色々取り乱して何かと取り違えたのでしょうか?)「す、すみません私もちょっと教室に行って参りますわ!!」
「まったく、瞳子ちゃんまで、気を付けていってらしゃいな」
ビスケットの扉を出たところで不意に乃利子さんに声をかけられた、「瞳子、薔薇の館を出たらその手紙絶対読みなよ。それは、瞳子が読むべきものなんだと私は思うから」
なんのことやらわからないが、とりあえず瞳子は鞄の中に入っていた手紙を恐る恐るひらいた。
そこには [愛しの、愛しの瞳子ちゃんへ マリア様の前で待ってます。 絶対来てねウフ あなたの祐巳]と、かわいらしい字で簡単に書かれていた。
フラフラしながら、
手紙どおりにマリア様の下に近づくと、とても見慣れたツインテールの先輩が一人たたずんでいた、しかも首には瞳子が一人で誰の手も借りず何ヶ月もかかってようやく編んだ赤薔薇をイメージした手編みのマフラー。
「ああ、やっぱり瞳子ちゃんだった、薔薇の館を出るときに可南子ちゃんに言われたんだ、『祐巳さまの鞄に入っているプレゼントの差出人は絶対マリア様の前に来ます』ってね」
乃利子さんも可南子さんも全員グルですわね
「これ、貰っていいんだよね?この端っこにある(Y)の文字は私のイニシャルと思っていいんだよね?ね?」
と、もう全身から蕩けそうな笑顔で言うもんだから「そ、そうです、で、でもそれは祥子お姉さまに送る為の練習の産物ですわ!!」
(ああ〜〜わたくしはなにを言っているの、祐巳さまのためだけのものなのに!!)
「うん。でもうれしい、どんな形であれ瞳子ちゃんの手作りだから・・・」
祐巳さまの笑顔に鼻血を噴出しそうになりながら何とか自我を保ちつつ、「そ、それはともかく、あの手紙は何なんでしょうか」
「あのって、『マリア様の前で待ってます』ってちょっとあじけなかったかな?」少しテレ気味に祐巳に対し
「そ、その前後です…い、い愛しのとか、あ、あなたのとか、冗談が過ぎますわ!!」
「ええっと、ちょっとその手紙見せて貰っていいかな?」「い、いいですとも」
「…ごめん、これ、私の字じゃない・・・」「ええ、そうでしょうとも祐巳様にここまでストレートな愛情表現ができるとはって・・・えええ!!」そのまま瞳子ちゃんは倒れてしまった。
その後、祐巳の膝枕で目覚めた瞳子は再び卒倒しそうになったが何とかこらえた
「ね、瞳子ちゃん、このマフラーのお返ししないとね。」
「べ、別にそんなお気遣いは結構ですわ!!」
「いいから、いいから、ぜひとも、貰って欲しいものがあるんだ。最近覚えたてのマジックをつかって。ええっとね、まずこの瞳子ちゃんから貰ったちょっと長めのマフラーを瞳子ちゃんの首にかける、」
「あ、あの祐巳さま?何を」「いいからいいから」そして祐巳は瞳子を優しくだきしめた。
祐巳のマジックというか、魔法に当てられたように瞳子は身動きできない。
「瞳子ちゃんを優しく抱きしめた後に、マフラーを取ると、あら不思議、なんともかわいいプティスールの出来上がり。」
「え。」マフラーが取られた瞳子の首にはシンプルだけれども、とても暖かみのあるロザリオがかけられていた。
そう、数分前まで祐巳の首に掛けられていた赤薔薇の象徴ともいえるロザリオ。
「これが今の私の精一杯の気持ち、瞳子ちゃんへのクリスマスプレゼントはこれしかないと思ったの・・・迷惑じゃなかったら・・・このまま受け取って欲しい。」
「め、迷惑、迷惑なんて、そんなことこれっぽっちも思いません!! ほ、本当に本当に私なんかでよろしいのですか?」
「 あたりまえじゃない 」とやさしく微笑む 堰を切り、まるで赤子のように祐巳の胸元になきついた瞳子の耳元に一言「ありがとう」と祐巳はつぶやいた。
すったもんだの数日後 「ところで、蔦子さんに真美さん、クリスマスの時、私の手紙がいつの間にか摩り替っていたんだけど、なんか知らない?」
そう振られた2人はちょっとしどろもどろにこう言い放った「あ、ああ、あれよ、あれ、たぶんド○ルドマジック!!」
もうすこし気の利いた言い訳は思いつかなかったのかよ、と思いながら祐巳はずっこけた。