【2541】 浮気性見ていて楽しいけれど謝れよー!!  (ニュクス 2008-02-10 18:25:19)


ある日のリリアンの午後、部活も無くいつもより早い時間にビスケット扉を開けた令は、自分より早くに来ていた下級生が目に入った。
「ごきげんよう。………あれ、乃梨子ちゃん早いね。私が一番だと思ったんだけど」
感心だな、と思い声を掛けるが返事が無い。ただの屍のようだ、ではなく寝ているようだ。
椅子にもたれかかるようにして、うつむいた顔からはスースーと規則正しい寝息が聞こえてくる。
「まあ無理も無いか。ここのところ忙しかったし」
黄薔薇である自分でさえ、ここしばらくの山百合会の仕事はきついなと思っていた位だ。まだ一年目の乃梨子ちゃんもがんばってくれているが、やはりかなり疲れがたまっていたのだろう。
まだほかのメンバーが来るまで時間もあるし、みなが来るまで寝かせてあげよう。そう思い、タオルケットを掛けてあげて自分も席に着く。
自分の席に座ろうと思ったが、普段余り隙を見せない乃梨子ちゃんの寝顔を観察しようかな、なんて不届きなことを思いつき乃梨子の隣の席に座ることにする。
「乃梨子ちゃんもそうだけど、瞳子ちゃんや可奈子ちゃんもよくやってくれてるよ。本当にご苦労様」
ここにはいない一年生二人にも感謝しながら、ねぎらいの言葉とともに乃梨子の頭をなでてみる。乃梨子が起きていれば絶対させてくれないであろう行為だが、今は心なしか気持ちよさそうにしている。
「この表情を見れただけで早く来た甲斐があったかな」
今度ねぎらいの意味も込めて、クッキーでも焼いてこよう。
「しかし可愛いなぁ。髪もさらさらで」
祐巳の様な人懐っこい可愛さや、志摩子の様な美人と言うわけではないが、こういう無防備なときの可愛さは多分山百合会のメンバーの中でも一番じゃないかなと思う。
容姿も平均以上だし、艶やかな黒髪は令から見てうらやましいくらいだ。
もっぱらミスターリリアンと呼ばれている自分としては、こういう女の子らしい容姿に生まれたかったなと思う。
「………ん」
乃梨子が声を漏らしたので、起きたのかと手を止めたがどうやら違うようだ。ペロリと舌を出してまた眠りに入っていった。何かを食べている夢でも見ているのだろうか。
「………」
少し考えて、乃梨子の口元に指を差し出してみる。と、ぱくっと口に含まれた。
「わっ!わわっ!」
思わず声が出たのは、指先に感じた刺激の強さからである。
痛くは無い。一体どんな夢を見ているのか一生懸命に舌で撫でてくる。指の腹から第一関節に掛けてまんべんなく、時々甘噛みして指全体を刺激してくる。
そうされる度に背筋に痺れる様な感覚が流れ込んできて、思わず声が出てしまう。
「あ、やっ、駄目」
耐え切れず指を引いてしまうが、乃梨子の口元はまだ動いている。
そんなにおいしかったのかな、私の指。さっき手を洗ったばっかりだから何かついていたと言うことは無いはずだけども。

指だけでもこんななのにキスとかしたらどうなっちゃうのかな…………

って何を考えてるんだ私は!
でも、そういえば乃梨子ちゃん共学の中学校出身だったよね?じゃあ、男の子と付き合ったこととかあるのかな。
「キスとか、したことあるのかな…………」



今日の私はどうかしていたに違いない。いくら乃梨子ちゃんが可愛くて魅力的だからって寝ている間に、あんなことするなんて。
まだ唇に残る感触が生々しくて、山百合会の活動中、顔が赤くなっていないか気になって仕方が無かった。
みんなが来るまで乃梨子ちゃんが起きることはなかったけれども、ばれなかったからってやって良い事じゃなかったのに、まだ胸がドキドキしている。
祥子の「今日はもう終わりにしておきましょう」との言葉でお開きになり、由乃と一緒に帰ろうとしたときに乃梨子ちゃんに呼び止められたときは、口から心臓が飛び出そううになった。
「な、何かな、乃梨子ちゃん」
われながら情けないぐらいに動揺した声で聞き返すと
「今日はありがとうございました。」
「へ?」
「タオルケット、掛けた下さったの令様でしょう?令様の次に来たらしい祥子様に聞いたら、来たときにはもう掛かっていたそうですから」
「うん、ま、まあね」
一瞬ヒヤッとしたけど、ばれてなかったとわかると自然と笑顔になる。
いいんだよ、気にしないで、と当たり障りの無い言葉を交わし、待たせていた由乃の所に行こうとしたときに、もう一度乃梨子ちゃんに呼び止められた。
「それと令さま」
「ん?なにかな?」
「初めてでしたよ」
油断しきっていた令にとって、その言葉が浸透するまでに3秒ほどかかり、そして理解した瞬間令の心臓は凍りついた。
「ですから令様」
上目遣いにこちらを見上げ、思わずドキッとしてしまうような子悪魔スマイルで乃梨子ちゃんは

「責任とってくださいね?」

そう、言ったのだった。




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