【26】 間違った方向へ復活可南子  (冬馬美好 2005-06-14 18:37:54)


「もう察していらっしゃると思いますが、私、花寺の学園祭の頃まで、祐巳さまに夕子先輩を重ねてたんです」
「うん。・・・・・・でも、幻滅させちゃった」

 可南子ちゃんが求めたものはあまりにも高く、現実の祐巳はそれにまったく追いつかなかったのだ。
 可南子ちゃんは静かにうつむいた後、突然思い出し笑いをした。

「何?」
「祐巳さまは、不思議な例えをなさったことがあったでしょう? 双子の片っぽが火星に行った、みたいなこと。覚えていらっしゃいます?」
「うーん」

 言ったような言わないような。体育祭の前だっただろうか。

「私、それで気が抜けたんです。気が抜けたと同時に、肩の力が抜けたんでしょうね。無理して一人で戦わなくてもいいんだ、って」
「可南子ちゃん・・・・・・」
「ですので、仲間を増やしてみました♪」
「へ?」

 間の抜けた祐巳の声に応じるように、突如茂みの中から数人の生徒が姿を現すと、にまり、と微笑む可南子の許に集合する。

「な、何なの?!」
「紹介します。『祐巳さまは気高き天使じゃなきゃ困るの会』の皆さんです」
「え? え? え?」
「略してYKK」
「いや、略称なんかどうでも良いんだけど・・・ど、どういうつもりなの、可南子ちゃん?!」
「ですからあ・・・」

 大蛇を前にした子ダヌキのようにふるふる怯える祐巳の肩を、がしっ、と掴んだ可南子は、それこそ蛇のようにちろっと舌を出しながら、YKKの皆さんと共に妖しい笑みを浮かべる。

「無理して祐巳さまを独り占めすること無かったんですよ。イエスさまにも十二人の使徒がいたように、祐巳さまもみんなで愛でれば良かったんです。気付くのが遅れました。てへっ♪」
「いや、あの、その、・・・てへっ、とか言われても」
「可南子会長、クラブハウスの空き部屋を確保しました。そこに祐巳さまをお連れ致しましょう」
「そうね。そこでゆっくりと」
「会長て・・・。いや、って言うか、その、空き部屋でゆっくりと、な、な、何をするのかな?」

 肩に置かれた手を振り払い、横目で逃路を確認しながら、じりじりと後退する祐巳であったが、それに合わせ、YKKの包囲網もじわりと狭まっていく。

「もちろん、祐巳さまとお茶会です」
「・・・あ、そ、そう。う、うん、それぐらいなら何時でも付き合・・・」
「お茶会の後は、皆で祐巳さまを撫でたり触ったり揉んだり擦ったり」
「逃げる!」

 可南子の言葉と共に伸びてきたYKKの腕から、だっ、と身を翻した祐巳であったが、逃げる視線の先に見慣れた後輩の姿を認め、「助けて、瞳子ちゃん!」と腰にすがるようにしてその身を隠す。

「・・・何をしていらっしゃるのですか?」
「助けて、瞳子ちゃん! 可南子ちゃんたちが何か変なの!!」
「はあ・・・。まぁ変なのは今に始まった事では」
「そうじゃなくて! とにかく助けて瞳子ちゃん!」

 怪訝な表情を浮かべながらも、祐巳の手を握りながら、追ってきたYKKを、きっ、と睨みつける瞳子の姿に、祐巳は感謝の念と共に安堵の息を吐き、そして・・・僅か数秒の後に絶望する。

『あ、瞳子副会長!!』
「いやあああぁぁっっ!」

 その日から、祐巳は撫でられたり触られたり揉まれたり擦られたりする毎日を過ごすことになってしまったのだが、その所為か皮膚が丈夫になり、風邪とかひかなくなったという。


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