【263】 おっぱい十字軍  (いぬいぬ 2005-07-25 19:11:28)


放課後の薔薇の館。会議もひと段落し、山百合会のメンバーがお茶を楽しんでいると、ビスケット扉がノックされた。
乃梨子が扉へと向かい、応対する。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
そこにいたのは、新聞部次期部長、山口真美だった。
「本日は、みなさんにご相談があって参りました・・・」



「・・・・・・おっぱい十字軍?」
「はい」
眉をひそめながら祥子が問うと、真美は詳細を語り出した。
「まだ新聞部でも、詳細はつかんでないんですが、一部のリリアン生徒によって組織されているらしいんです」
「何よその変態丸出しなネーミングは。頭おかしいんじゃないの?」
あきれ果てた様子で由乃が吐き捨てた。
「そうね、はっきり言って異常者の群れだと思うわ」
「それで・・・その十字軍とやらは、何を目的にしているの?」
祥子はすでに怒りのオーラをまとっていた。
「頬擦りするらしいんです。おっぱい十字軍ですから、おっぱいに」
「ほ、頬擦りぃ?!」
「祐巳。大きな声を出さないの、はしたない」
「す、すいません」
「十字軍は、数人のグループで動いているらしいんです。放課後なんかに、ターゲットが一人でいる所を狙い、何人かで羽交い絞めにした後、メンバーが順々に頬擦りしていくらしいんです。納得いくまで」
「変態って言うか、痴漢の群れですね」
乃梨子が軽蔑しきった様子で呟いた。
「そうね、これはもはや犯罪者の所業よ。でも今のところ、正式に被害届けが出ている訳では無いんです。やはりリリアンはイイトコのお嬢様が多いので、自分がそんな事をされたのを知られるのが嫌なのかも知れません。あるいは、十字軍が同じリリアン生徒だという事で、報復を恐れているのかも・・・ 今回も、たまたま妹の日出美が、十字軍に襲われている生徒を見かけたから発覚したんであって、正確な被害者数は確認できていません」
「その・・・彼女らの団体名は、どうやって突き止めたのかしら?」
志摩子はその名を口にするのが恥ずかしいらしく、“彼女ら”と表現するに止めた。
「日出美が遭遇したときには、もう全てが終わった後だったの。丁度、最後のメンバーが頬擦りしていたそうよ。その時、彼女らのリーダーらしき人物が『おっぱい十字軍に栄光あれ』と呟いたそうよ。その場にいた他のメンバーも『栄光あれ』と続いた後、バラバラに散開してしまったんで、日出美はとっさには後を追えなかったらしいわ。ちなみに、被害者も日出美に気付いて逃げてしまったそうよ」
「集団で襲うなんて・・・最低のゴミどもね!」
怒りもあらわに祥子が吠えた。
「今の所、判明しているのは、犯人が複数でグループを形成してる事、それと、全員が白いトンガリ帽子の覆面を被っていた事、それだけなんです。そこで、今日ご相談したいのは・・・」
「判ったわ真美さん。山百合会も調査に協力します」
他の山百合会メンバーも異論は無かった。
被害者が増える前に十字軍の正体を突き止め、彼女らを止めなければならない。
「ありがとうございます。紅薔薇様」

「当然よ!祐巳のおっぱいは、私だけのモノよ!!」

・・・いろんな意味で、怖くて誰も突っ込めなかった。
祐巳は令に助けを求める視線を送ったが、思いっきり目をそらされた。
「・・・・・・それでは宜しくお願いします」
深くかかわるのはヤバイと判断した真美は、一礼して、素早く館から出て行ってしまった。他のメンバーも「それじゃあ、さっそく調査に・・・」とか言いながら館を後にする。
祐巳もそれについて行き、薔薇の館には、まだ何か呟き続ける祥子だけが残った。
「・・・そうよ、羽交い絞めなんて邪道よ。むしろ後ろから揉みしだいて・・・」
祐巳限定で、十字軍よりヤバイかも知れなかった。


