【2617】 三薔薇降臨  (街 2008-05-10 00:09:20)


「ねぇ蓉子ってさ、あだ名ないよね?」

いきなり江利子が話し出した。今まで仕事もせず机の上でぐだーと寝ていたのに。まぁ江利子が唐突なのはいつものことだ。

「そうかしら。」
このまま会話続けるとまずいことになる、私の経験からいって間違いない。早々と会話を切り上げようとするが

「うん、そうだね、蓉子か蓉子さんじゃない?」

聖も会話に参加してきた。いやいやながら仕事をしていた聖が、仕事を放り投げて会話に参加することは予想できていたことだ。しまった、手遅れだ。

「それはあだ名って呼ばないでしょ。」と江利子。
「いいじゃない、そんなこと。」
お願いだから仕事して、しないなら黙って寝ていて欲しい。

「でも蓉子だけじゃなくて私たちにもないじゃん。」と聖。
「あるじゃない?あなたにはぴったしのあだ名が。」
「何?」

「アメリカ人。」

「はっはー。なるほどね。思い出させてくれてありがとう、でこちん。」
口元をひくつかせながら笑う聖と心から楽しそうに笑う江利子。
もう、勝手に二人でやってほしい。

「というわけでね、私は蓉子にもあだ名が必要だと思うの。」
「そうだね、確かにあだ名で呼ぶと親しみが増すものだし。猫って呼ぶよりもゴロンタって呼ぶほうが親しみがわくもんね。」こういう時だけ息が合う二人。

「あんたたちのあだ名って二人の間でしか使われてないじゃない。しかも悪口にしか聞こえないわ。」

「だから、今日は蓉子のあだ名を考えましょう。」江利子の暴走は止まらない。私を無視するなんていい度胸。


じゃあまずは名前から考えてみましょう。と江利子。

「蓉子の苗字なんだっけ?」無言で聖を殴る。じーっと江利子を睨む。

「水野蓉子でしょ。」江利子はさすがに覚えていた。

「じゃあ蓉ちゃん。」
「普通ね。」
「じゃあ江利子は?」むっとしたように聖が言う。
自信満々に江利子。

「港のヨ−コ。」
「「本名より長いじゃん!」」思わず聖とシンクロする。

「気に入らないの?じゃあ第二候補ね。」
期待は全然してないが一応聞く。

「港のヨーコ横浜横須賀」
「「もっと長いじゃん!」」第二シンクロだ。

「じゃあ、ブギウギバンド。」
「「ヨーコすらないじゃん!」」それにグループだし。突っ込みどころが満載すぎる。

「わがままねぇ。じゃあ違う方向から考えてみましょう。」さっさと諦めた。いや、飽きたのだろう。
それにしても、わがままという言葉の意味をわからせてあげましょうか。このこぶしで。



次は身体の特徴からつけようということになった。
「髪パッツン。」江利子。
「真ん中わけ。」聖。
「ハーフ」江利子。
「5:5」聖。
「ら○ま1/2」江利子。

なるほど、二人は喧嘩を売っているようだ。二人にとって私の身体の特徴は真ん中できっちりわけられて、肩でそろえられた髪だけらしい。

制裁を受けた二人は懲りずにまた考え始めた。


「じゃあ最後にはこれしかないわ、性格からつけましょう。」
「そうだね、これならわがままな蓉子も納得するものがあるかも。」

今までの中であだ名と呼べる候補が1つでもあったかしら。

「蓉子も文句ばっかり言ってないで自分でも考えてみなさいよ。」
江利子が私に言ってきた。普通本人が考えるものなの?

「そうね、あだ名はともかく私の性格は、真面目・優等生・努力家。そんな感じかしら。」
「確かにね、みんなそういうイメージを持ってるだろうね。」と聖。

じゃあそこから広げてみようということになった。以下は二人で順番に連想して言ったものだ。

「真面目・優等生・努力家から連想ね。私からいくわ。」と江利子「いい子。」
「良い子」と聖。以下江利子、聖の順番で続く。

「よゐこ(江)」は?
「濱口(聖)」へ?
「無人島(江)」・・・。
「野生(聖)」もういいわ。

「野宿(江)」「ホームレス(聖)」「失業(江)」「解雇(聖)」「くび(江)」「くびわ(聖)」「猫(江)」「ゴロンタ(聖)」「聖(江)」

「伝説の白薔薇」と聖が自信満々に言う。

「伝説のエロ薔薇」江利子が鼻でわらう。

「サド・フェティダ」これに切れたらしい聖が言う。

そろそろ気づいて欲しいんだけれど最初の目的は何だったのかしら?
良い子までは許せるわ、その後から明らかに目的を見失っているわよね。

とりあえず喧嘩を始めた二人に本日二度目の制裁をあたえた。


「てゆーかサドは聖でしょ。」二人は懲りずにまだ口げんかをしている。そうね、制裁を与えたぐらいで言うことを聞くようだったら私の3年間はもっと楽だったはずよね。

「下級生相手にセクハラして喜んでるじゃない。」
「確かにしてるけど江利子よりはサドじゃない。」してるのね?後で詳しく聞く必要ありだわ。

「まぁ否定はしないわ。」そこは自慢顔するとこじゃないわよ。
「蓉子はどうかしら?ほら性格ってSとかMとかも入るわよね。」
そうだけど、そこからつけられるあだ名って何よ。
「私のことはもう放っといて。」

「うーんさっきの制裁っぷりからサド?」無視か!
「そうね、でも聖の騒動(いばらの森)のときから考えるとマゾじゃない?」
「確かに。じゃあ精神的にはマゾで外見はサドだね。」

そうだ!と嬉しそうに聖が言う。「じゃあやっぱりS:M=5:5だから5:5はどう?」
「それなら私のら○ま1/2のほうが良いわよ。」

ねぇどう?と真剣に聞く二人を前に、私は久しぶりに頭痛のビッグウェーブに襲われていた。


その後、本日3度目の制裁を与えたのは言うまでもない。


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