【No:2619】→【No:2622】→【No:2632】→コレ
番外編と言わざるを得ない。
それはわたし、加藤景が日曜の散歩を楽しんでいる時のことであった。
「あら、貴女達…確か、蓉子さんと江利子さんよね?」
「そんな貴女は加藤さん、で良かったわよね?」
「ごきげんよう。こんなところで奇遇ね」
とある昼下がりの公園で、こんな些細な遭遇は、あったのだった。
「二人で何をしていたのかしら」
目の前にいるのは、あの佐藤さんと並んでリリアンの薔薇さまであった人達。正直あの佐藤さんの友達だと思うと逃げ出したくもなったが、そうもいかずとりあえず軽いジャブを打ってみることにした。
「これよ」
と江利子さんが差し出したのは某電機会社のロゴが入った携帯ゲーム機。江利子さんがイエローで、蓉子さんがレッドカラーだ。
「なかなか逆鱗が手に入んなくってさ。ね、蓉子」
「そうね。紅玉はバンバン出るのに、逆鱗がサッパリってどう言うことかしら」
モン○ンですか。てか日曜日の昼間の公園で何やってんだあんたら。
「そ、そう。ゆっくりしていってね。じゃあ私はこれで…」
「ちょっと待って」
そそくさと去ろうとする私を江利子さんがひきとめた。デコめ、余計な事を。
「加藤さんもやってるそうじゃない、コレ」
「え〜ん〜まあ、一応ね…」
そう、不幸なことにP○Pまで持って来ている。
佐藤さんが、「一緒にやろうよ〜」とうるさくて、半ば無理やり持たされたのだ。最初はあまり乗り気ではなかったのだが、こういった携帯ゲーム機は、ちょっとした時間にプレイできるのでついつい熱が入ってしまっている。
どうやら二人には、佐藤さんから情報が流れていたらしい。
という流れで
「「じゃあ、『一狩り行こうよ』」」
まあそうなるわな。
正直、日曜の昼間から天下の公園で、女子大生三人が携帯ゲーム機を一心不乱にプレイしている図って、どうなのだろう。
かんがえるまでもない。痛い限りだ
しかも、うち二人は凄い美人ときたら、注目を浴びることは必須だ。
「あら、加藤さんだって美人よね、蓉子」
「ええ、聖がいれ込む理由がわかるわ」
あはは、お世辞でもありがとう。
「ところで二人に聞きたいことがあるのだけど」
「何かしら加藤さん」
「最近佐藤さんの姿を見かけないのよね。サボりなんていつものことだけど、今回はいなくなって結構経つから」
「……ああ」
「…………」
「二人なら何か知ってるかと思って」
「……さあ?特に何も聞いていないけど。ねえ蓉子」
「………そうね」
何だその間は。怪しいにも程があるが、蓉子さんの表情に「鬼」がみえたのと、ボタンを押すその指から、打撃音と言うべき音が聞こえてきたので、詮索することは止した。
わざわざ藪を突いて邪神を刺激するべきでは無いだろう。
「そ、そう。おっと、無事討伐出来たみたいね」
画面には、赤い飛竜と碧い飛竜が倒れている。
ゲームの中での二人との相性は悪くない。状態異常を起こす武器で臨機応変に攻め方を変える江利子さんと、蓉子さんの遠距離からの攻撃とアイテムでの後方支援のおかげで安心して攻めていける。
と、突然蓉子さんが倒れている飛竜に対して攻撃を始めた。なんだが表情が尋常じゃないんですけど。
「よ、蓉子さん?もう二匹とも倒したんだけれども……」
「………」
「蓉子さん?」
「何勘違いしてるんだ?!まだ私のバトルフェイズは終わってないぜ!」
何を言い出すんだこの人は?と江利子さんが蓉子さんを後ろから羽交い絞めにして
「もうやめて!とっくにリオレ○スのライフはゼロよ!」
とのたまった。
「HA NA SE !!」
あ、蓉子さんが江利子さんをはねのけた。まだ飛竜への攻撃は続いている。
「言え!聖をどこへやった!」
「何言ってるの蓉子!聖はあんたがマグロ漁船に乗せたんじゃないの!」
なるほど、佐藤さん島流しにされたのね。どうりで見ないわけだ。
「ちょっと!加藤さんも手伝って!蓉子ったら、自分で聖をマグロ漁船に乗せたくせに、時々聖がいないって暴れだすのよ!」
「聖は!どこなんだ〜!!!」
暴れる蓉子さん。阿鼻叫喚の図となった公園に響き渡る叫びを聞きながら、私は思わずこう言ったのだった。
「もうヤダ、おうちかえるぅ…」
日本から遠く離れた海、マグロ百匹を獲るまで日本に帰ることを許されないという制約を親友から課せられた一人の女子大学生は、ただ寡黙に、涙をこらえながらモリをもって海に潜っていたそうな。
……ついカッとなってやった。特に反省はしていない。