その日は結局、もう遅いからという理由で解散となった。
令は剣道部でそれとなく探りを入れてくると言って、別行動を取っていた。
「とりあえず明日からが本番ね。それにしても何考えて生きてんのかしら、そいつら」
由乃はすでに青信号が灯ってるようだ。
「まあ、異常者の思考なんか、推測するだけ無駄でしょう。普通に生きてる私達には理解できない理念で動いてるからこそ異常者なんでしょうし・・・」
乃梨子も普段より機嫌が悪い。おそらく、志摩子がターゲットにされる事を警戒しているのだろう。
「でも、調査するにしても、どこから手をつければ良いのかしら」
志摩子が疑問を口にする。相手がリリアン生徒だと判っていても、学園全体となると、山百合会だけではカバーしきれないだろう。
「ドラマとかだと、こういう時犯人は現場に戻ってきたりするんだよね!」
祐巳が勢い込んで言う。
「祐巳さん・・・ドラマじゃないし、だいたい現場が日出美ちゃんの見た場所だけとは限らないのよ?真美さんも正確な被害は判ってないって言ってたし。へたすりゃリリアン全体が現場よ!」
由乃が呆れて言う。祐巳もその言葉にショボンとなってしまった。
「いや、犯人は戻ってくるっていうのは、良い着眼点かも知れません」
乃梨子は何やら考え込みながら言う。
「だから現場は・・・」
「いえ、現場を押さえるって意味じゃありません由乃さま」
「? じゃあ、何処に戻るっていうのよ」
「戻るという表現も、少し違いますが・・・ 犯人が現れる場所は特定できるはずです」
「それって何処よ!」
由乃は、今にも走り出しそうな様子で問い詰める。
「おっぱい十字軍は、おっぱいのある所に集うはずです」
「! そうね。それなら出現場所を絞り込めるかもしれないわね。さすがね乃梨子」
「えっと・・・どういう事? おっぱいなら、みんな付いてるんじゃない?」
子狸の脳には理解できなかったようだ。由乃が溜息をつきながら補足説明する。
「あのね、祐巳さん。やつらはおっぱい十字軍なんて名乗るくらいの変態集団だから、おっぱいのマニアな訳よ」
「うん」
「マニアっていうやつは、自らのコダワリに基づいて行動する。つまり・・・」
「あ!理想のおっぱいに誘われて集まってくるって事?」
「そういう事よ」
おっぱいおっぱいと連呼する祐巳と由乃の隣りで、志摩子が一人で頬を赤くしていた。
「つまりは思わず頬擦りしたくなるようなおっぱいの持ち主を見張っていれば、やつらは必ず現れるはずよ」
「そうかぁ・・・って、具体的にはどんなおっぱいに誘われてくるんだろう?」
「そうねぇ・・・志摩子さんなんか危ないんじゃない?結構大きいし」
「ああー。なんか柔らかそうだしねぇ・・・」
「よ、由乃さん!祐巳さんまで!」
志摩子はもう、耳の先まで真っ赤になっていた。となりでは、乃梨子が益々不機嫌に黙り込んでいた。由乃の意見が正しいと推測したのだろう。
「それと、やつらはたぶん、リリアンの中でしか動かないと思うわ。さすがに街中でそんな事やった日には、警察が乗り出してくるだろうし・・・」
「そうですね。しかも、学園の中なら覆面を脱げば、一般の生徒に紛れる事もできる」
由乃と乃梨子の推測が、徐々に十字軍の行動を絞り込んでゆく。
隣りでは、あっけにとられた子狸が、ポカンと口を開けていた。そんな祐巳を見て、由乃はふと思いつく。
「あと、祐巳さんなんかも危ないかもね」
「私も?!え・・・だって私、そんなに大きくないよ?」
「希少価値・・・ですか」
乃梨子が呟く。
「そう。なんてったって紅薔薇の蕾ですもの。人気があるうえに、なんだか襲いやすそうじゃない」
「そ、そんなぁ・・・」
「いえ、あながち無いとも言い切れませんよ。マニアはレアなモノに群れますから」
乃梨子にトドメを刺されて、祐巳は早くも泣きそうになっていた。
「まあ、常に複数で動くとかしていれば大丈夫でしょうけど、油断しない事ね」
「・・・・・・どうやら、そんなに甘いモノでもなかったみたいですよ」
乃梨子の言葉に、全員がはっとなる。その時にはすでに、六人の白覆面に囲まれていた。
「上等よ。この場で残らず叩きのめしてやるわ!」
由乃は素早く竹刀を取り出し、正眼に構える。
「乃梨子ちゃん!急いで令ちゃんを呼んできて!まだ部室のほうにいると思うから。志摩子さんと祐巳さんは、とりあえず校外まで逃げて!」
「由乃さま!」
「大丈夫よ。だてに剣道部で鍛えてる訳じゃないから」
おっぱい十字軍に睨みを聞かせながら言う由乃の様子に、他の3人は、同時に走り始めた。
「さあ、かかってらっしゃい!!」
由乃は自らを鼓舞するように、気合を発する。
それに対し、白覆面はピクリとも動かなかった。
(・・・?なんで誰も志摩子さん達を追わないのかしら?)
由乃が不審に思っていると、十字軍が間合いを詰めてくる。
(来る!)
しかし、十字軍には、由乃を倒そうという雰囲気がかんじられない。
由乃が不審感感を強めていると、なにかこもった音が聞こえてくるのに気付いた。

