ブルルルルルルルル
大型のバイクに乗り、砂漠を進む者が一人。
ブルルルルル――――――キキィッ
ザザッザザッ バタンッ
「・・・・・・また街が一つ死んだ、か」
砂漠を進んでいた者は、廃墟と化した家の扉を蹴破ると淡々と言った。
その者の顔は、特殊なマスクで覆われていた。
ふと見上げた頭上には、大きな蟲が飛んでいた。
「行こう。ここももうすぐ腐海に沈む」
〜〜巨大産業文明が崩壊してから1000年。
くさった海・・・腐海(ふかい)と呼ばれる、有毒の覇気を発する菌類の森が広がった
その森は人々の生活を脅かし、腐海とほんの一握りの場所以外は砂漠と化してしまった〜〜
「あっ、王蟲の道?!・・・まだ新しい」
祐巳は一人、腐海の中を歩いていた。
その時、思いがけず王蟲の通り道を見つけた。
祐巳は嬉々として歩みを進めた。
しばらく進むと前方に何かが見えた。
駆け寄って見ると、それは王蟲の抜け殻であった。
「王蟲の抜け殻!
すごい!完全な抜け殻なんて初めて!」
そう言うと、祐巳は抜け殻を剣で叩いた。
キーーーン―――
「いい音・・・」
剣と抜け殻が合わさりあって出た音は、遠くまで突き抜けるかのように響いた。
祐巳はうっとりとその音を聞いた。
音が鳴り止むと、祐巳は唐突に剣を構えた。
そして力強く突き刺した。
カキンッ
「ふふふ」
祐巳は笑っていた。
「セラミック剣が欠けちゃった」
剣が欠けてしまったにも関わらず、その声には嬉しさが感じ取られた。
「みんな喜ぶだろうなぁ。これで道具作りの材料に困らなくて澄むし」
祐巳はマスクの上からでもわかるほど、大きな笑みを浮かべた。
そして、徐に胸元から火薬を取り出した。
その火薬を使い、祐巳は抜け殻から目の部分だけを切り離した。
「これくらいなら持って帰れるかな・・・ん?!」
急に胸騒ぎがした。
と、その時。
バーーーーン。バーーーン―――
腐海中に鳴り響く銃声。
「蟲封じの銃?!・・・誰かが蟲に追われてる!」
祐巳は駆け出した。
高台に登って、場所を確認しようとする。
「王蟲!?」
目に飛び込んできたのは、怒りの色にかわった王蟲の姿だった。
「助けなきゃ!」
祐巳は再び地上に戻ると、乗ってきたメーヴェに飛び乗った。
「あの人は・・・!」
祐巳の目に映った人物。
それは大型のバイクに乗り、砂漠を進んでいた者だった。
「とにかく王蟲を静めなきゃ・・・」
祐巳は暴れる王蟲の元へと寄った。
「王蟲、森へお帰り。ここはお前のいる場所じゃないよ。
・・・・・・だめだ。怒りに我を忘れてる」
祐巳は言い聞かすように言った。
しかし、王蟲はとまらない。
「しかたがない・・・」
バシューーーン
祐巳は光玉を落とした。
その閃光で王蟲は目を回し、動きを止めた。
「王蟲、目を覚まして」
蟲笛を鳴らしながら、祐巳は王蟲に話しかけた。
しばらくすると、王蟲は目を覚ました。
「王蟲、森へお帰り」
まるで祐巳の声に従うかのように、ゆっくりと、しかし確実に王蟲は森へと戻っていった。
その姿を確認した祐巳は、地上に降り立つと、先ほどの人物の元へと駆け寄った。
「祐巳ちゃん!」
「あ、やっぱり聖さまだったんですね!ごきげんよう。お久しぶりです!」
「ごきげんよう。ほんと久しぶりだね。でもその前に、お礼を言わなきゃ。
助けてくれてありがとう。祐巳ちゃん」
「そ、そんな・・・私なんてまだまだです!」
「いや、凄く立派になった。いい風使いだ」
「あれ?聖さま、この子は?」
胸元に隠れていた子猫に気がつき、祐巳は聖に尋ねた。
「あぁ、この子はさっき烏にやられそうになってたところを助けたんだ。
その時、ついつい銃を使っちゃって・・・
あ、手は出さないほうがいいよ。結構強暴だから」
「大丈夫ですよ。
怖くないから、おいで」
祐巳は子猫に手を差し出した。
子猫は逆毛を立てながら威嚇する。
そして、祐巳の指に噛み付いた。
「あ!祐巳ちゃん!」
「大丈夫です」
驚いて子猫を離そうとする聖を押し留めると、祐巳は諭すようにその子猫に話しかけた。
「大丈夫だから。怖がらなくていいよ」
その声に反応するかのように、見る見るうちに子猫は大人しくなった。
「聖さま。名前は?」
「う〜ん、そうだな・・・ゴロンタ。この子の名前はゴロンタ」
「そう、ゴロンタ。よろしくね!ゴロンタ」
まるで先ほどのことなどなかったかのように、祐巳とゴロンタは無邪気にじゃれ合っていた。
あいかわらず凄い子だ。
聖はそう思った。
「みんなにも変わりはない?」
「・・・・・・」
「祐巳ちゃん?」
「・・・蓉子さまが・・・蓉子さまは、もう飛べません」
「!!蓉子が・・・・・・そう。もっと早くに戻るべきだったね。
それじゃあ、行こうか。祐巳ちゃん」
「はい」
祐巳と聖はリリアンへと向かった。