――カラン。
星が瞬く夜に響く、ナイフが落ちる音。
刃は鮮血を吸い、鈍くも妖しい光を放つ。
目の前には細川可南子。
彼女はとても悲しそうな瞳で、私を見ている。
――貴女は、祐巳さまを独り占めにしたいのね。
――もう、祐巳さまは貴女だけを見ているというのに、まだ足りないのね。
――私、死ぬのかしら。
――祐巳さまに、お別れが、言いたかったな。
――さようなら、祐巳さま。
――さようなら、瞳子さん。
――私、貴女のこと、嫌いじゃなかったわよ。
……細川可南子は、倒れたまま、動かない。
彼女を中心に広がる、赤い水溜まり。
まるで泉に住む妖精のように、笑顔で……。
……ただ、悲しそうに、彼女の瞳は、私をずっと見ている。
私は涙を流し、取り返しのつかないことをしてしまったことに気付く。
冷たくなった彼女にすがりつく。
――お願い、目を覚まして。
――何か喋って。
――恨み言でも何でもいい、私に何かを喋って。
そんな私を、夜空の真ん中に浮かぶ月が、小さく嘲笑った気がした。