「新聞部期待の新人日出実ちゃんと」
「写真部大型ルーキー笙子ちゃんの」
「セクシールーキー対決!」
どうやら次の新聞部の企画らしい。ちなみに上から蔦子さん、真美さん、由乃さんのセリフでだ。正直祐巳はちょっとひいていたが、一応ツッコミを入れてみる。
「…でも二人ともセクシーって感じじゃないと思うけど?」
「美人とかセクシーってのは単なる枕言葉なのよ。決まりごとなんだから気にしてはいけない」
「期待してもいけない」
何故か妙なフォローを入れる蔦子さん。
それにしてもリリアンらしからぬというか、志摩子さんと乃梨子ちゃんも首をかしげている。
「せめて美少女とかなんとか…」
「ランダムなんだからしょうがないでしょっ!」
うわ、由乃さんがキレた。実は気にしてたのか。……っていうかランダムって?
「それとも『宅配便』とか『にんにくパワー』とかの方が良いとでも?」
「に、にんにく……」
「銀杏だったらよかったのにね」
「「「却下!!!」」」
「……」
志摩子さんは少し悲しそうな顔をした。
「わ、私は結構いいと思うな。『銀杏ルーキー対決』って」
乃梨子ちゃん必死のフォロー。でも自分で言ってて辛そうだぞ。志摩子さんはちょっと嬉しそうだけど。
薔薇の館に引っ張り出された主役の二人は少々困惑気味だった。……無理もない。
「えーと、何を対決するんでしょうか?」
笙子ちゃんがおずおずと聞く。
「さあ?」
日出実ちゃんも首をかしげた。
「お姉さまも時々勢いでわけのわからないことしますから……」
「悪かったわね。わけのわからない姉で」
「まあまあ、真美さん。日出実ちゃんもわけわからなくて不安なのよ」
蔦子さんがなだめに入る傍らで、状況把握を諦めたらしい二人の会話が続く。
「上の人がバイタリティに溢れているとついていくのも大変ですよね」
「それが楽しくもあるんですが」
「ええ。わかります」
なにやら意気投合し始めた二人である。
「談笑してるわね」
志摩子さんがポツリと呟く。
「……ダメじゃん」
「何やってるのよ二人とも。人が二人いたら勝負するのが世の習いってものでしょう」
由乃さんは自分基準で考え過ぎだと思います。
「日出実さんはどうして真美さまの妹になったの?」
「うわ、大胆」
ボソリと言ったのは由乃さん。
「…えーと、もともとお姉さまの書く記事に憧れていたし、当然だけど部活動にも理解があるし」
「へえ……」
「日出実ったら何言い出すのよ」
とにやにや笑う蔦子さんと由乃さんに、真美さんが難しい顔をする。
「笙子さんは蔦子さまの妹にはならないの?」
「うわ、直裁過ぎ」
今度は真美さん、もうちょっと遠まわしに聞きなさいとか呟いてる。
「蔦子さまはスールをつくるおつもりが無いみたいなんです」
「ああ」
と頷いたのは蔦子さん以外の全員だった。
「蔦子さまの写真って、本当に素晴らしいんですもの。少しでも近づけたらって……」
「私もお姉さまのような記事を書けるようになりたいですよ。それにあの取材力、調査能力…」
「あ、なんか姉自慢を始めた」
「いや、私は姉じゃないから」
「…記事も取材対象に許可を取ったうえで掲載して、なおかつ一読者として読んでいて面白いですし……」
「…もちろん被写体あってこその写真なんだけど、どうしてあんなに綺麗な一瞬を切り出せるんだろうって…」
「ふむふむ」
「………」
「………」
ガタンッ、と音を立てて真美さんが椅子から立ちあがる。
「こ、この企画は失敗ということで」
「そ、そうね。このくらいにしておきましょうか」
蔦子さんもそれに賛同したのだけれど。
「まあ待ちなさい」
そこへ割って入るのは由乃さん。
「これはあれよ。姉自慢対決! 対決のカタチになってきたじゃない」
凄く楽しそうだ。こういうところは江利子さまに似てる。言ったら怒るだろうから言わないけど。
「だから私は姉じゃないってば」
「あんな仲良さそうじゃ対決にならないし」
「だって、ねえ」
祐巳は由乃さんに視線を向けた。
「照れる真美さんと蔦子さんって、滅多に見れるものじゃないし」
「貴重だわ」
志摩子さんもしみじみ言った。乃梨子ちゃんが志摩子さんに反対するわけもなく。
「それではこの企画は『ルーキーから見たエース達』というタイトルに変更ということで」
「「やめてよ!」」
実は二人とも以外とテレやさんなのかもしれないと思う祐巳だった。