私の名前は、支倉令。剣道部では大将を勤めている。
リリアン女学園では、黄薔薇様及びミスターリリアン、この2つの称号で呼ばれている、そして私はそれに誇りを持っている。
黄薔薇様は、リリアンの生徒会長の一角の呼び名、可愛い後輩と薔薇の館の仲間に囲まれ毎日充実した日々を送っている。
ミスターリリアンは、容姿もあろうが(ちょっと複雑だけど)剣道部のエースたることから来ている。しかしこの呼び名、それなりに私は気に入っている、なぜならば、それは私が剣士だからである。
私の朝は早い、朝食の用意をし、両親を起こし3人で食べる、その後学園で食べるお弁当を2つ作り、隣の最愛の妹由乃の家に行く、いつも通り、今日も由乃は寝坊していたが、私は辛抱強く由乃を起こす、寝ぼけた由乃のパンチや蹴りなどかなり抵抗されたが起こすことに成功した。これも忍耐力の修行の一環と考えればつらくも無い、しかも由乃の可愛い寝顔も見れて一石二鳥。
学園に着き、私はマリア様にお願いする「今日も平穏な1日でありますように」、と
午前中の授業が終わり、祥子と薔薇の館に行く。
由乃や他の皆も来ていた、皆でお弁当を食べていると、由乃が私を睨みつつ言った。
「令ちゃん、これ、しいたけ入ってるでしょう?」
「ええ、入ってるわよ、それが如何したのかしら?」
「ひどい!!令ちゃん、私がしいたけ嫌いなの知ってて入れたんだ!!」
「由乃も誰かさんと同じで好き嫌いが多すぎ、(祥子に睨まれた)偏食はだ〜め!それに、しいたけはとっても栄養があるんだからきちんと食べなさい。」
そう、今日のお弁当の中の炊き込みご飯、私は由乃のことを思い、しいたけを入れた。
でも、いきなり丸ごとはさすがにきついと思い、干ししいたけをじっくり2日かけて戻し、醤油、砂糖、みりん、その他支倉家秘伝の調味料で極力しいたけの味をなくすように味付けし、そして、それを細かく、ホントに細か〜く、刻んだものをご飯に混ぜた。ばれたら後でひどいことをされるかもと思いつつ、しかしここは、由乃の為、心を鬼にして。
「それに、誰かさんだって、祐巳ちゃんに言われたらきちんと食べてるしね。」
「れ、令様・・・」「れ、令!!」少し困っている祐巳ちゃんと、顔を赤くして怒っている祥子。
そして「うう〜〜と、」うなりながら睨む由乃。結構怖い・・・
け、剣士たる者常に平常心を心がける ・・・ べきなのですが。ちょっとドキドキしていた。
そのとき、志摩子が「由乃さん、一口いい?」と私の作った由乃のご飯を一口運ぶ。
「おいしい、でも、さすが由乃さんね、私、和食というか、この手の料理には、自慢じゃないけど少しは舌が肥えてると思っていたのよ、でも、さすが令様、しいたけが入ってるなんて、分からなかったわ。」
どれどれ、失礼しますっと、乃梨子ちゃん。お姉さまの志摩子と同意見。
「やっぱり、由乃さんは、令様の料理の味に関しては誰にもかなわないわね。」 ふふっとやわらかく微笑む志摩子。ナイス志摩子!!
「と、当然じゃない、そんなこと、わ、分かってるわよ、」由乃はお弁当を平らげた後、顔を真っ赤にして一言。
「さっきはごめんね? その、お、おいしかった、毎日ありがとう、令ちゃん・・・」
ああ〜〜剣士(戦士)の休息というか、なんと言うか疲れが吹っ飛びます。
とまあ、昼間の精神修練(あくまで修行の一環です、自分の中では)が終わり、午後の授業も無事終わった、今日は部活も薔薇の館の仕事も無いため由乃と一緒に帰ることになっていた。
由乃は、掃除で少し遅れている為か、私は2年生の下足箱のある玄関先で待っていた。
「あ、あの、黄薔薇様・・・」 もじもじしながら、3人組が駆け寄ってきた。
「あ、あの、わ、私たち、ずっ、ずっと黄薔薇様のファンで、妹様の由乃様には大変失礼かとは思いましたが、ぜひともこれを受け取って貰いたくて、あの、その・・・今日の調理実習で作ったものなんですけど・・・」
差し出されたのは、可愛いくラッピングされた包み、この中には3人分の気持ちがたっぷり込められているに違いない。
「ありがとう」 私はミスターリリアンの名に恥じぬよう、やさしくその包みを受け取ると、その場で包みを空けた。
「「「 あ!? 」」」 っと3人組が驚く中、私は包みの中のクッキーを一口食べた。
背後から、まがまがしいというか嫉妬の炎というか物凄くやばい気を、ひしひしと感じるが、ここはがまん、がまん。
ここで、負けたら新たなステージアップはできない。
ドキドキしている3人組に一言、「とってもおいしいわ、ありがとう。」ニコッと微笑むと、満面の笑みを浮べ去っていった。
同時に、まがまがしい気の主も去っていった。
当然、その日は1人で帰ることになったのだが・・・
家に帰り、夕食までの間、自宅の道場で父親に変わり門下生たちの指導をした。
その後、父が帰ってきたので、今度は私が指導を受けた。
お風呂に入り汗を流し、夕食を食べ、部屋に戻り、明日の準備をした、しかし、私にとってはこれからが本番、日ごろの修行の成果を見せるときだ。
(ダン!ダン!) 力強い足音が階段を上ってくる。
落ち着け、剣士たるものいつも沈着冷静に・・・
(ダン、ダン、ダン!) 足音が部屋の前で止まった。ドキドキ
ドアノブがカチャッと音を立て、少し開いた。
私は呼吸を整え、今日は先手必勝を試みた。
「よ、由乃、今日はごめんね、でも許してよ、可愛い後輩の申し出を無下には断れないでしょう? それに私には由乃が1番だよ、ね?」
いつものように、乱暴にドアは開かれず、静かに、ゆっくりと開かれていった。 よし!! 効いたか?