フコー・・・フコー・・・フコー!・・・フコー!フコー!フコッ!フコッ!フコッ!

(えっと・・・これは・・・・・・鼻息?)
そう、それはやつらの呼吸音だった。ジリジリと間合いを詰めながら、呼吸音もまた激しくなってゆく。
(鼻息が荒いって事は・・・興奮してるって事よね?)
もはや十字軍は竹刀の間合いに入っているのだが、妙なプレッシャーを感じ、由乃は攻撃できずにいた。
(もしかして・・・・・・)
その時、後ろから接近していた十字軍の二人が、同時に由乃へ襲い掛かった。
(ターゲットは私?!)
その後はもう、獲物に群がる肉食獣のように、十字軍が密集してきた。
「ちょ!・・・・・・なんでわた・・・・キャァァァッ!!」
あわれな犠牲者の視界は、白覆面で埋め尽くされ、その耳には、荒い鼻息だけが響き渡っていた。



二条乃梨子は焦っていた。結局、令を見つける事ができず、たまたま通りかかった祥子(妄想より帰還したらしい)を伴ない、由乃と別れた場所へと全力疾走する。
なぜか祥子の右手にはバラ鞭(紅椿:9尾バラ鞭:赤 web価格5050)が握られていたが、乃梨子はあえて見なかった事にした。
「くっ!・・・・・・これは・・・祐巳に使うはず・・・だったのに・・・」
荒い息に混じる祥子の呟きも、聞かなかった事にした。
「由乃さま!」
さっきの場所まで戻ってきたが、由乃の姿が無い。慌てて辺りを見回すと、公孫樹の根本に、ぐったりと由乃が座り込んでいた。
「由乃ちゃん!怪我はないの?!」
祥子も駆け寄って、由乃を抱き起こす。だいぶ精神的なダメージがあったらしく、まだ目の焦点が合ってない感じだが、
「あいつら・・・・・・次は殺す!・・・絶対殺す!」
まだ闘志は失っていないらしかった。
その後、校門の外にいた祐巳や志摩子と合流し、由乃を自宅までみんなで送り、その日は成すすべも無く解散となったのだった。




翌日、由乃は意外にも、元気いっぱいに登校してきた。
「ごきげんよう由乃さん。大丈夫なの?」
祐巳が心配そうに聞くが、由乃は何やら元気が有り余っている感じだった。
「平気よ!それと祐巳さん。やつらの活動はもう無いから、安心して良いわよ」
「え?!どういう事?」
「まあ、放課後に薔薇の館で詳しく話すわ。祥子さまにも、そう伝えといてくれる?」
「うん、それは良いけど・・・」
「じゃ、私は志摩子さん達にも伝えてくるわ!」
話はここで終わりだとでも言うように、由乃は教室を出ていってしまった。


