祐巳が薔薇の館に入ると。
「ああーッ!もうっ!!」
(由乃……さん?)
「ん!?……祐巳さんか」
(何を怒ってるんだろう?)
「由乃さん?……一体、どうしたの?」
「……祐巳さんなら信用できるか。あのね?」
「うん?」
「私,今は大丈夫だけど前は病気だったじゃない?」
「うん」
そっか、あれから1年以上経つんだ。あの頃は儚げなイメージだったんだけどなあ。今じゃ、ああ!もうっ!だもん。
「祐ー巳ーさん?ちゃんと聞いててよね?」
「えっ?あっ、あああ、うん!聞いてるよ!?」
「そう……?それで体育なんてほとんどやってないから、自分の姿が気になるわけよ?」
「どういうこと?」
「みんなと同じようにやってるつもりだけど。」
由乃さんはそこで一旦区切り。
「ペースはしょうがないとして、歩幅がずれてないか、手の振りはどうか。挙げた手の位置がみんなと同じなのか、首の振りは?靴は何がいいのかしら?アシックス?ナイキ?ダンロップ?色は?紐の結び方は!?体操着のサイズは?着方は?みんな私を見て笑ってない!?ふふふ、由乃さんったら、って!!ああーもうッ!!私はどうしたらいいの!?ねえ!!祐巳さん!!」
「どうしたらって……」
「へ〜え、所詮祐巳さんもそうなんだ?そういうことなんだ?他人事だからってそうやってどうでもいいような面してッ!!あーっ!明日からどうするのよ!!あえてバック走をしてみる!?幅跳びはどうするのっ?右足で踏み切る!?それとも左!?空中で手を振るの?着地は?後ろに手をついちゃってみんな笑わない!?ねえ!祐巳さんっ!!聞いてるの?だって私はあの
ジジジジジジーッ
パンッ!
「……ん?朝……?」
昨日あれから由乃さんの話はどこまで聞いたのだろう?令さまに連れられて帰るまで、私は何をしていたの?私は由乃さんの役に立てたの?立ってなかったらどうしよう?福沢祐巳は他人のことには興味がないってみんな言ってるのかな……。私はどうしたらいいの?教室に入ってまずは何をする?鞄を机に置く?それともそれは座ってから?みんな笑うかな。どっちにしても……。それは私だから笑われるの?志摩子さんは?私を笑う?親友の悩みも聞けないくせに鞄を先に置くなんて、って。じゃあ椅子に座る?私なんかが椅子に座っていいのかな?学校に行っていいのかな……。
今日も一日が始まる