【2406】 リリアンのタブーお願い分かって  (篠原 2007-11-19 04:20:49)


 がちゃSレイニーシリーズ外伝 『多重スール狂想曲』 【No:2371】の続きです。


 椿と桔梗は同じクラスだった。
 二人は気が合ったのか、すぐに仲良くなった。
 そして、二人で同じ人に憧れた。
 その人は、見た目はとてもお嬢様なのに、話してみるととても気さくで、そしてちょっといいかげんなところのある人だった。
 それはあばたもえくぼの類だったかもしれないが、そういった部分でさえ二人にとっては好ましく思われ、(年上なのに)なんだかかわいい人だという印象を与えていたりもした。
 二人の間にはどちらからともなく、抜け駆けはしないように、どちらかが妹に選ばれても恨みっこなしにという暗黙の了解が成り立っていた。
 それは二人の協定だった。
 そうこうするうち、その人は妹を作った。
 それは二人とは別の1年生で、二人の協定とは全く無縁の1年生の少女だった。

 酷い裏切りだと思った。

 二人のうちのどちらかを選ばなかったことも、あの人の妹になりおおせた少女も。
 もちろんその人も妹になった少女も二人の協定のことは知らなかっただろう。
 けれど、あの人と親しくなったのは二人の方が先だった。
 どうして自分達ではいけなかったのか、どうしてその少女が選ばれたのか、二人にはわからなかった。
 だから二人にとって、今回の騒ぎはある意味で願ったりかなったりだった。
 さっそくその人の下へ赴いた。
 受け入れられた時は二人して歓声を上げてしまった。
 ただ純粋に嬉しかった。
 だから、最初に妹になったその少女が何を思い、どう感じるかについてまでは、考えが及ばなかった。

 その少女がロザリオを付き返したらしいという話(あるいは投げつけたという噂)を聞いた二人が抱いた想いは、少々複雑だった。
 自分たち原因となったかもしれないという罪悪感。
 あの人にロザリオを返すという行為そのものに対する憤り。
 協定違反者(繰り返すが、その少女と協定は無関係だった)に対する報いだというわずかながらの思いと優越感も、無かったとは言えない。
 けれど、それを望んでいたわけじゃない。
 そういったもろもろの思いも確かにあったが、なにより二人が感じていたのは、困惑だった。





 緑子にとって、その話は寝耳に水だった。
 自分の他に妹が二人できた。
 姉さまのその言葉の意味が、最初はわからなかった。
 素で、おめでとうございますと言いそうになったくらいだ。

 酷い裏切りだと思った。

 自分に一言のことわりも無くそんなことになっているなんて、それはないと思う。
 事前に話されても受け入れられないと思うけれど。
 だから。
 そうすることしか思い付かなかった。
 たぶん、頭で考えてのことではなかったろうし、勢いというのはあったけれど。
 後悔は、していない。………と思う。
 引き止めもしなければ追いかけても来ないなんて……………さすがはお姉さまだ。
 そういえばそういう人だったなとあらためて思った。
 およそ執着という言葉から無縁に見える人だった。
 そして、かなりいい加減な人でもあった。
 そういう人だということはわかっていた。
 身近にいれば嫌でも気付く。妹だから。いや、妹だったから。


「妹は持たないんですか?」
 それは二人がまだ姉妹でなかった頃、緑子の何気なさを装った一言から始まった。
「んー、別にそんなことはないわよ」
「じゃあ私なんかどうですか?」
「緑子ちゃん、妹になりたいの?」
 面とむかって聞き返された時は言葉に詰まった。
 冗談めかして言ったつもりだったけれどバレバレだったらしい。
「いいわよ。緑子ちゃんがなりたいなら」
「ええっ!! いいんですかっ? そんなにあっさり!?」
 あまりにもあっさりと受け入れられたので、かえって驚いたくらいだった。
「ええ」
 中身はともかく、見た目はお嬢様なその人が笑顔で言ってくれたのだ。
 それはロマンチックのかけらも無かったけれど。
 それでも嬉しかった。

 けれど。
 今にして思えば、あれは「緑子がいい」ではなく「緑子でいい」だった気がする。
 それは「緑子でなくてもいい」ということだ。
 もしあの時、ああ言ったのが自分でなかったとしても、同じように受け入れていたのではないか。
 そう思ったら、たまらなかった。
 そして、止めも反対もしないということは、やはりそういうことなのだろう。

 浮かれた様子の騒がしい周りの声の中で、何故自分だけがこんな想いをしているのだろう。
 と、緑子は思った。


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