放課後、山百合会のメンバーと山口真美、高知日出美の二人は、薔薇の館に集合していた。
「じゃあ、説明してもらえるかしら?由乃ちゃん」
「その前に、ワッフルでもいかがですか?ウチのお姉さま特製です」
そう言って、由乃はワッフルを配り始める。祐巳などはさっそく齧り付いて「おいしい!」と歓声を上げている。隣では祥子が「はしたないわよ祐巳」などと言いっているが表情は緩みきっていて、ハンカチで食べかすの付いた口元を拭いてやったりしている。
祥子がそのハンカチを真空パック用の容器に入れているのを、乃梨子は目撃してしまったが、やはり見なかった事にした。何に使う気かも考えない事にした。
「そういえば令さまは?」
志摩子が聞いてくる。
「あ、今日は休み」
由乃が軽く答える。そして全員を見渡すと、オモムロに話し始めた。
「じゃあ、説明を始めます。その前に、新聞部のお二人」
「「はい?」」
新聞部姉妹の声が綺麗に重なった。
「今回の件。記事にするつもり?」
由乃の問いに、真美が表情を引き締める。
「今回の事、いくら女性同士とはいえ、へたに騒ぎにしたら、痴漢行為で警察沙汰にもなりかねません。由乃さんの言うように、今後一切十字軍の活動が無いという事なら、ここにいる人間の胸の内に収めてもらおうと思います。いくら倒錯した趣味の持ち主達の事とはいえ、今後の人生に大きく関わる事ですから」
「そう、良かった。もう、おっぱい十字軍なんてふざけた組織は壊滅したも同然だから、これから話す事も、みなさんの胸の内に収めてもらうという事で良いですか?紅薔薇様」
「由乃ちゃんがそこまで言うなら、異存は無いわ。みんなも良いわね?」
祥子が見渡すと、全員がうなずいた。
「では、事件の詳細を説明します。まず、十字軍は当初、たんにおっぱいの感触が好きな軽い変態の集まりだったようです。主に運動部の間で、同好の士が集まるとおっぱいについて語り合う、そんな暗い変態集団だったらしいです」
全員が「嫌な語り合いだな」と思う中、恐る恐る日出美が手を上げた。
「あの・・・何故運動部が中心に?」
「・・・恐らく、一緒に着替えたり、柔軟体操で密着したりで、何かと触れる機会が多かったからじゃない?まあ、成り立ちはともかく、最初は実力行使に出たりはしなかったらしいんだけど、ある部活で着替えている最中に、ふざけて頬擦りした団員がいたそうなの。その場は冗談で済んだらしいけど」
《冗談でもイヤだなぁ・・・》
全員が心の中で突っ込んだ。
「で、その団員が、あまりの気持ち良さに、思わず他の団員に勧めたらしいのよ。アレは是非一度体験するべきだって」
《そいつが元凶かよ・・・》
「そこから暴走が始まったらしいわ。元々みんな運動部に所属しているもんだから、変に体力に自身があるし、チームでの連携プレイが得意な団員もいたりしたりで、ああいった集団での暴挙にでたらしいわ」
《チームプレイが得意な体力自慢の痴漢って最悪だな・・・》
「で、触り心地の良さそうなおっぱいを見つける度に、人気の無い所で襲っていたって訳よ」
《もしかして、今の内に全員逮捕されといたほうが良いかも?やっぱり通報しとくべきかなぁ・・・》
全員が、この事件を秘密裏にする事を後悔し始めた時、乃梨子が手を上げた。
「十字軍の正体はあらかた判りました。それで、十字軍の活動がもう無いという根拠は?そもそも、昨日帰宅してから今朝までの間に、どうやって由乃さまはその事実を掴んだんですか?」
乃梨子の質問に、由乃は苦虫を噛み潰したような顔になりながら答えた。
「・・・昨日ね、帰ってから部屋で悔しさにジリジリしてたら、なんかヤケに申し訳無さそうにしてたのよ」
《?》
「最初は、私が襲われてた時に何も出来なかった事で後悔してるのかと思ったんだけど、なんかそれにしちゃあ様子がおかしかったのよ」
《???》
「で、ピンときてね。何か十字軍について知ってるか問い詰めたのよ」
「えと・・・様子がおかしくて問い詰めたって事は・・・」
祐巳が信じられないといった顔で質問する。
「・・・・・・・・・・・・昨日の集団の中に居やがったのよ!令ちゃんが!!」
「「「ええぇぇぇぇっ?!」」」
全員の悲鳴が響いた。
「なんかね・・・ごめんねとか謝ってたけど、締め上げたら、十字軍設立当初からの団員だったらしくてね・・・・・・しかも、昨日最初に頬擦りしてきたのが、他ならぬ令ちゃんだったらしくてね・・・・・・なんかもう情けなくて、マウントポジションに持ち込んで、竹刀の柄でメッタ打ちにしちゃったわよもう」
《死んでないだろうな、ソレ》
「その後、サンドバッグ状に縛り上げて、体力の続く限りミドルキックを叩き込んでやったわ」
《・・・死んだかもな、ソレ》
「まあ、とりあえずみんなにも迷惑かけたから、折檻のあとに、このワッフル焼かせたんだけど・・・みんな当分は令ちゃんの事は奴隷だと思って良いからね」
《うわ〜容赦無ぇなぁ》
祐巳はなんとなく、齧っていたワッフルを置いてしまった。
(由乃さんのおっぱい揉んだ手で、このワッフルの生地もこねたのかなぁ・・・)
もう食べる気がしなくなってしまった。周りを見ると、もう誰一人ワッフルに手を出そうとはしなかった。
「そんな訳で、令ちゃん締め上げれば、他の団員の情報も引き出せるだろうけど、もう令ちゃん経由で情報が漏れた事は、令ちゃん自身の口から他の団員に伝えさせたから、やつらは二度と活動はしないわ。もし活動すれば、今度こそ全員警察に引き渡すとも伝えさせたから」
室内は水を打ったように静まり返っていた。全員が今後、令とどういう顔で会えば良いか悩んでいるようだ。
「令の自業自得とはいえ、後味の悪い事件だったわね。でも・・・」
祥子が溜息と共に言う。
「普段から由乃ちゃんの奴隷みたいなものだったし・・・別にこれからの付き合い方を変えなくても良さそうね」
由乃は何か良いたそうだったが、結局何も言い返せなかった。
そして残りのメンバーも
《それもそうか》
と、納得してしまい、この事件は幕を閉じたのであった。

