【261】 打ち上げ花火  (ケテル・ウィスパー 2005-07-25 09:42:22)


・・・このお話は、卒業旅行シリーズの頃よりも前で、由乃さんも祐麒君も3年生。 時期は丁度今頃。 リアル時間で言うなら今年の場合は7/23ですね。・・・

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「うわ〜、すごい人出だね〜。 なんか場所取りも大変そう」
「ここは相変らずだな〜。 そうだ、向うに行こう」
「向う?」

 そう言うと祐麒君は私を引っぱって、人ごみの中を掻き分けて進んでいく。 

 ここは京王多摩川駅からほど近い多摩川の河川敷にある遊歩道、時間は今6時45分……頃? この時間に半端じゃない人を集めて催されるのは『調布市花火大会』 私も随分昔(4〜5歳くらい?)に自覚症状が出る前は来たことはあるけれど、すぐ隣の市で催されているのに手術する前はとても来られなかった、まず令ちゃんが許さないしね。 で、今年花火大会再デビューとなったわけ、しかも彼氏つきで。

 薄めの青に白の大きな乱れ菊模様の浴衣、ふんわりとした白の帯で締めてピンクの巾着、髪はアップにして来た。

 履きなれない下駄なんかで来ている私を気づかって、いつもよりゆっくり歩いてくれる祐麒君。 私は彼の左手の薬指を握って、ちょっと癪だけど後を付いていく。


「この辺ならまだましだろ?」

 京王相模原線の鉄橋から 200m 位上流側に陣取る、確か場所取りの大きさも制限があったはず、1m四方のビニールシートを敷いてとりあえず一息入れる。 本会場は大会実行委員会が席を用意していて個人シート席が2000円、あと値段は分からないけどガーデンチェア席とか少し下がってパイプイス席なんかも用意されているんだそうだ。 私達は当然無料本会場外だ。 花火は空に上がるんだし少し離れている方が見やすい。

「そんなに暑くなくてよかったね。 あ、そうだ、これ令ちゃんから預かってきたんだ、一緒に食べてって。 ちょっと少ないけど……」
「巾着に入る量だからね、ありがとう……って令さんに伝えといて」
「はい、承知いたしました」

 祐麒君が用意していたマグライトの灯りで、令ちゃん作成のおにぎりと小さめのから揚げを食べる。 食べながら少し周りを観察すると、やはりシートを敷いている人達、カップルが多い? 暗がりで寄り添っている人影に目が行く……。 ……………。
 ちょっとづつ祐麒君に近寄っていく。 ん? 祐麒君も少し寄って来てる?
 腕が触れてお互いに顔を見合わせて、シートの上で指を絡める。 涼しい川面の風が通り抜けて行く。
 顔が近づき少し目を閉じかけた時、下流の方からカウントダウンの声が聞こえてくる、短い時間を空けて3発の花火が連続で昇がる音がする。 

「あがった〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「………………あがった………ね……」

 もう少しで唇が触れるというところで、最初の一発目が夜空に光の絵を描く、続いて二発目三発目。 なんか隣で少し沈み気味の祐麒君。 理由はなんとなく分かるけど暫らくオアズケ、今は花火よ。 ごめ〜〜ん、でも、ほんとに久しぶりで来たんだもの最初から見たいじゃない。

「ねぇねぇ祐麒君、あれなにあれ! 開いた後すっごくバリバリ音が出てるけど!?」
「え? あ〜、あれはね……」

 本日は1万発の光の花が開く。 綺麗で儚い夏の思い出として。
 

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