☆マリみてパラドックス 第1話☆
志摩子です。
マリア祭本番ではとうとう弾きませんでしたけど、お聖堂のオルガンでグノーのアヴェマリアを練習していて、わたくし、気づいてしまったんです。
祥子と祐巳がロザリオとシンデレラ役を賭けた勝負の最中の、胸騒ぎの連弾シーン。
ピアノを弾ける方は、あれれ、なんかおかしいなって思いませんでしたか?
グノーのアヴェマリア、それはもともとJ.S.バッハの「平均率クラヴィーア曲集」の第一巻第一曲を伴奏に借用して、後世グノーがメロディーを載っけてしまったもの。
もともと歌またはソロ楽器と鍵盤の伴奏でできていて,歌と伴奏の音域が重なっているのです。一度連弾で弾いてみればわかりますが、原曲通りなら『二人の手が重なったり交差したり同じ音を弾いたりしてむふふふふ』になってしまい、連弾はできない筈なんです。
2段鍵盤のお聖堂のオルガンならば原曲の通りに弾けます。けれどピアノでは両手がぶつかって原曲通りには弾けない筈なんです。でも・・・祥子さま、祐巳さんを連れて行った別荘でもピアノですんなり弾いていらっしゃいます。不思議だと思いませんか。
ですから、あの連弾の時、絶対に原作に書いてある以上のあんなことやこんなことや、まあそんなことまでしていたに違いないんです。祥子さまは。
それでは志摩子がお送りする「今明かされる胸騒ぎの連弾の真実」実況中継。
† †
「☆×■◎※△−−−−−−!?」
「なんて声だしているの?まるで私が襲っているみたいじゃない」
「音もなく背後から現れれば誰だって悲鳴上げますよお、祥子さまっ」
† †
「一、二、三、はい」
"ave....."(連弾だあ、それも二人同じキーを弾いてるよお)
"maria....."(うそ、祥子さまの左手がわたしの右手を包むように)
"glatia plena...."(祥子さま、右足で右のペダルを踏んでいるから密着してきて)
"Dominus tecum...."(あ・あ・あの、私の足の間に祥子さまのあし・あし・・・)
(だんだん私に体を預けてきて・・・髪がかかる、いい匂い・・・)
(あの、右手で抱きすくめられてるんですけど、って顔が熱い・・・・)
(二人の音が重なってる。すごくきれい。気持ちいい)
(わ、左手のアルペジオがこんな方まで、これって完全に抱かれてる?)
(さささささちこさま、むむむねが背中にむぎゅっと・・・)
(あの、これ、これ、まずいです、あの、まずいんですけど、でも終わりたくない)
(もうだめ、限界っっ)
祐巳がわざと音を外して、美しいハーモニーが壊れた。
「やっぱりだめですね、祥子さまにはついていけません(はーふー)」
「そう、とっても気持ちよ〜〜〜〜〜〜〜〜く弾けていてよ」
「そ、その強調は……あの祥子さま」
「うふふふふふ。ロザリオ受け取ったらきもちいい連弾なんていつでもできるわよ」
「もう、祥子さまぁ。あの……立てないん……です……」
「どうしたの?肩を貸してあげましょうか?」
「い、いいいいですっ。だ、だいじょうぶです。深呼吸してはーふーはーふー」
(ふふふふふ。もう一押しね)
これが真実なんですっ。
† †
そして、さらに言ってはいけないお約束もあるんです。
(言わないお約束その1
アニみて連弾シーンでは祥子さまが1オクターブ下げてます。
伴奏が不自然なほど低音になる部分に突入する前に、さっさと祐巳ちゃんがわざと間違えておしまい。間違え方が大げさでいきなりですけど。
(言わないお約束その2
原典第一巻 p.104「ドミソドドミソド」 (祥子さまの伴奏の描写)
なんじゃこりゃあああああ。
ごめんなさい,白薔薇さまともあろう者がついとりみだしました。
でもこれはあんまりではないでしょうか。原曲通りなら「ドミソドミソドミドミソドミソドミ」でなければなりません。
それがなんなんじゃこりゃああああ。ふざけとんのか。
あ、私ったらまたとりみだして。
つまりこれは、
『大人のための白鍵だけで弾けるやさしいピアノ中年からの超初級編だれでも3日でアヴェマリアが弾ける嘘だったら楽譜代は返しますしかもCDつき』
に違いありません。
だから連弾で弾けるのです。そうだったのか。
しかし。しかしっっっ。
そのようなものを祥子さまが弾くなんて許せませんっっっっ。
わたくしでさえ弾けるのですから、バッハの平均率一番をスーパーお嬢様の祥子さまが原曲通り弾けないなんて、そんなことぜっっったいにありえません。アニみての音楽担当者もそう思ったに違いありません。
もちろん、本来両手で弾くべき伴奏をペダルの力を借りて左手一本で弾くのですからちょっと難易度高いですが、小さい頃から高校に入るまでピアノを習った人なら難しくはないはずです。ああああわたくし、このようなことに気がつかない方がよかったのでしょうか。
マリア様をたたえる歌を歌いながらこのようなことを考える私は横縞なのでしょうか?
神様?