SIDE祐巳っていうのは蛇足みたいなものですので、括弧付きです。短っ
乃梨子編 【No:2672】
本編 【No:2663】→【No:2664】→【No:2665】→【No:2666】→【No:2668】→【No:2669】→【No:2673】
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■■ SIDE アウリエル
あの時私は、全てを話してしまおうとさえ思った。
全てを話して赦しを乞えば、お姉さまならきっと助けてくれる。
そう思ったのだけど、私はすぐに思いなおす。
だって、お姉さままで守れないもの。
ばれた。
とっても素敵なことに、とっても間抜けな風に、ばれた。
今私の目の前にはとても恐ろし――いや、とても綺麗に笑っているお姉さまがいた。
その姿は般若も裸足で逃げ出す事間違いない表情だった。
怖い。
ばれてしまった事に対する恐怖が薄れてしまうくらい、目の前の人が怖い。
とって食われるんじゃなかろうかという恐ろしさ。阿修羅ですか貴女は!
そういう怖い存在は【悪魔】の管轄のはずです!
仮にも天使だった方がこんな殺気を放っていて宜しいのですかっ!
泣きそうだった。
「……ごめん、その報告は明日聞くから、今日はもぅ帰ってください」
「あ、はい……」
使者を帰すと、私はお姉さまの座るソファの前に正座した。
隣でも良かったとは思うけど、……すみません、そんな勇気はありませんでした。
正座して暫く、肩が凝りそうなくらい思い沈黙が続いた。
「で、祐巳はあのアウリエルなのね?」
「……あの、なんて知ってるんですか?」
「ポポに聞いたのよ」
「え?誰」
どうでもいいけど、そのお節介は一体誰なの。
私が【ポポ】で記憶を探ると、あの分身タヌキの記憶で心当たりがあった。
現実逃避の材料としては「ゴロリンって素敵ね…」が丁度良かった。
あのタヌキ……余計な事を……
「祐巳?」
「……お姉さま、この話は無かったことにして頂けませんか?」
「幾ら出す?」
「えっと……300万くらいならすぐ用意できますけど?」
「無理な相談ね」
冗談なんだろうけど……なかなか重いよお姉さま。
忘れてもらうという選択肢はない。忘れさせるという選択肢も拒否。
……どうする?これってどうしたら一番いい選択なんだろう。
「祐巳、私は【本当の事】が知りたいだけなのよ」
「本当の事、ですか?」
「そう」
本当の事……
お姉さまがその昔天使をやっていたとか?しかも■■■■■■■■だったとか?
でも…それを話すなら【前世】の意味とかも話さないといけない。
それは駄目。折角【転生】したのに、余計な事言っちゃだめ。
じゃぁ【お姉さま天使編】は省くとして。
私が天使でアウリエル7代目だって事を話すとしよう。
それで1年くらい前から派遣の仕事で乃梨子とやってきた。完璧だ!
「実を言いますと……天使の仕事で地上に来たのです」
「ふ〜ん。続けて」
「え、えと……リリアン地区を任されたので、リリアンに編入して……」
「続けて」
「だから、その……えと……」
「続きは?」
お姉さま……本当は全部知っているのでは?と言いたい…。
これだけを直感だけで言っているのなら、お姉さまは進化しすぎです。
人間でいてください……。
「……これだけ、ですが?」
「そう。嘘よね」
「くっ」
「続きは?もしかして祐巳、貴女私に隠し事が出来ると思ってるの?」
「め、滅相も無いです、はい…」
「じゃぁ続けて」
怒ってるのは分かるけど、怖いよお姉さまっ!
というかもぅ答え合わせは終わったよ!読者の皆さんだって納得してるよ!
……あああ、そんなに美しい顔で見ないでお姉さま……。
こうなったら仕方ない。
秘儀!居直る!
「い、言えません、お姉さま」
「どうして?」
「言いたくない、からです」
「誰のために?」
「………」
す、鋭すぎる……。その直観力とか少しでも私に恵んでいただけないでしょうか……。
頭を抱えてあーでもないこーでもないと悩む。お姉さまを言い包めるなんて祥子さまでも無理だよ……。
そんな時、ナイスタイミング!と叫びたくなるくらいのナイスタイミングで、夢魔が現れた。
といってもここから3kmほど向こうだけど。
「お姉さま!夢魔が現れたのでちょっと行ってき」
「それは乃梨子ちゃんでは駄目なの?」
「いえ、だい……む、無理ですね!」
「大丈夫と言いかけて直したわよね、今」
「すいませんでした……」
逃げられない。抜き打ちテストの存在を知った直後のような気分だ。
でも……言うわけにはいかない。そもそも言えるわけがないんだよ。
それは私の為でもあるしお姉さまの為でもあるけど、天使の成り立ちを話して良いはずがない。
そんな事をすれば【天使】が増えるし、世界という輪廻は空洞化して壊れてしまう。
「はぁ……お姉さま、忘れていただけませんか?」
「無理よ。正直に話しなさいな」
「………では、仕方ないのですね……」
「?」
嫌だった。お姉さまを人為的に【忘却】させる事なんて。
1つ話せば芋づる状に全てを解き明かされる真理。そしてそれを人間が知る事は、禁忌。
イカロスが太陽に近づきすぎて地に落ちる。あれと原理は同じなのだ。
「では強制的に、忘れていただきます……お姉さま」
私は断腸の思いで、お姉さまの額に手を押し付けた。
お姉さま。大好きです。ずっと。
そして、その日私は、もぅ1人の【お姉さま】を失った。
眠っている【だけ】に見えるお姉さまを抱きしめて、私はまたな涙を流す。
私に泣く資格がないのは分かっている。だけど、今だけだから……。
止まらない涙に既視感を覚えながら、世界の時間は流れていった。
■ ■ ■
私の目の前には、お姉さまが横たわっていた。
頭部や腕部に包帯の巻かれた痛々しい姿で、眠られている。
眠っている?
馬鹿か私は。
私が【眠らせた】んじゃないか。
被害者ぶるものいい加減にしろ。
「ごめんなさい……」
私は私に泣く権利なんてあると思っているのか?
保身的にお姉さまを傷付けたくせに。
偽善でお姉さまを傷付けたくせに。
世界なんていらない?輪廻なんていらない?ただ大切な人を守りたい?笑わせるな。
結局お前がしている事は【天使】として人間を【犠牲】にしただけだろう。
泣くな。
おこがましい。
「…………お姉さま……」
笑え。
「……お姉さま……っ!」
笑え。
謝るな。赦しを乞うな。被害者ぶるな。
私がいくら泣いても事態は変わらない。お前は加害者だ。
「……………………」
祈るな。願うな。嘆くな。
「……………………」
笑え。
「………………お姉さま」
わらえ。
「……………………早く、」
ワラエ。
「早く、起きてくださいね」
何かが壊れた音がして、私の雨はピタリと止んだ。
「ううん、悲しくないよ。だって少しだけ眠ってるだけでしょ?」