「あの・・・由乃さん」
「何?志摩子さん」
志摩子がおずおずと手を上げた。
「答えたくないならば答えなくても良いのだけど・・・何故、由乃さんがターゲットにされたのかしら?」
それは、全員が不思議に思っていた事だった。令の趣味だといえば、そうなのだろうけども、他ならぬ由乃自身の口から「触り心地のよさそうなおっぱい」が主なターゲットだったと聞いたはずである。
その質問を聞いた途端、由乃の顔が鬼のように引きつった。
「あ、ごめんなさい。聞いちゃいけない事だったかしら・・・」
「いや、いいのよ。ついでだから、教えとくわ」
由乃は一つ息をついて落ち着きを取り戻すと、ゆっくりと語り始めた。
「十字軍はね、設立当初から“巨乳派”と“貧乳派”に分かれてたらしくてね」
なるほど、今回の犯人達は“貧乳派”だったようだ。
「変態にも流派があるんだ・・・」
乃梨子が呆然と呟いた。
「しかも、“貧乳派”の中でも“文化系少女主義者”と“体育会系少女主義者”に分かれてたらしくてね・・・」
《実際、全部で何人いたんだろう?》
あらためて十字軍の全容を聞かされ、全員が戦慄する中、由乃は語り続ける。
「私、手術前はいかにも弱々しくて、文化系な感じだったでしょう?それが、最近は剣道部に入っちゃったもんだから、体育会系に変わって、結局“貧乳派”の派閥の両方から狙われたらしいのよ。なんか二つの派閥は相容れない存在だったらしいんだけど、私を狙う事で初めて団結したとかで・・・」
心底情けなさそうに、由乃は拳を握り締めた。
全員がいたたまれない目で由乃を見ていたが、由乃は語りに熱中していて気付かない。それどころか、徐々にヒートアップしてきた。
「じゃあ“巨乳派”の連中は志摩子さんあたりでも狙ってたのかって聞いたら、(あの儚げな感じを汚したくないから)とかで不可侵の存在だったって言うし!じゃあ、私は汚しても良いんかい!!」
もはや青信号通り越してロケットに点火状態だ。
「ああもう!思い出したらまた腹立ってきた!帰ってもういっぺん折檻だわ!」
猛り狂う由乃を志摩子と祐巳が二人がかりで止めたが、令は結局、翌日も登校できなかったという。


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