【2486】 マリア様すらみてない  (沙耶 2008-01-18 00:07:41)


「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。
〜以下略〜
彼女の名は福沢祐巳〜本日よりここ、リリアン女学園に通うことになった、カナダからの帰国子女である。


「お待ちなさい」
銀杏並木の先にある二股の分かれ道で、祐巳は背後から呼び止められた。
初めて聞いた言い回しだったので、自分の事だと気付かなかった祐巳はそのまま通り過ぎようとした。
『待ちなさいって言ったのよ祐巳!!』
フランス語で呼び止められそこでようやく自分の事だと気付く。
「ほぇ?」
祐巳が振り向くと...
「祥子!」
呆れ顔の小笠原祥子が立っていた。
「相変わらずね、祐巳」
二年松組、小笠原祥子。祐巳がカナダに住んでいたとき、近くの別荘に毎年遊びに来ていた所謂幼なじみである。
『久しぶり!祥子がハイスクールに入って以来?どうしてカナダに来てくれなくなったの?瞳子は来てたのに...』
祐巳が勢い込んで喋りかけると、祥子は影のある笑いをみせる。
「持って」
祥子は、手にしていた鞄を祐巳に差し出す。訳も分からず受け取ると、からになった両手を祐巳の首の後ろに回した。
「タイが曲がっていてよ。……ごめんなさいね、あの頃は色々あって、…祖父の仕事に付いて行かなければならなかったし。」
その顔が、これ以上聞かないでと語っていたので、祐巳はなにも言えなくなった。
「それにしても、瞳子ちゃんに聞いてびっくりしたわ。祐巳がリリアンに編入してくるなんて。おばさま達も日本へ?」
「うん。パパはもう少し向こうにいるけど、今年中には帰って来るって。学校はママのボコウだし、祥子達もいるからリリアンが良いだろうって。」
「そう。私も祐巳に会えて嬉しいわ。そういえば、1人なの?職員室の場所はわかっていて?案内しましょうか?」
ああ!そういえば職員室にいかなくちゃだった。
「ママは祐麒に付いて行ったの。昨日ママと下見に来たし、大丈夫!」
祐麒は嫌がっていたけどね。
「それじゃあ、私は寄るところがあるから行くわね。ごきげんよう、祐巳」
「うん!またね。」
祥子は少し苦笑しながら
「ここでの挨拶は『ごきげんよう』よ。あ、それからマリア様にお祈りもしましょうね。それがここでのルールよ」
祥子がルールと言ったら絶対だ。それが子供の頃からの習慣。
「わかった。じゃぁ『ごきげんよう』祥子」
祥子を見送った祐巳はそっとマリア様に手を合わせ校舎へ歩いて行った。


一つ戻る   一つ進む