【2652】 天才少女  (アリとキリギリスのキリギリス 2008-06-13 22:58:37)


スーパー祐巳ちゃん  科学者編

【No:2646】→【No:2647】の続き


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波乱の火曜日



「祐巳さん。そろそろ終わりにしましょう」

同じ掃除グループのクラスメイトが、窓を閉めながら言った。

や、やっと終わった・・・
祐巳は長くて濃かった一日の終わりを噛締めた。
そしていそいそと帰り支度をしようとした時、ふと思った。
この時間、バスは混む。このまま帰ったらまた・・・襲われる!
ということで、少し残ることにした。

「掃除日誌をまだ書き終えていないから、皆さんお先にいらして」

祐巳は有無を言わさず、クラスメイトを帰した。
一人になりたいのだ。
ずっと追い掛け回されていたのだ。そう思っても仕方がないはずだ。


祐巳の掃除の担当場所は音楽室。
必然的に立派なグランドピアノが目に入った。

「ピアノ・・・か。弾いてみようかな」

何とはなしに呟くと、祐巳はピアノに手をかけた。

祐巳の奏でる音楽は実に素晴らしかった。祐巳の才能は、科学の分野だけではないのだ。
ちなみに曲は、グノーのアヴェ・マリア。特に意味はなかった。

曲が終盤に差し掛かった時。
まるで祐巳の手に重ねるかのように、背後から別の手が出てきた。

「☆×■◎△――――!?」

「何て声だしているの」

「さ、祥子さま?!!
音もなく背後から現れないでください!そ、それに手!一体、何なんですか?!」

「まぁ!ピアノ演奏の邪魔をしたらいけない、という配慮からよ。別に、襲おうだなんて思ってないわよ」

「・・・・・・」

言ってる意味がよくわからない。
祐巳はじと目で祥子を見た。
そして思った。祥子さまもおかしい人・・・?

「とても素晴らしい演奏だったわ。ピアノ、習っているのね」

訝しがる祐巳などお構いなしに、祥子は話を続けた。

祥子は上級生だ。さすがに祐巳も無視はできない。
仕方がないので話をあわせた。

「いいえ。
最も、昔テレビで見た姿に憧れて一度弾いたことはありますけど」

「一度?!・・・凄いのね」

祥子は唖然とした顔で祐巳を見つめた。

あれ?何か変なこと言ったかなぁ?
祐巳はキョトンとした顔で祥子を見つめた。

まぁ、確かにね。祥子が驚くのも無理はない。
何せ祥子は、いや学校の人たちは、祐巳は平均的な普通の少女だと思っているのだから。
そんな祐巳がプロ顔負けの演奏をしていたのだ。それも、過去に一回しか弾いたことはないなどという。驚いて当然である。
実際YU-MIxx2TYPEには平均的な能力をインプットさせているのだから、祐巳を平均的な少女だと思うのも仕方がない。
どうも祐巳は自分の能力を過小評価しがちである。というか、自分は平均的だと思っている。
そのせいで祐巳とYU-MIxx2TYPEの能力面は違っていた。
ちなみに、性格は祐巳そのものである。

しばらく唖然としていた祥子だったが、気を取り直したかのように「行きましょうか」と声をかけた。

「は!?」

「は、じゃないわよ。私が何をしにここまできたと思っているの?」

はて。何しにきたのやら。
祐巳にはわからなかった。

「あなたを迎えにきたのよ」

祥子は、当然でしょう、というように片眉を上げて斜に構えた。

「これから学園祭までずっと、放課後は私たちの芝居の稽古に付き合ってもらうわ」

「へ?どうしてっ?!」

「あなたはシンデレラの代役なのよ?
練習に出ないなんてこと、もちろん許されるわけないでしょ」

代役って・・・あぁ、賭けのことか。

「でもそれは、私がロザリオを受け取った時の話ですよね?」

「そうよ。それは絶対のことなんだから、練習に行くのは当然でしょう?」

そう言うと、祥子は信じられないほどの力で祐巳を引っ張った。

「そんな無茶苦茶な・・・」

祥子の力に抗えなかった祐巳は、一人呟いていた。




連れてこられたのは第二体育館だった。

「あ、祥子がきた」

「遅いよ」

薔薇さまたちの声が体育館に響き渡る中、祐巳はふらふらと祥子の後を追って体育館の中へと入った。
そんな祐巳を興味津々の目が追っていたけれど、祐巳は気付かなかった。
精神的に疲れていて余裕がなくなっていたのだ。周りが見えなくなっていた。
祥子は祐巳に、とりあえず端で見学しているように、と告げた。
祐巳はその言葉に従い、げっそりとした面持ちのまま壁際へと移動した。

「いらっしゃい。福沢祐巳ちゃん」

呼ばれて振り向くと、蓉子が手招きをしていた。

「こっちの方が、よく見えるわよ」

そう言われて、祐巳は初めて体育館の中を見渡した。
ダンスの練習・・・?

