【2493】 風が吹いてないから  (沙耶 2008-01-19 00:58:13)


これは、【No:2486】から続いてます。



「祐巳さん、祐巳さん」
放課後、クラスメートに案内してもらい音楽室に行ってきた帰り祐巳は声をかけられた。
「あ、蔦子。教室の掃除は終わったの?」
日本の学校は掃除当番っていうのがあるらしい。
祐巳は音楽室の担当らしいのだが、今日は下見だけでいいと言われた。
「ええ。ですから行き違いにならないように、早足で参りましたの。祐巳さん、鞄を持って音楽室にいらしたみたいだから」
「え〜と蔦子。悪いんだけどもう少しわかりやすく喋って」
さすがはリリアンに通う乙女達。喋り方が丁寧すぎて、聞き慣れない祐巳には何が言いたいのか半分しかわからない。
蔦子は苦笑しながら
「少々お話が」
「お話?」
聞き返すと、蔦子はフレームなしの眼鏡の両目の間に指をかけながら「ええ」と頷いた。
「じゃあ祐巳さん私達はこれで。ごきげんよう」
「ごきげんよう」

「私が、写真部に所属しているのは話したわよね?」
蔦子は祐巳に向き直ると、唐突に言った。
「う…うん」
自己紹介の時に散々と聞かされましたから。
「もうすぐ学園祭があるのよ。だから、この所朝早く出てきて部活の早朝練習撮ったりしているの」
「それで?」
「私はね被写体には、それぞれ筋を通しているの。ボツ写真はネガごと燃やすし。発表する場合は事前に必ず本人の同意を得ているわ」
「筋?」
「こんな風にね」
蔦子は二枚の写真を祐巳に差し出した。「何?」
三、二、一。
蔦子は何故かワクワクした顔で祐巳をみている。
「祥子!」
「やっぱり知り合いだったのね」
蔦子が嬉しそうに言う。
それは、朝の光景。祥子と祐巳のツーショットだった。
「望遠で撮ったから、会話までは聞こえなかったんだけど。祥子さまが知らない生徒のタイを直してる所なんて見たことがなかったものだから」
「祥子を知っているの?」
「知ってるも何も。紅薔薇の蕾の小笠原祥子さまを知らない生徒なんかいないわよ?」
そういえば瞳子が言っていた。
「祥子、生徒会に入ったんだっけ」
「ちょっと違うんだけど。まぁ似たようなものね」
この学校は不思議な風習が多いらしい。瞳子に聞いてはいたものの、慣れるのは時間がかかりそうだ。
「それでこの写真がどうかしたの?」
蔦子の目が輝いた
「二つばかしお願いが」
「お願い?」
「一つ目。学園祭の写真部展示コーナーにパネルで飾らせて欲しいの」
「いいけど」
「即答!?いいの?」
学校に写真を飾るくらいで大袈裟な…
「じゃあっ二つ目!紅薔薇の蕾…祥子さまに許可をもらってきて欲しいんだけど…」

それから十分後、祐巳は山百合会の本部である「薔薇の館」の扉前に立たされていた。


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