※このSSは、涼風さつさつ「花寺の合戦」の設定をお借りしています
祥子さまが、スカートをはいている事さえ気にせずに、櫓の梯子を降りてくる。
(お姉さま!)
祐巳ももつれそうな足で、必死に駆け寄る。
「祐巳!」
(お姉さま、私がパンダの着ぐるみを着ていてもわかるんですね!)
祥子が駆け寄ってくる。
〜たとえ音の無い真っ暗闇の世界にいても、そこに祐巳がいるならすぐにわかるわ〜
〜全身をぐるぐる巻きにされてベッドに横たわっていたとしても、間違いなく祐巳を探し当てることができるわ〜
そんな言葉を証明するように、祥子は真っ直ぐに、祐巳へと駆け寄ってくる。
「お姉さま!」
「祐巳!」
そう呼びかけて、祥子さまは迷わず
ドシィッ!!
ローキックを放つ。
しかも、打撃力を分散させないように、上から叩き下ろすように筋肉の防護の無い膝関節を的確に打ち抜いた。
「はぐぁぁっ!!」
祐巳はもんどりうって倒れた。
「祐巳!」
自分で打ち倒しといて「祐巳!」も無いもんだが・・・
「ううぅ・・・お姉さま、あんまりですよぅ」
関節の芯にまで到達した痛みに、泣きながら祐巳が講義する。
「ごめんなさい、祐巳。このパンダの着ぐるみの匂いを嗅いだら、何故か体が勝手にローキックを・・・」
「からだが勝手にローキックを打つなんて・・・お姉さま実はタイ人ですか?」
泣きながらも突っ込む祐巳は、ある事実に気付く。
(匂いって・・・柏木さんの匂い?!)
説明しよう!プライドの高い小笠原祥子は、いかに中味が大切な妹とはいえ、自分よりも男が良いだなどとぬかす野郎の匂いのするモノに抱きつく事に、体が勝手に拒否反応を起こし、結果、駆け寄ってくる匂いの元の前進を確実に止める為、打ち下ろしのローキックを放ったのだ!!
「祐巳!大丈夫?」
「大丈夫じゃないです・・・お姉さま、実は私の事嫌いなんでしょう!」
「そんなわけ無いじゃない!あなたは大切な妹よ!」
「じゃあ、なんで倒れた私に近寄ろうともしないんですか!」
「それは・・・からだが勝手に・・・」
先ほどの拒否反応が、まだ尾を引いているらしかった。
山百合会の仲間達も駆け寄ってきたが、なにやら泣き叫ぶパンダと、その隣りでオロオロと立ち尽くす祥子さまを見て、さっぱり訳がわからなかった。
この事件を期に、「パンダキラー祥子」だとか「ローキックの鬼」だとか「ムエタイクイーン」だとか呼ばれ、花寺の一部マニアにストーキングを受ける事となり、祥子の男性恐怖症は加速していくのであった。