「まあまあの出来でしょう?」

祥子と令がペアになって踊っている姿を指差しながら、蓉子は言った。

すごい。
祐巳は素直に感動した。
祥子が踊る姿に目をとられていた。

「祥子はね。正真正銘のお嬢さまだから、社交ダンスぐらい踊れて当たり前なのよ」

祥子の姿に釘付けになった祐巳に、少し自慢げに蓉子は語った。

祥子の習い事はすごかった。
五歳の時からバレエを。中一から三年間は社交ダンスの個人レッスン。
その他にも、英会話やピアノ、茶道、華道など、中学までは何かしらの家庭教師が毎日来ていたらしい。

「うわぁ」

思わず声を漏らしていた。
祐巳はめんどくさがりなのだ。お稽古事を毎日やるなんて、考えられないことだ。

「あ、でもそれなら大丈夫なんじゃないですか?」

祐巳はふと思い、蓉子に言った。

「何が?」

「ダンスです。今更どうこう言うこともないんじゃないですか?」

「そうなの。実は、私たちもそれが疑問だったの。
あまりに嫌がるから、私たちも理由を知りたくて、すぐには降板を許さなかったの」

う〜ん。一体何が嫌なんだろう?
祐巳が頭をかしげながら考えていると、聖が近づいてきて徐に祐巳の髪をいじりだした。

な、何なの?!髪!何で触るの?!もしかして、白薔薇さまもおかしい人?!
戸惑う祐巳を余所に、聖はにこやかに尋ねた。

「祐巳ちゃんダンスは?」

「い、いいえ。全然」

「あれー?ねえ、ダンスって二年生になってからだっけ?」

「そうだった、と思うけど」

カセットテープを巻き戻しながら、江利子が興味なさげに答えた。

「じゃ、教えてあげよう。ワルツだから三拍子ね」

一、二、三、一、二、三・・・と、聖がリズムを刻む。
祐巳もそれに合わせて踊る。


「ゆ、祐巳ちゃん?ほんとにやったことないの?」

「はい。あ、何かおかしいところでもありましたか?
祥子さまたちが踊る姿を見てたから、大体の感じは掴めたと思ったんですけど・・・」

「いや、むしろ完璧だよ。
何だかイメージと違うなぁ。平凡な普通の子だと思ったんだけど・・・」

落ち込む祐巳に、唖然とした顔で聖が言った。

無理もない。
祐巳は優雅に躍って見せたのだ。
聖だけでなく、この場にいる全員が驚いていた。

「ねえ、祐巳ちゃん。祥子と踊ってみたらどうかしら?」

「それいいね。祥子、祐巳ちゃんと踊ってみなよ」

江利子の提案に、聖が乗った。

「わかりました。祐巳、こっちにいらっしゃい」

祥子が祐巳を手招きする。
祐巳が祥子の傍まで行くと、江利子が曲を流し始めた。


「・・・凄いわね」

「ほんと。まさかこれほどまでとは・・・」

「祐巳ちゃんって、一体何者なのかしら」

祐巳と祥子が踊る姿を見ながら、蓉子、聖、江利子は呟いていた。


「祥子さま。ダンスって楽しいですね」

「本当ね。私も知らなかったわ」

微笑み合って踊る二人は、まるで一枚の絵のようだった。






おまけ。


はぁはぁはぁ。
祐巳は走っていた。一刻も早く家に帰るために。

ようやく下駄箱まで辿り着くと、そこには一人の少女が。

「祐巳さん」

その少女は祐巳の名を呼んだ。
祐巳は頭をフル回転させて、少女の名前を思い出そうとする。

「(えーっと、見たことはあるんだけど・・・んー誰だっけ?
あ、そういえば同じクラスだったような・・・えーっと、確か・・・・・・・・・)桂さん!」

「・・・祐巳さん。その間は何かしら?」

「あ、えっと・・・何でもない!何でもない、よ?」

「・・・まぁ、いいわ」

ところで祐巳さん。と、桂は仕切り直すように言った。

「ど、どうしたの?桂さん」

「平凡の代表格であるあなたが、どうして祥子さまの妹に・・・!
一体、何したの?どうやったの?何を使ったの?!教えてっ!!」

桂は必死に祐巳に縋りついた。


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