しかし、次に私が見たのは、半分ほど開かれたドアから、ゆっくり入ってくる、だらりと伸びた真っ白い腕だった。
「って、・・・ええ、よ・由乃、由乃だよね? 冗談止めてよ。」 と同時に家の電気いっせいに消えた。
「え、え!!って、ねえ由乃なんでしょ? ほんとに冗談やめてよ、ねえ、うそでしょ、どうなってるの?」
白い腕が入ってきた後、今度は長髪をだらりと振り乱し、手と同じように真っ白い顔の女がまるで這うように『ずるずる』入ってきた。
「れ・い・ちゃん・れ・い・ちゃん・・ふ、ふふ、れ・い・ちゃん・・・ふふふふふ・・・・・」
月明かりに照らされたそれを見て、私は、息を呑んだ、雪のように白い顔、けど、血のように真っ赤な唇、私の可愛い由乃はどこ? え、よし・の・なの? え? 何なの、何なの・・・? すでに私の頭の中はパニック状態、恐怖で爆発寸前だった。
そのとき、 バンッ!! 「れ〜い〜ちゃ〜〜ん〜〜の〜〜浮気者〜〜〜〜〜!!」その白いものが勢いよくドアを空けた!!
「い、いや〜〜〜〜!! ごめんなさ〜〜い!!」 ばたん(令様失神)
「よ、由乃、さん!!私こんなこと聞いてないよ!!ただ、合図をしたらブレーカーを切って、って言われただけなのに!!」
「い、いいじゃない、夏の風物詩のお化け屋敷の一環だと思えば、それにお題にそって、私は修行の手伝いをしただけじゃない、そ、そうよ、へたれを直す修行。それに令ちゃんの両親にはちゃんと了解とってあるわよ。」
そう、先ほどの白い人物は、腕と顔を小麦粉で白くしたうえ真っ赤な口紅を引き、お下げを解き、わざとぼさぼさにした、由乃だった。
「りょっ、了解って、で、でも、令様、泡吹いて気絶してるよ、ねえ、いいの?」
「まあ、祐巳さんの言うとおりちょっと、やりすぎたかも・・・ 如何しようか?」
「そんなこと聞かれても、知らないわよ!! こんなことがお姉さまに知れたら、あわわわわ・・・」ガタガタ
私は何も知らなかったのにぃ(すでに泣いている)
あっという間に知れた。
次の日、薔薇の館というかリリアン全体に、祥子様の怒号が響いた「 祐巳!! 由乃ちゃん!! あなた達は何を考えてるの!!!! 」
私と由乃さんは首根っこを捕まれ、支倉家へ連れて行かれた。
令様のご両親の前に突き出された私たちは素直にご両親にお詫びを入れようとした、が、
「貴方たち、何をしているのかしら?」ああ、お姉さまのお顔が先ほどより怖い・・・
「ま、まあ、祥子さん、由乃ちゃんも、祐巳さんも悪気が在ったわけでは・・・」
「何を勘違いしていますの、令のお父様、お母様、何も私は祐巳と由乃ちゃんに謝罪を入れさせるために連れてきたのではありませんわ。」
「で、では、どのようなことで?」
「お・分・か・り・に・な・り・ま・せ・ん・?」お姉さまのお美しい額に、次々と青筋が立ってゆく、こ、怖い!!すごく怖い!!
「今回のことを容認したお2人も同罪です!! とりあえず4人、そこにお並びなさ〜〜〜い!!」
「「「「 は、はいいい!! 」」」」
その後、わたし、由乃さん、令様のご両親は延々と、お姉さまの説教を受けた。あまりの迫力にお父様まで涙目になっていたのを覚えている。
令様はまだうなされている「う〜ん、ごめんよ〜〜 ごめんよ〜〜 由乃〜〜 う〜ん、」
その後、リリアンでは、令様の 『あれ』 は遺伝だという噂が、まことしやかに流れた。
祥子様はため息のあと、ボソッと一言 「まったく、令もまだまだ修行が足りないわね。」
彼女の名前は、支倉令。趣味は編み物と少女小説、好きな言葉は『真心』
剣士には・・・向いてないかも・・・・