【2537】 ショックスキャンティ幕引き  (琴吹 邑 2008-02-05 00:39:08)


【No:2520】のKeyswitchさんのコメントから「under rose」を使ったおはなしです。





 今日の3時間目に英語の小テストがあった。
 この問題が、すべての原因だった。

   Noriko:Did you hide a Valentine card?
   Shimako:Yes. Of course.
   Noriko:Where did you hide a Valentine card?
   Shimako: It's under rose.





 集まってしまった暗号をじっと見つめる。
 文字を紙と頭の上で回し、何か言葉ができないか考える。
 そしてたどり着く一つの答え。
 そして思い出す、今日の英語の小テストの問題。
「そうきたか……」
 私は思わず呟いた。
 英語の先生が、こんな形でヒントを出してくれていたとは。
 私はしばらく迷って、薔薇の館へと向かった。


 館の扉をあけ、とんとんとんと軽やかに階段を駆け上がる。
 二階にあるビスケット扉をあけると部屋の中にいる人たちが、一斉に私に視線を向けた。

「白いカードは見つかりましたか?」
 新聞部の真美さまに向かって質問した。
「まだ見つかっていないわ」
「そうですか。よかった」
 見つかっていないと聞いてほっとする。せっかくここまでたどり着いたのだから、目的のカードではないとはいえ自分の手で見つけたい。
「可南子さん。参加してたんだ。紅じゃなくて、白いカードさがしてるの?」
 少しびっくりした様子で、白薔薇のつぼみが私にそう問いかける。
「たまにはこういったゲームもたまには楽しいかなってね。カードは別に誰でもよかったんだけどね。白いカードの在処を思いついたから」
「本当? どこにあるの?」
 室内いる子羊たちが驚いてつめよってくる。
「私の考えでは、この薔薇の館に」
 そしてその言葉に、子羊たちが色めき立つ。
「可南子ちゃんはどういう風に、暗号を解いたのかしら? 聞かせてもらえない?」
 白薔薇さまがにっこりと笑いながら、私にそう問いかける。
 私はこくりと頷き、ゆっくりと白薔薇さまに近づきながら、私の出した回答を口にする。
「今日、英語の先生が小テストをやりました。その中の一つにこんな問題がありました」
「Did you hide a Valentine card?
 Yes. Of course.
 Where did you hide a Valentine card?
 It's under rose.」
「確かにやったけど、それがどうかしたの?」
 同じクラスの白薔薇のつぼみが首を傾げる。
「そうそれは、確かにふつうの問題でした。しかし、それをヒントにしなさいという、明確なキーワードがあったのです」
「あったかな? そんなの?」
「その、センテンスをしゃべっていたものは誰だったか、覚えていますか? 白薔薇のつぼみ?」
「もちろん覚えてるよ。NorikoとSimakoだったよね」
 その言葉に子羊たちがざわめいた。
「そうです。ここで重要なのは、NorikoとSimakoがバレンタインカードの話題をしているということ。そして、NorikoがSimakoにカードの隠し場所を聞いてると言うことです」
 そう言って、私はゆっくりと息を吸い込んでからその後を続けた。
「なぜ、主催側であるNorikoがSimakoにカードの場所を聞いているのか? ここに矛盾が生じます。なぜならば、Norikoはカードの場所を知っているはずだからです。だからこそ、私はこの問題が今回の白いカードの隠し場所のヒントになっていると確信しました」
「なかなか面白い仮説ね。じゃあ、それをふまえた上で、あなたはカードの暗号をどう読み解いたのかしら?」
 誰かが何かを言おうと思った矢先に、白薔薇さまがそう言って先を促した。
「ええ、私が集めた暗号は全部で6個。ま、る、た、く、の、そして、うさぎのイラストです」
「後一個足りないわね」
「ええ、わたしは、色々考えて、残りの暗号は「し」と考えました」
 そう言って、私は椅子に座っている白薔薇さまの前に立った。
「白薔薇さま。立っていただけますか?」
 その言葉にピクンと祐巳さまが反応した。
 その反応に私は確信する。祐巳さまは隠し事ができない人だから。だから、今の私の言葉に反応してしまったのだと。祐巳さまに一度視線をやった後、今度はじっと白薔薇さまの顔を見つめる。
「ええ。いいわよ」
 白薔薇さまははいつものような優しいほほえみをうかべながら、優雅に立ち上がった。
 観客たちは緊張した面持ちで私たちのやりとりを見つめていた。
 白薔薇さまが座っていた椅子をちらりと確認する。残念ながらそこに白いカードはなかった。
 でも、それは想定済みのこと。確信がさらに深まっただけだ。
 私は内心にやりとしながらもさらに話を続けた。
「ところで、白薔薇さま。白薔薇さまは動物にたとえると、何になると思いますか?」
「私? 何かしら?」
「年老いた猫……」
 ぼそりと黄薔薇のつぼみがつぶやいたがそれは聞こえなかったことにして、話を続ける。
「生徒の間では、白薔薇さまはうさぎと認識されています。ウサ・ギガンティアと生徒の間でこっそりと呼ばれているのはご存じですよね?」
 その言葉に、白薔薇さまは少し困った顔をして、白薔薇のつぼみを見る。
 白薔薇のつぼみと何かアイコンタクトを交わしてから、白薔薇さまは私の質問に答えた。
「こっそりと漏れ聞いたのは何度か。祐巳さんのタヌ・キネンシス・アン・ブトゥン、由乃さんのネコ・フェティダ・アン・ブトゥンと一緒に」
「え? そんなの初めて聞いたよ。しかもタヌキなんだ。確かにタヌキ顔だけどさ……」
 小声でぶつぶつ文句のいう祐巳さまをかわいいと思いながら、私は回答続ける。
「つまり、うさぎのイラストは、白薔薇さまあなた自身のことを指しているのです」
「なるほどー」
 どよめきとともに、感嘆の声がいくつか上がる。
「面白いわね。続きを」
「ええ。そのうさぎと、英語の小テストのヒント「It's under rose.」を考慮し、想定の「し」をくわえた残りの暗号で文を作ります。
「It's under rose.」は本来の意味は秘密ですが、ここは文字通り薔薇の下と訳します。それをヒントにして、暗号を組み立てます」
「乃梨子ちゃんががっちがちっていう意味じゃなかったんだ……」
 初めて知ったというような祐巳さまの言葉を聞き流し、最後の回答を突きつける。
「うさぎのイラスト、ま、る、た、く、の、そして、し。これを、並べ替えるとうさぎのしたまくるとなり、It's under roseの薔薇の下とも一致します。つまり……」
 私はそこまで言ってしゃがみ込んだ。
 全員が首を傾げる中、私は言葉を続けた。この謎解きを終わらせるために。
「カードはここにあるわけです。」
 私は、そう言って立ち上がりながら、白薔薇さまのワンピースの裾を一気に上に持ち上げた。

 そこにカードはなかった。そこにあったのは、フリルのいっぱいついた、かわいらしい白いスキャンティだけだった。

 次の瞬間、絹を裂くような白薔薇さまの悲鳴と泳げるほどの血の海が薔薇の館に広がった。


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